公開日:2022年11月17日

展示と新聞で「反戦」「非暴力」の声を届ける。秋田市文化創造館「Summer 2022」レビュー(文:中川千恵子)

新型コロナウイルスの世界的流行、ロシアによるウクライナ侵攻など社会不安が高まるなか、曽根裕の呼びかけをもとに、藤浩志、会田誠ら30名以上が参加する展覧会が、秋田にて2022年10月5日〜10日に開催された。企画・キュレーションは長谷川新、西原珉、Tommy Simoens。十和田市現代美術館の中川千恵子が本展をレビュー。(撮影:坂口聖英)

西原珉の作品 Elephant. Together.

ウクライナ侵攻やパンデミックを受け、アーティストたちの運動が始動

「Summer 2022」は、アーティストの曽根裕が、作家やキュレーターたちに呼びかけ始動した運動だ。ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナウイルスによる世界情勢の変化に対して「反戦」「非暴力」の声を挙げる参加者たちによって、2022年10月、秋田市文化創造館で、5日間だけの展覧会が開催された(*1)。

ヘルト・ロビンス RESET Mobile

同活動の参照となっているのは、1967年に起こったサマー・オブ・ラブ(Summer of Love)である。サンフランシスコのヘイト・アシュベリー地区に、およそ十万人もの若者が集まり、反戦、性の開放、ウーマン・リブなどを声高にさけび、セックスやドラッグ、ロックンロールに興じたカウンターカルチャームーブメントだ。同年は、ビートルズを代表するアルバムがリリースされ、ジミ・ヘンドリックスの伝説的なステージパフォーマンスが行われた、ロックの黄金期でもある。サマー・オブ・ラブは、カルチャーとライフスタイルが、社会運動と強く結びついていた1960年代を象徴する出来事のひとつなのだ。

会場風景より

出展作家は三十数人(オープンに呼びかけたので、参加人数が流動的だったようだ)にも昇り、ロシアによるウクライナ侵攻への反戦の声明だけでなく、時事性のある具体的な社会問題に及んでいたり、個人の体験に基づくものであったり、ステートメントのような形式であったり、ひとりごとのようなテキストであったり、様々な作品が並んだ。すべての作品について言及することができず大変心苦しいのだが、いくつかの作品について紹介したい。

30名以上が参加した展覧会

会場は、秋田市文化創造館の3階のフロア全体だ。エレベーターで向かうと、アーティストであり、同館の館長である藤浩志の作品に出迎えられる。

ラップでぐるぐる巻きにされた大量の人形と、藤の代表的なシリーズである、小さなプラスチックのおもちゃを集めて造形された黒い犬が対峙している作品には、《Pay Back》というタイトルが付けられている。黒い犬は権力、大量のポポちゃんという知育人形は群衆という明快な対立構造が見て取れるが、「Pay Back(報復する)」というタイトルが示すように、この二項対立は、簡単に逆転してしまう可能性を孕んでいる。

藤浩志 Pay Back
藤浩志 Pay Back

荒木悠の作品は、自身のメールアドレスに宛てられたスパムメールをプリントアウトしたものだ。先の長くない老人や亡命中の人物から、数千万円の遺産を相続したいので振り込み先を教えてくれとか、資金を元に投資計画に便乗しないかといった、誰もが一度は受け取ったことのある内容だ。2022年4月に荒木に届いたのは、プーチンへの対抗勢力として幽閉されようとしているロシア人からで、ウクライナの人々を助けるために、トルコの口座にある資金を移動してほしいというメールだ。ロシアの侵攻当初、ウクライナ政府だけでなく、ウクライナの市民団体や、援助活動をしている個人が、SNSを駆使して寄付を募っていた。本来ならばワンクリックでゴミ箱に捨ててしまえるはずのスパムメールが現実味を帯びてしまう世界の狂気が、ユーモラスながらも簡潔に示されている。

