左から、ルネ・マグリット《王様の美術館》(1966)、ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》(1956)
溶ける時計。宙に浮く石。目を欺くトリック。サルバドール・ダリやルネ・マグリットの名とともに、「シュール=現実離れした奇妙さ」を思い浮かべる人も少なくないだろう。しかし、シュルレアリスムはたんなる一時の流行ではない。第一次世界大戦後の価値観の崩壊を背景に、芸術の内部にとどまらず、社会や日常の見え方そのものを揺さぶっていった運動だった。
大阪中之島美術館で開幕した「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」は、その“拡大”を、言葉どおり視覚化していく展覧会だ。
はじめは少数の詩人や芸術家の集まりから始まったシュルレアリスムは、文学運動として雑誌や展覧会を通じて広がり、広告やファッション、インテリアへと浸透していった。本展もオブジェ、絵画、写真、広告、ファッション、インテリアという構成を通じて、芸術運動が社会や日常へ拡張していく過程を描き出している。
本展では、入口にプロローグを設け、鑑賞者が感覚的にシュルレアリスムの世界へ没入できる構成となっている。主任学芸員の國井彩は、日本語の「シュール」という言葉から想起されるイメージと、本来のシュルレアリスムとのズレを、まず体験として感じてほしいと語る。アーチ状の入口をくぐると第1章「オブジェ」が始まり、鑑賞者は主観から離れてオブジェ(物)を見るという、シュルレアリスムの思考へと導かれていく。
