nina「AfterBirth」レポート。YOASOBI「夜に駆ける」MVのアニメーターが油絵にトライした理由とは?

New Galleryのオープニング記念展は、「身体性」をテーマにしたninaによる初個展

nina 撮影:筆者

「アートに存在しうる新しい〈?〉、無限の〈?〉。」をコンセプトに、東京・神田神保町にオープンしたNew Gallery。オープニング記念として初個展「AfterBirth」を開催するのが、YOASOBI「夜に駆ける」Ado「私は最強(ウタ from ONE PIECE FROM RED)」などのミュージックビデオでアニメーションを手がけるほか、ファッションや出版など分野を超えて活躍するninaだ。日常的に手がけているドローイングや、造形師によって自らのデザインを三次元化した立体作品、自身初となる油絵作品も発表した今回の個展は、「身体性」をテーマに企画が進められたという。「完全な生身としての身体であったり、ネイチャーとしての自然を求めているわけではない」と前置きしたうえで、テーマについてninaはこう話す。

「自分自身も小学生の頃からコンピュータを使っていますし、SNSも高校生で始めているので、そうしたことも自分にとっての自然であり、自分の一部だと考えています。いっぽうで、バーチャルやデジタルの世界と自分とを切り離すことはできないけれど、完全にそっちだけの世界に行ってしまうことには抵抗があるし、違和感もある。そうした距離感も含めて、最終的に返ってくるのが身体性であり、『身体を忘れたくない』という思いなのかもしれません」

会場風景より 「アニメーターとして続けてきた過去もきちんと見せたい」という思いから、アニメーション作品はショーウィンドウのように外に向けて展示する 撮影:筆者

会場風景より 撮影:筆者

「身体性」というテーマにもっとも近い表現は自分にとって何か。日々、日記のように続けているドローイングがそれにあたると考えたninaは、まずドローイングを会場奥に展示した。

「自分が取り繕わなくていい瞬間を切り取りたいと思って、音楽を聴きながらそのときの感情を吐き出していくような、トレーニング的なものとして日々ドローイングを描いています。日記のようなものなので、絵を見ただけで描いたときの感情や、その場の空気感などを思い出せるような(モチーフとなっている)子もいます

普段のクライアントワークにおいては、人からどう見えるかを意識して作画を行うことが多く、「カッコつけていく脳みそが鍛えられてしまう」というnina。日々のドローイングによって一度自分に返ってくることができる。自分が外で見たイメージをそのままトレースしてしまってはいないかという、シビアな視点で自己判断を行えるトレーニングにもなっている。

会場風景より 撮影:筆者
会場風景より 撮影:筆者

展示プランを考え始めた段階で、会場中央に設置された立体作品のアイデアも生まれた。ドローイングなどの平面作品が並ぶ空間で、「部屋にいるような感覚になってほしい」という思いから女の子の全身像を作ろうと考えた。

「インターネットで情報を得たり、バーチャルな空間で多くの視線にさらされたりして、体がどんどん重くなって東京の部屋にひとりで閉じこもっている女の子を想像しました。この羽は、羽としては機能していなくて、日々スマホを使って自分の身体が拡張した気でいるけれど、本当は飛べる羽になってはいないことを表しています」

羽の重みに引っ張られたような姿勢で座り、羽の質感からは、骨っぽさや内臓と血管が透けて見るような生々しさも感じさせる。ninaがデジタルで描いた下絵をもとに、京都の造形師とやりとりを重ねながら作品を完成させた。

会場風景より 撮影:筆者
会場風景より 撮影:筆者
会場風景より 撮影:筆者

展示プランで最後に生まれたアイデアが、油彩作品を手がけること。デジタルデータをプリントアウトしてそこにペインティングする技法なども考えたが、「デジタルに囲まれて育ってきたけれど、身体性を忘れたくないという思い」が展示に通ずるテーマだ。よりフィジカルでアナログな画材は何かと考え、油絵具を採用することに決めた。

「完全に初めての経験だったので、1ヶ月ほど前に小さなサイズから試しました。シンプルに言うと、すごく楽しくて、これまでに使ったアクリル絵具や水彩とはまったく感触が違いました。なかなか乾かないので、画面上でずっと構成していくような、ある意味でドローイングに近いかたちでフィックスの完成した画面まで作業できることがすごく心地よかった。1枚目として真ん中の赤い作品を描いたのですが、そこでは最初に鉛筆でかたちをとり、油絵具を載せていきました。それ以外は鉛筆をほぼ使わずに描いています」

会場風景より 撮影:筆者
会場風景より 撮影:筆者
会場風景より 撮影:筆者

ninaは3点組での展示をイメージした。中央の作品の構図が最初に決まると、3人の姿が収まる赤い画面に対し、普段の作品でもよく採用するバストアップの正面を向いた構図の青い作品を次に考えた。そこに対になる構図として、目線がはずれて体の動きも感じさせる黄色い女性を描いた。

「油絵具の発色のよさを活かしたいと思ったので、あまり混色をせずに描きました。デジタルの場合は、発色のよさを考えていくと彩度が高くなり過ぎてしまうことがあるので、彩度を抑えて淡いトーンになることがありますが、油絵具の場合は絵具の発色自体が綺麗で、いやらしさがないので、思い切り描けるのがすごく気持ちよかったです

会場風景より 撮影:筆者
会場風景より 撮影:筆者

今後もクライアントワークとして、ミュージックビデオのアニメーションやファッション関係の制作などにも携わっていきたいというnina。自身初となる個展を開催し、今後の展開にどのような影響が生まれるかを聞くと、最後にこう話してくれた。

「これまではクライアントワークを通して、どんどん自分を外に広げていく活動をしてきました。そうすると、いつの間にか自分のなかに蓄積されてきたものがあって、自分の核のようなものになっているんだと、今回の個展で自分の作品制作に集中することで確信できました。それが、今回の展示テーマになった身体性だと思います。これからクライアントワークを続ける際には、その自分の核となる部分をきちんと意識しながら、さらに広げていけるのではないかと感じています」

自分の立ち戻れる場所としての核があることで、新たな技法や手法に思い切って取り組み、表現の場を拡張していけるに違いない。彼女の今後のさらなる活躍に期待したい。

会場ではシルクスカーフやフィギュア、イラストカードセットやドローイングカードセットなどを販売 撮影:筆者

会場外観 撮影:筆者

nina First Solo Exhibition「AfterBirth」
会場:New Gallery
住所:東京都千代田区神田神保町1-28-1 1階
会期:3月14日(木)~ 4月7日(日)
時間:11:00〜19:00
入場料:無料
ウェブサイト:https://newgallery-tokyo.com/nina/

中島良平

中島良平

なかじま・りょうへい ライター。大学ではフランス文学を専攻し、美学校で写真工房を受講。アートやデザインをはじめ、会社経営から地方創生まであらゆる分野のクリエイションの取材に携わる。