公開日:2025年12月18日

バディの物語は終わらない──『ズートピア2』が描く新しいパートナーシップの在り方と入植者植民地主義(評:中村香住)

大人気アニメーション『ズートピア』の第2弾がいよいよ公開!『ズートピア2』の魅力に迫る。

『ズートピア2』 © 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

公開当時、メガヒットを飛ばした『ズートピア』(2016)は、全世界で記録的な興行収入を収めた。多くの観客の心を掴んだ理由は、ヒットの規模だけではない。前作が描いたのは、「多様性」という言葉の裏にある、決してきれいごとだけではない現実だった。誰のなかにも、差別意識や偏見は存在する。しかしそれらは、自分自身と向き合い、他者と関わる経験を重ねることで、少しずつ変えていくことができる。『ズートピア』は、自分と他者の違いを認め、互いに尊重し合うことが、個人だけでなく社会全体をより豊かにするのだと示した作品だった。

そして待望の『ズートピア2』は、全米で再び大きな成功を収め、豪華声優陣の続投や新たな参加も話題を集めている。続編は私たちに何を届けようとしているのか。ニックとジュディのパートナーシップは、どのように描き直されるのか。社会学者・中村香住の視点を手がかりに、『ズートピア2』が描こうとする世界を読み解いていく。【Tokyo Art Beat】

 *本記事は、映画の内容に関わる記述を含みます。ネタバレを気にする読者の方は、映画の鑑賞後にお読みになられることをおすすめします。

『ズートピア2』ポスター © 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights

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違いを認めあう、パートナーシップの在り方

ディズニー映画『ズートピア』では、様々な動物たちが共存するズートピアという場所が描かれ、ズートピア史上初のウサギの警官・ジュディと詐欺師のキツネ・ニックが協力して事件を解決した。ニックはその業績によって正式にズートピア警察の警察官になる。『ズートピア2』はその世界観を引き継ぎ、ズートピア誕生の謎に迫りつつ、ニックとジュディのパートナーシップも深化させている。

今作のキーワードをひとつ挙げるとすれば、「違い(difference)」とその受容ということになるだろう。今作は様々な基準での「違い」を描き、それを認め合うことの重要性をテーマとしている。映画の最初のほうで登場するズートピア市制100周年記念の新市長ウィンドダンサーのスピーチでも、ともに住む動物同士の違いとその受容の重要性について触れられていた。また、今作でジュディとニックは何度か“Agree to disagree”(同意しないということに同意する)という台詞を発する。これは、違いを認めたうえで、そのことをネガティブにとらえず、意見の相違として整理する言葉でもある。

『ズートピア2』 © 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

いっぽう、“be on the same page”(同じ認識を持つ)という言葉も頻出する。これは、ボゴ署長が警察官たちに対して、事件をうまく解決するにはバディ同士が同じ認識を持っている必要がある旨を話したところに端を発する言葉だ。ズートピア警察のボゴ署長は、ジュディとニックを「危機に瀕したパートナー」(Partners in Crisis)セラピーへと送るが、そこに来ているのは種族や体格が異なる動物同士がバディになっているケースのパートナーばかりである。ヘッド・オブ・アニメーションのチャド・セラーズが言うには、「ここではあえて“類似は成功を生み、違いは失敗を生む”という考え方を視覚的に見せました」(『ズートピア2』パンフレットより)とのことだ。それに対して、今作のテーマである「違いは存在してもよくて、むしろ違いを認め合うことでうまくいくのだ」というテーゼは、パートナーがうまくいくには、“be on the same page”でなければならないと言うありふれた考えに対して挑戦していると言えるだろう。

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