インゴ・マウラーは、照明器具の原点である電球(タングステン)にはじまり、ハロゲンライトやLEDなど最新のテクノロジーをいち早く取り入れてきており、今回の展覧会はそのままちょっとした照明デザインの歴史を感じさせるものである。しかし注目すべきは、そういったテクノロジーをいち早く取り入れたり、日本の照明に用いられていた紙をランプシェードに用いるなどといった新しい試みが単に奇をてらったものではなく、その特性を最大に引き出しつつ、独創的なデザインへとつながっている点だ。
ハロゲンライトにより可能になった低電圧の設計は、2本のワイヤーの上へ自由に照明器具を配置でき、多彩な空間演出を可能にしたシステム《ヤ・ホ・ホ》を生み出したし、紙をランプシェードに用いた《マモ・ノーチェス》シリーズは、その特性を利用して丁寧に形づくられた襞(ひだ)から、適度に照度の保たれた美しい光が放たれる仕上がりになっている。
著名なデザイナーと言えども、これだけまとまった形で作品を見る機会は少ないと思うので、ぜひとも足を運んでいただきたい。その期待に応えうるだけの多彩な引出しをマウラーは持っている。
Makoto Hashimoto
Makoto Hashimoto