公開日:2019年11月19日

自然美を逆説的に描き出す DIESEL ART GALLERYで世界初個展開催中! MAD DOG JONES インタビュー

日本のアニメやSF映画、サイバーパンクからインスピレーションを受けた世界観を細密に描くビジュアルアーティスト

11月14日(木)まで、DIESEL ART GALLERYでカナダ・トロント出身のビジュアルアーティスト、MAD DOG JONES (マッド・ドッグ・ジョーンズ)の世界初個展「AFTERL-IFE WORLD」が開催されている。日本のアニメやSF映画、サイバーパンクからインスピレーションを受け、自然美を逆説的に表現した作品を生み出している彼に、作品や展示について話を聞いた。

《Citrus》 2019

「MAD DOG JONES」とは?

殺伐としたビル群の前にたたずみ、こちらに視線を投げかける人物。オレンジや赤を基調としたネオンカラーで統一された画面は、見たことがあるけれど知らない別世界のように思える。この作品を描いたのは、ミュージシャンとしての顔を持ち、2017年に活動を開始したアーティストMAD DOG JONESだ。インスタグラムで作品の発表を始めると、その表現が話題となり、瞬く間に注目を集めた。

「単純に描くことが好きで、ずっと前から個人的に作品を作っていました。音楽活動の一環でカナダとアメリカの各地にツアーしたあとの休暇中に、まるで何かに引き寄せられるように、アーティストとして本格的に活動したいと思うようになりました」

これまでは作品の発表の場をインスタグラムに限定していたが、今回の個展はMAD DOG JONESの世界観を実際に間近で感じられる貴重な機会となる。

MAD DOG JONES
MAD DOG JONES
Photo: Xin Tahara

MAD DOG JONESの作風はアニメーションの影響を強く受けており、高い描写力を駆使して細密に描く。実際に存在しているのではないかと思えるほど作り込まれた画面は、その精巧さゆえにどこか現実感を失っているように感じられるほどだ。
もともとアニメーション全体に興味を持っており、若いときに住んでいたカナダの小さな町で、日本のアニメ作品にも触れる機会があったという。

「若いときにある映画祭で見た『もののけ姫』に衝撃を受けてから、アニメの世界が目の前に広がりました。ほかにも『AKIRA』や『攻殻機動隊』、『らんま1/2』、『空想科学世界ガリバーボーイ』などを、興味深く見て吸収しました」

制作方法は、まず多数の写真を撮影し、コンピュータ上で遠近などを考えながらコラージュするように配置する。さらに自分で描いた人物などを入れ込み、新たな世界観を持ったビジュアルを作り出す。細かな描写と豊かな色彩のアートワークは、1枚につき60~70時間ほどの作業時間がかかるという。

「街路樹の葉を一枚一枚細密に描く工程が非常に楽しかったです。かなり細かく描き込み、こだわって色を塗るので、いつも腕がつるほど痛くなります」

《No Reply》 2018

人間と自然は対になる存在ではない

MAD DOG JONESは、故郷であるカナダの大自然をクリエーション源にしている。しかし実際に描かれているのは、東京を思わせる都会の街並みや、建物に囲まれた眺めが見渡せる部屋などの人工的な環境だ。

「都市と大自然は深いところでつながっている。人工物も自然と同じようなものだと考えています。人間が作った都市は、アリが作った巣と同じようなもの。人間もほかの動物と同じように自然の一部なのです。『人間と自然』のように対になるものだとは思っていません」

都会の環境のなかで織り成された自然が、ビル群や電線、ネオンの看板なのである。しかし、殺伐とした本物の都会と違ってどこか親密さを感じられるのは、柑橘系のネオンカラーで着色されたことによる効果だろうか。彼は色の理由を次のように語る。

「私にとって、電信柱をつなぐ電線と木の枝は、同じもののように見えます。山に登っているときと都会の階段を上っているときは、同じような気持ちになります。ただ、その二つの世界は別の色に包まれているという感覚があります。
《”I’m sure the cat’s fine.”》では、自然物である街路樹の葉を街灯が照らし、新たな暖色系の色を与えています。《Citrus》では、人工的なレンガ造りの建物の照明が辺りの色相を変えています。葉とレンガが並行なものであることを強調しています」

退廃したイメージを描く理由について

夜の暗闇をかき消すように光るネオンサインや、空が見えなくなるほど高い建物ばかりの街、散乱した部屋など、どの作品も退廃的な雰囲気が漂う都会のイメージが描かれている。

「自分の健康や精神によくないとわかっていてもやってしまう。人間にはそういったところがあり、それを表現したかったのです。例えば《Autoprocessing》は、悲しさと汚れが混ざった状況を描いています。悲しさに陥って、自分にとって何がいいのか、何が健康的なのか、何がふさわしいのかを見失っています」

