今夏の最も注目された展覧会の一つであろう「ジュリアン・オピー」展。イギリスを代表する現代美術作家ジュリアン・オピーの作品は、日本ではイギリスの人気バンドBlurのアルバムジャケットや、表参道ヒルズオープニング時でのディスプレイで目にしたことがある人も多いのではないかと想像するが、これだけの多くの彼の作品を一度に見ることができる展覧会は、実は今回の水戸芸術館での展示が、アジア初というから見逃せない。

オピーの作品をみていると、究極までに単純化されたフォルムや動きだからこそ、眉や口の端の角度など、ほんの少しの情報からそのキャラクターを特徴づけようとみてしまう。それがもっと単純に、それこそ本当にアウトラインだけになった時は、その上を覆っているもの、例えば着ているもの、手にもっているもの、動き方という情報だけが頼りだ。

LEDによる浮世絵も、よくみれば川面や水草がゆれている。もとの絵がつくられた時代とテーマや描かれるオブジェは似ているし、色使いもそっくりなのに、作品は紙でもないし、写真でもない。動かすことのできるメディアを使用 した「絵」なのだ。つまりそのものを特徴づけるものはすべてテクスチャーによる情報なのだ。これらはすべてオピーによるテクスチャー情報のミキシングであり、冷静なしかけであればあるほど、観るものは彼の作品の表層にみるカワイさ、ポップさの背後から、じんわり薫りだす彼の作品の魅力のひとつであるブキミさを敏感に嗅ぎとるのではないだろうか。
開催期間も残りあとわずか。オピーのしかけを目で確かめ、体感しにいくには、どうやら季節は文句なしのようだ。

Chihiro Murakami
Chihiro Murakami