公開日:2022年4月13日

新作多数!「瀬戸内国際芸術祭 2022」春会期レポート:変化する世界に対峙するアートの力

4月14日、日本を代表する芸術祭「瀬戸内国際芸術祭 2022」の春会期がスタート。見どころをいち早くご紹介(新原なりか:文+撮影)

豊島に展示された、ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス《海を夢見る人々の場所》

第1回から一貫して「海の復権」をテーマに掲げ、瀬戸内の島々を舞台に開催されてきた「瀬戸内国際芸術祭」。2010年から3年に1回開催されてきた「瀬戸芸」の5回目が、4月14日に開幕する。前回と同じく今年も春・夏・秋の3つの会期に分けて開催され、通算で約80の新作を含む214作品が展示される。そのなかからいくつかのエリアと見どころを紹介していこう。

フェリーに乗って島めぐりに出発!

小豆島

岡山の宇野港と香川の高松港、双方からの玄関口となっている土庄エリアにある「迷路のまち」には、古くから残る入り組んだ路地がその名の通り迷路のように広がる。その中に新たに登場したのは、日常の風景を特別な場所に変えるしかけを街中にちりばめる土井健史《立入禁止》、人と人のかかわりについて「顔」のモチーフを通してやさしく語りかけるスタシス・エイドリゲヴィチウス《いっしょに/ともだち》、カンボジアのリサイクル店から買い集めたアルミ製品を使って百日紅の木を細部の質感まで写し取ったソピアップ・ピッチ《La dance》の3作品。

展示風景より、土井健史《立入禁止》
展示風景より、スタシス・エイドリゲヴィチウス《いっしょに》
展示風景より、ソピアップ・ピッチ《La dance》

土庄港の「アートノショーターミナル」には、2016年から瀬戸内国際芸術祭に参加してきたコシノジュンコの新作インスタレーションが登場。《POROPORO》と題された本作品は、コシノのデザインしたドレスを3Dスキャンで造形化したもの。日本の提灯の「折る・畳む・重ねる」機能から着想したという。

展示風景より、コシノジュンコ《POROPORO》

市街地から少し離れて三都半島に足を伸ばすと、ダイナミックでありながら穏やかな表情のある作品たちが迎えてくれる。伊東敏光+広島市立大学学術学部有志による《ダイダラウルトラボウ》は、山河を創り出す巨人「ダイダラボウ」の姿を通して、人間の意志とは関係なく動く自然の営為を伝える。その向かいに位置するのは、フリオ・ゴヤ《舟物語》。島で使われなくなった漁船を素材にした作品は、訪れた人がひと休みできるスペースにもなっている。そこから山を降ると現れる尾身大輔 《ヒトクサヤドカリ》は、琉球の創世神話に着想を得た巨大なヤドカリの木彫。古民家を貝殻に見立てた姿がユニークだ。

展示風景より、伊東敏光+広島市立大学学術学部有志による《ダイダラウルトラボウ》
展示風景より、フリオ・ゴヤ《舟物語》
展示風景より、尾身大輔 《ヒトクサヤドカリ》

豊島

内藤礼の作品と西沢立衛による建築が一体となった「豊島美術館」クリスチャン・ボルタンスキーによる「心臓音のアーカイブ」などがある豊島では、島の南側に位置する甲生地区のドンドロ浜に新作が登場。現代美術家と建築家のユニット、ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディスによる《海を夢見る人々の場所》だ。浜の風景に溶け込むようにたたずむ作品はベンチになっており、自由に座って穏やかな海の風景を眺めることができる。豊島にはこのほか、冨安由真による古民家一棟をまるごと使ったインスタレーション《かげたちのみる夢 (Remains of Shadowings)》が夏会期から登場する。

展示風景より、ヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディス《海を夢見る人々の場所》

直島

直島の宮浦地区には、三分一博志による建築プロジェクトの新作《The Naoshima Plan「住」》が登場。直島の土地や集落の綿密なリサーチをもとに、風・水・太陽などの「動く素材」を存分に活かした住空間が設計されている。春会期には建設中の姿を、秋会期には完成した姿を見ることができる。宮浦地区では、元パチンコ店を改装した「宮浦ギャラリー六区」にて展開される、下道基行による調査、収集、展示プロジェクト《瀬戸内「   」資料館》にも注目だ。今回は《瀬戸内「鍰造景」資料館》として、直島でかつて盛んだった銅の精錬の際に出る残滓、鍰(からみ)と島の景観のかかわりを探る。

展示風景より、三分一博志《The Naoshima Plan「住」》
展示風景より、下道基行《宮浦ギャラリー六区│瀬戸内「   」資料館》

ベネッセハウス周辺エリアには、安藤忠雄設計の「ヴァレーギャラリー」がオープン。古来より境界や聖域とされる谷間に祠のようなイメージで建てられたギャラリーの屋外と屋内にまたがって展示されているのは、草間彌生《ナルシスの庭》。屋外には、ギャラリーの建設前からもともとこの場所に展示されていた小沢剛《スラグブッダ88》が静かにたたずむ。このエリアには、「杉本博司ギャラリー 時の回廊」も新しくオープンした。長きに渡って築かれてきた杉本と直島の関係性の集大成とも言えるギャラリーでは、初期の代表作から《硝子の茶室「聞鳥庵」》などの近作までを見ることができる。

草間彌生 ナルシスの庭 1966/2022 Stainless steel spheres Copyright of Yayoi Kusama Photo: Masatomo MORIYAMA
小沢剛 スラグブッダ88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88 体の仏 2006/2022
杉本博司ギャラリー 時の回廊 ラウンジ風景 2022  撮影:森山雅智

宇野港

ランチボックスで腹ごしらえ(宇野港の瀬戸内レストラン BLUNO)

島を巡る前後に立ち寄ることになる宇野港周辺にも、3つの新作が登場した。小さな空き家に遺されたモノたちがゴーストとして再生したかのようなしかけを施した片岡純也+岩竹理恵《赤い家は通信を求む》、46億年の地球の歴史に塩を通して思いを馳せる長谷川仁《時間屋》。そして、40年前に閉院したときからまったく手付かずの状態で保存されていた医院を舞台に、スクラップアンドビルドの現代社会のあり方に疑問を投げかけるかのようなムニール・ファトゥミ《実話に基づく》。

片岡純也+岩竹理恵《赤い家は通信を求む》
長谷川仁《時間屋》
展示風景より、ムニール・ファトゥミ《実話に基づく》
展示風景より、ムニール・ファトゥミ《実話に基づく》

コロナ禍において初めて開催される今回の瀬戸内国際芸術祭。海外に住むアーティストは来日ができず、多くの作品がアーティストと瀬戸内の現地スタッフとのオンラインによる綿密なコミュニケーションによって制作されたという。世界が大きな変わり目に直面している現在、アートの力を信じ続け新たな方法を模索しながら進む瀬戸内のいまを感じることができる芸術祭だと言えるだろう。

宇野港に常設展示されている、淀川テクニック《宇野のチヌ》

新原なりか

新原なりか

にいはら・なりか ライター、編集者。1991年鹿児島県生まれ、京都大学総合人間学部卒。その後、香川(豊島)と東京を経て現在は大阪市在住。美術館スタッフ、ウェブ版「美術手帖」編集アシスタントなどを経てフリーランスに。インタビューを中心とした記事制作、企画・編集、ブックライティング、その他文章にまつわる様々な仕事を行う傍ら、エッセイや短歌の本の自主制作も行う。