東京文化発信プロジェクトがTABとタイアップしてお届けするシリーズ記事第1弾。
2009年に引き続き開催され70万人(※)を集めた「六本木アートナイト2010」をレポートします! [加賀美 令]
※2日間の全プログラムの延べ観賞者数
六本木の街を舞台にした一夜限りのアートフェスティバル「六本木アートナイト2010」(以降:アートナイト)が、3月27日(土)10時から28日(日)18時にかけて開催された。
主催は、東京都、東京文化発信プロジェクト室、六本木アートナイト実行委員会(国立新美術館、サントリー美術館、東京ミッドタウン、21_21 DESIGN SIGHT、森美術館、森ビル、六本木商店街振興組合)。実行委員長は森美術館の館長、南條史生氏で特別顧問は安藤忠雄氏と森佳子氏だ。
27日の日没(17:58)から28日の日の出(5:32)の時間帯は“コアタイム”とされ、各所でさまざまなプログラムが開催された。多い時には約50ものイベントが同時進行するという賑やかさ。「あれも見たいけれど、これも見たい。全部見たいけれど身体は一つ。」という歯がゆいわくわく感を喚起させられるプログラム構成となっていた。その中からいくつか紹介しておこうと思う。
まず目玉イベントの一つとして、日が暮れ始める夕刻、六本木ヒルズアリーナではアーティストの椿昇による新作インスタレーション「ビフォア・フラワー」がお目見えした。椿は、国際展「横浜トリエンナーレ2001」(2001)で話題を呼んだ全長50mのバッタ(※)など、視覚的にインパクトが強い作品で社会にメッセージを発信してきた。「ビフォア・フラワー」とは地球生物の始祖とされる裸子植物を意味する。メイン作品の「マザーナイト」は、その裸子植物をイメージして制作された作品で、爪の先についているセンサーが、空気中の二酸化炭素を感知して球体中央の画面が変化するという仕組みだ。原始植物をテーマにしながらもどこか近未来的な風貌で体長13mの巨大な姿が立ち上がると、なんだなんだという人だかりでアリーナはいっぱい。お祭り気分に一気に火がついた。さらに、六本木の各所では、裸子植物の「アルゴス」と「ウルモス」から放出された胞子をイメージしたピンクの胞子ボールが計1万5千個配られた。日が沈み暗くなると、ちかちかと点灯する胞子ボールを手にした人たちで溢れかえり、お祭り気分を盛り上げていた。※室井 尚とのコラボレーションにより展開されたプロジェクト「The Insect World」のひとつ
この日だけは森美術館と21_21 DESIGN SIGHTが一晩中開いているというのもアートナイトの大きな魅力の一つだ。その上、国立新美術館では「アーティスト・ファイル2010−現代の作家たち」展が観覧無料(27日のみ)、森美術館では27日24時から翌朝6時までの入館料が500円となるなど嬉しいサービスもあり、普段美術館に足を運ばない人も足を踏み入れるきっかけとなったに違いない。森美術館では、ピーク時で入場までに30分も待つほどの行列ができた。現代アート系の展覧会でこれほどまでの人が押し寄せるというのは、珍しいと言っていいことだ。
一方、街中では「六本木あちこちプロジェクト」と題し、3人のアーティストによる作品がお店のショーウィンドウやエントランス、木陰などに展示された。オリエンテーリングのようにマップ上の目印をたどって作品を見つけた人々が作品前に集まり、わいわいと記念撮影などする姿が見られた。
毛利庭園では、池に浮かんだチェ・ジョンファによる巨大な睡蓮がぱっくりと開いたりしぼんだりする「ロータス」の横で、デンマークのインテリアブランドBoConceptが作成した長いソファに人々が腰掛け、ライトアップされた五分咲きの桜と森タワーを鑑賞するという図。なんと非日常的、まさにアートナイトな光景だ。
アリーナの後方ではYotta Grooveによる派手なデコレーション・カーが横付けされ、焼芋を販売。カリカリに冷えきった空気の中、ちょうどお腹の空く時間帯でもあり、飛ぶように売れていた。また、協賛企業によるドリンクが楽しめる、紫の霧に包まれたラウンジも常に大盛況で、大人の夜の演出に大きく貢献していた。無料シャトルバスの運行や地下鉄の時間延長、駐車場の無料サービスなども行われ、深夜の交通アクセスを助けていた。
こうしてアートな夜は更けていったわけだが、明け方までどの場所も人で溢れ、常にどこかで何かが起こっているという、まさに眠らない/眠れない一夜であった。誌面と身体一つでは足りないためすべてを紹介することができないのが残念なくらいだ。
最低気温が5℃前後という寒さにも関わらず70万人とされる人出は、日本人のアートへの関心の高さと、お祭り好き精神を証明している(六本木という土地柄もあり、もちろん外国人も多く訪れていたが)。そして何よりも、アートをきっかけに夜遊びに集まった人々の熱気に揉まれながら、不況という世相感などどこ吹く風という勢いを感じられた一夜だった。願わくばこれが一夜限りの夢ではなく、不況から脱しつつある東京のエネルギーであると信じたい。いや、そう信じられる何かが確かにあり、白み始めた夜明けに身体の疲れとは裏腹に元気を貰った夜だった。
TABlogライター:加賀美 令 1975年生まれ、東京都在住。大学卒業後、働きながら2005年武蔵野美術大学通信教育課程にて学芸員資格取得。いくつかの展覧会のキュレーションに関わったり展覧会ガイドなどを経験した後、2005年夏よりフルタイムでアートの仕事に従事。他の記事>>