
ウルス・フィッシャー
等身大よりも少し大きな人物像を蝋で制作した「キャンドル・ポートレート」で知られる、スイス・チューリッヒ出身のアーティスト、ウルス・フィッシャー。その個展「間違い探し - Spot the Difference」が、東京・表参道のファーガス・マカフリー 東京で7月5日まで開催されている(6月7日より日曜も開廊)。
本展の中核をなすのは、作家自身の姿を蝋でかたどった2点の同一の彫刻だ。会期初日、向かい合ったふたつの人物像に火が灯され、会期終了までの約3ヶ月のあいだ、少しずつ溶けながらその姿を変えていく。また地階では、床と壁の境界が曖昧になった没入感のあるインスタレーションを展開し、こちらでも「間違い探し」を思わせる空間が広がっている。ユーモラスな手法を通して自己をめぐる哲学的な問いを投げかけ、永続性と一時性、精神と身体、真実と欺瞞といった相反する概念を探求してきたフィッシャー。本稿では、「キャンドル・ポートレート」の日本初公開となった本展の様子を、作家の言葉とともにレポートする。【Tokyo Art Beat】
ファーガス・マカフリー東京で「間違い探し」と題する個展が開催中のウルス・フィッシャー。展覧会は、自身をかたどり拡大した彫刻作品《Mirror》を展示する1階と、床の模様を壁全体に転写したインスタレーションを展開する地下の2スペースで構成されている。

「鏡のようにまったく同じサイズの部屋がふたつ並ぶこのギャラリーの建築的な特徴にインスパイアされて、この作品を制作した」と、彫刻作品《Mirror》についてフィッシャーは話す。ふたつの展示室を隔てる壁に開口部を設け、左右反転するかたちで作家自身の姿をした2体の彫刻作品が向かい合う。アーティストの代表作である「キャンドル・ポートレート」のひとつであり、素材は蝋。個展の初日に頭頂部の芯に火が灯され、会期を通じてそれぞれが火の揺らめきとともに溶解していく。鏡写しになった2体がそれぞれのペースで溶け、異なるかたちになっていくわけだが、素材に蝋を用いたのは、かたちを留めることなく溶けていく様子に存在の儚さを込めているからだろうか。

「『儚さ』もあるかもしれないが、たくさんの理由が含まれている。造形しやすい素材だという実用的な理由もあるし、蝋はとても軽く見える素材でもある。石の彫刻のように重要さを主張することなく、軽快に見える素材としても適していた。それと、『儚さ』と表現したけれど、より即物的な『一時的なもの』であるという感覚のほうが近いかもしれない。そこにずっと存在する必要がない、テンポラリーな作品とでも言えるかな。キャンドルの芯に火を灯せば作品は溶け出し、私が作ったかたちと自然が生み出すかたちとが組み合わさっていく。その一連のプロセスも含めて作品になっているんだ」