血のようなものが飛び散り、墨色の涙を流す招き猫のいる室内で、自分の顔や虫が浮いた毒々しいラーメンを食べている場面が描かれている。机の上に置かれた紙幣の数字はすべてゼロで、この状態に「価値がない」ということが示唆されている。

「自分のことだけを考えている状況を描いた《Self-Care》という作品もあります。こちらは女性がおいしそうなエビのラーメンを食べています。ラーメンの中には彼氏の目玉が入っていて、彼氏なんてどうでもいいと思っている。二つの作品の背景は対になっており、物語があります。

ほかに、ある瞬間をポーズしたような実存主義的な作品もあります。今この瞬間しかない刹那を生きているだけ。ストーリーがないものを中心に描いている作品もあります」

《Self-Care》 2018
《Self-Care》 2018
Photo: Xin Tahara

重層的な経験を生むインスタレーション

ギャラリーの天井には、半透明のカラープレートとネオンカラーの照明がいくつも吊るされている。MAD DOG JONESの作品世界のような色の光が空間全体に広がり、作品を染め上げている。

カラープレートを覗き見ると、ハーフミラーのように向こう側にある作品が透けて見える。同時にそこには自分が映り込み、さらに後ろの壁にある作品がリフレクションする仕掛けになっている。

「それぞれの作品にはレイヤーがあり、重層的な構造になっています。《Dream Sequencing》のように、どんな人もそこにいるけどいないような、半透明な存在になりたいという願望を持っているのではないでしょうか。並行現実とも言うかもしれないけれど、別の次元に存在しているリアリティが混じり合うような関係性も表現したかった。
ある意味、リミックスという言葉をとおして考えればいいかもしれないですね。ギャラリー内を歩きまわることで、まわりの環境も含めて、作品と観賞者の関係がさらに重層的に変わります。自分の動きを通して新たにリミックスを楽しめる。存在や関係性の変化を観賞者に味わってほしかったのです」

Photo: Xin Tahara

タイトル「AFTERL-IFE」に込めた意味

展覧会のタイトルである「AFTERL-IFE」はMAD DOG JONESの造語であり、不自然な位置につけられた「−(ハイフン)」は、多忙な日常生活の予期せぬ「ひと休み」を意味しているという。「AFTER LIFE」には死後の世界などの意味があるが、なぜこのタイトルを選んだのだろうか。

「展示されているTシャツを見てほしい。『AFTERL-IFE WORLD TOUR』と書かれています。その下にある場所と数字は、過去や未来の重要なポイントです。キリストの生まれた日、マリー・アントワネットが処刑された日、自分や友人の誕生日、有名なコンサートが行われた日など。

人間の人生は一本の線として考えることが普通なのかもしれないけれど、ある分岐点で、もう一本隣りにある線を進むのではないかと考えています。死んでからの人生はまっすぐかもしれないし、一歩左を進んでいくかもしれない。過去にひとつでも違うことが起きていたら、今の自分の人生とは別の方向に完全に変わってしまうかもしれない。過去と現在と未来のイベントの関係性について、別の方向から考え直してほしいという個展を作りたかったのです」

Photo: Xin Tahara

■ME IN THE AFTERL-IFE WORLD CHALLENGE
あなたの写真がMAD DOG JONESの作品に
インスタグラムで世界中にフィーチャーされるチャンス

応募方法:DIESEL ART GALLERY内に展示されているヘルメットまたはベストと一緒に、ご自身のカメラで 写真撮影ください。(ヘルメットは手持ちも可) 
MAD DOG JONESのインスタグラムアカウント(@mad.dog.jones)をフォローし、撮影した写真を 「#afterlifeworld」と「#dieselartgallery」の2つのハッシュタグをタグ付けし投稿ください。
応募期間:2019年8月30日(金) 〜 10月15日(火)
選考:期間中に応募された写真の中から3点を選出し、MAD DOG JONESの作品制作に使用します。
発表:2019年11月上旬 

■展示概要
タイトル:AFTERL-IFE WORLD (アフターライフ・ワールド)
アーティスト:MAD DOG JONES (マッド・ドッグ・ジョーンズ)
キュレーター:ジョーダン・A.Y.・スミス
インスタレーション設計:株式会社心電

会期:2019年8月30日(金) ~ 11月14日(木)
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号:03-6427-5955
開館時間:11:30 〜 21:00
休館日:不定休
ウェブサイト:https://www.diesel.co.jp/art/mad_dog_jones/

Kyo Yoshida

Kyo Yoshida

東京都生まれ。2016年より出版社やアートメディアでライター/編集として活動。