本展では、同名の新聞「Summer 2022」が配布されていた。インディペンデント・キュレーターの居原田遥は、「平和と呼ぶには遠く 歴史にするには早く」というバンド・MONGOL 800の歌詞の一文をタイトルにした寄稿文を寄せている。日本にとっていちばん近い戦争である第二次世界大戦を歴史化してしまわないことを呼びかけつつ、居原田は、自身が親しいミャンマーで、沈静する気配のない国軍と抵抗勢力の内戦について言及しながら、日本社会で暮らす人々に問いかける。「さて、この日本社会で、反戦や平和を願う意志を表現するのに、躊躇う理由はあるのだろうか。(...)」

新聞「Summer 2022」

企画者のひとりである西原珉は、友人であり、ソーシャルワーカーとして活動している香港出身の中国系アメリカ人女性から譲り受けた自由の女神像を、花で装飾し、展示した。1989年6月4日、北京の天安門広場に集まっていた民主化を求める若者たちを武力弾圧した天安門事件では、広場に持ち込まれた高さ9mの自由の女神の塑像も破壊されてしまった。現在でも天安門事件を象徴する記念像として、そのレプリカが、民主化の意思を引き継ぐ人々に用いられているという(*2)。

西原珉 Elephant. Together.

岩井成昭が出展した《The Point of No Return》は、女性たちが「Home」という看板を掲げてヒッチハイクをしているように見える写真のシリーズだ。撮影地がどこなのかが分からなくても、巨大な施設が、電力や燃料に関係したものだと検討がつくだろう。秋田県に点在する発電所、石油発掘現場、鉱山跡などをバックに「Home」を探す女性たちの像は、これらの施設が製造する燃料がどこにたどり着くのかを問いかけるメタファーなのだろうか。

岩井成昭 The Point of No Return

ワンタニー・シリパッタナーナンタクーンの作品は、作家が飼っている「ボイス」と名付けられたヨウム(インコ科の鳥類)が繰り返す発言をとらえた映像作品だ。ボイスの名前の由来であるヨーゼフ・ボイスが残した「Everyone is an artist.(すべての人は芸術家である。)」という言葉がある。あらゆる人々が創造性をもって社会を彫刻することが、抑圧的な社会体制を解体する唯一の方法だという思想に基づいたものだ。作家は、この言葉をもじり、「Everyone is contemporary artist. (みんな現代アーティストです。)」という言葉をヨウムのボイスに教える。繰り返しているうちに、「Everyone is temporary artist.(みんな仮初めのアーティストです。)」とconを脱落させてしまったり、言い損じていく様子が捕らえられている。

ワンタニー・シリパッタナーナンタクーン Everyone is ...

展覧会に出展した作家たちや、鑑賞者である私たちの唯一の共通点は、「contemporary (同時代)」に存在していることだ。しかし、そのことは、私たちが同じ体験をしていること、すなわちひとつの物事を同じ観点や立場から見ていることすら担保しない。雑然としてさえいる参加者の声の多様さが、それを物語っている。1967年の夏から55年が経過し、現在のアーティストたちの関心は、反戦やウーマン・リブに留まらない。特に近年は、身体や精神のありかたが既存のホモソーシャルな社会の枠組みに当てはまらないため、困難な状況にある人々の存在が議論の俎上に載せられるようになった。60年代後半のムーブメントを体験していない世代も多く出展したこの運動で、サマー・オブ・ラブから何を継承し、どのようにコンテンポラリーの状況に接続していくのか。今後の運動の動向を注視したい。

*1——本運動に関連する展覧会として、2022年9月21日〜10月15日に開催された、会田誠と曽根裕による「〜侵攻の記憶」(ミヅマアートギャラリー)が挙げられる。
*2——『集う人々・世界×文化(11)天安門広場という政治装置』秋田魁新報、 2022年8月19日 https://www.sakigake.jp/news/article/20220819AK0021/(最終確認:2022年11月1日)

中川千恵子

中川千恵子

なかがわ・ちえこ 十和田市現代美術館アシスタント・キュレーター。パリ第8大学造形芸術学科現代美術メディエーションコース修士課程修了。2019年より現職。2019年より現職。担当した主な展示・展覧会に、「インター+プレイ」展第2期(トマス・サラセーノ、2022)、 レアンドロ・エルリッヒ《建物―ブエノスアイレス》(2021)、「大岩雄典 渦中のP」(2022)。