公開日:2026年7月21日

孤高の画家の実像と、光と闇の写実に迫る。「没後50年 髙島野十郎展」(渋谷区立松濤美術館)をレポート

「蝋燭」「月」を主題にした作品をはじめ、初公開作品や関連資料を含む約170点を展示。仏教思想、滞欧期、人間関係から髙島野十郎の全貌をたどる

会場風景より、高島野十郎《桃とすもも》(1961)個人蔵

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髙島野十郎とは誰か

20世紀の洋画を代表する画家・髙島野十郎(1890〜1975)の過去最大規模の回顧展「没後50年 髙島野十郎展」が、東京・渋谷区立松濤美術館で開催されている。会期は7月4日〜9月6日。

髙島野十郎は福岡県に生まれ、東京帝国大学(現・東京大学)農学部水産学科を首席で卒業しながらも画家の道を選び、独学で絵を学んだ。特定の美術団体に属さず、流行や時代に迎合することなく、自らの理想と信念に忠実であろうとした画家だ。

本展は全4章で構成され、野十郎の画業や人間関係、滞欧経験、仏教思想との関わりをたどりながら、孤高の画家」として語られてきたその人物像を多角的に見直す。「蝋燭」や「月」を主題とした代表作に加え、初公開作品、青木繁、坂本繁二郎、岸田劉生ら関連作家の作品、関係資料など約170点を展示する。

渋谷区松濤美術館 内観

渋谷区立松濤美術館が本展の会場となったことも偶然ではない。野十郎は、晩年に千葉県柏市へ移る以前、留学や帰郷の時期を挟みながら、東京の渋谷や青山にアトリエを構えていた。渋谷駅から松濤美術館へ歩き、展覧会を見終えたあとに渋谷や青山を巡れば、野十郎がかつて過ごした土地の気配と、展示された作品とのあいだに新たなつながりを見出すことができるだろう。

会場風景

野十郎の画業が広く知られるようになったのは、彼の死後約10年を経た1986年。福岡県立美術館で初の本格的な回顧展「写実にかけた孤独の画境 髙島野十郎展」が開催され、その精緻な写実表現が大きな反響を呼んだ。以来、いくつかの展覧会や書籍で紹介されてきたとはいえ、その全貌が十分に知られてきたとは言いがたい。本展は、野十郎という人物と作品をあらためて概観する機会となる。

野十郎は1890年、現在の福岡県久留米市の酒造家に生まれた。生涯独身を貫き、東京の渋谷や青山で長い時間を過ごしたのち、70歳を過ぎて千葉県柏市の田園地帯に移り住む。そこに水道も電気もない小さなアトリエを建て、1975年に85歳で亡くなった。

会場風景より、高島野十郎《絡子をかけたる自画像》(1920)福岡県立美術館

野十郎は、静物や風景を中心に、精緻な写実を一貫して追求した。初期から晩年まで数多くの作品を描いたが、その写実には独自の仏教的理念が含まれている。対象を細部まで見つめ、画布に定着させる行為は、野十郎にとってたんなる再現ではなく、世界のありように向き合う実践でもあった。

会場風景より、高島野十郎《桃とすもも》(1961)個人蔵
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