差別が呼ぶ悲劇に声を上げたアート界:これは「アメリカの黒人差別」という限定的な問題なのか

#BlackOutTuesdayや#BlackLivesMatterに賛同する、アート界の動向を追う

In Main Article 1 特集記事 by Mei F. Tokyo 2020-06-03

アメリカで黒人男性のジョージ・フロイドが警官により不当に殺害された事件を受け、全米で大規模なデモ活動が起こっている。SNSでも広がりを見せている抗議運動「#BlackOutTuesday」や「#BlackLivesMatter」に賛同する、様々なアート界の動向を追った。

5月25日、アメリカのミネソタ州ミネアポリスにて、46歳の黒人男性ジョージ・フロイドが、警官のデレック・チョーヴィンにより殺害された。

発端は、フロイドが食料品店で偽造20ドル札を使用した疑いがあるとして店舗スタッフが通報。駆けつけた警官たちが職務質問のため、パトカーへ同乗することを促したところフロイドは「閉所恐怖症」であることから乗車を拒否。警官はこれを抵抗とみなし、非武装のフロイドに手錠をかけ道路に押し付けた。8分46秒にわたって警官の膝により強く押さえつけられたフロイドは「息ができない」と何度も訴えたのちに、その場で窒息死。チョーヴィンは懲戒免職となり、第3級殺人罪などで起訴されたものの、遺族はより重い第1級殺人罪の適用と、立ち会った警官らの逮捕を望んでいる。

警官による不当な市民の殺害に、現在もアメリカ全土で抗議デモが続いている。そしてアート界も例外ではない。アーティストやミュージアム関係者が作品制作やSNSなどを通じた運動「#BlackLivesMatter」に賛同。多くの声明を出している。

まずは、フロイドの死を悼む祭壇の街となったミネアポリス。事件現場の食料品店の壁に、アーティストのカデックス・エレラ、グレタ・マクレイン、ジーナ・ゴールドマンの3人がフロイドをモデルに壁画を制作。壁画の背景には、警察に不当に殺害された黒人たちの名前が記されている。本作について3名は「彼の名前が記憶されるようにしたかった」「被害を受けた黒人の名前をすべて書くには、壁の面積が小さすぎた。これは、アメリカについてよく物語っている」と語った。

壁画は、完成後数日でフロイド追悼の象徴となり、現場には花や「Black Lives Matter」と書かれた看板などが集まり続けている。アメリカ前大統領であるバラク・オバマはウェブサイト「Medium」でこの壁画の画像を使用し、現在の運動を真の変革にしていくための考えをまとめた記事を投稿した。
「How to Make this Moment the Turning Point for Real Change」by Barack Obama

では、アメリカの各ミュージアムはどのように賛同しているのか。

メトロポリタン美術館はSNSを通じ、フロイドの死を追悼。さらに、美術館スタッフに宛てたという手紙を公開。手紙には、黒人コミュニティとの連帯と、コレクションや展示を通して多様化を重視することを再確認するメッセージが書かれている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)はSNSの投稿で、フロイドをはじめ、警察官によって殺害されてきた黒人の名前を挙げ追悼し、悲しみを共有した。

グッゲンハイム美術館は、美術館設立背景と立場を再確認する投稿をSNS上に共有。アートが持つ変革的な力という信念のもとに設立され、歴史の中でアーティストが政治的・社会的危機の時代に応じ集団的トラウマを表現し、問題に立ち向かってきたことを記した。

同美術館はあわせて、1963年にアラバマ州バーミンガムの教会の爆破により黒人少女4人が殺害され、後日黒人少年2人も殺害された凄惨な事件を想起させる、写真家のダウード・ベイによるシリーズ「バーミンガム ・プロジェクト」(2012)を紹介。1963年に殺害された被害者と同い年の若者の写真と、被害者が生きていれば同い年になるはずだった大人の写真が並置されたこのシリーズは、事件によって失われた命を思い起こさせ、この50年間に「人種」に対する社会的態度は変化してきたのかを問うている。

ホイットニー美術館は、事件に対する悲痛な思いを表すとともに、作家のドレッド・スコットが2015年に発表した《A Man Was Lynched By Police Yesterday》を紹介。本作は、1920〜38年、黒人がリンチされる事件のたびに全米有色人種地位向上協議会(NAACP)本部が「昨日、ある人がリンチされた(A man was linched yesterday)」と書かれた旗を掲げていたことから発想。2015年、非武装の黒人男性ウォルター・スコットが警察に背中を撃たれ殺害されたことを受け、「警察によって(by police)」の文言を加えることで、作家はいまだに衰えない黒人に対する国家による暴力の存在を訴えた。

シカゴ美術館では、1979年に亡くなった作家チャールズ・ホワイトの作品と作家の言葉を投稿。「アートは闘争のために不可欠な一部でなくてはならない。それは単に、出来事を映し出すだけではできない。人間のニーズに応じてアートは適応していかなければならない。自由と解放の力と協力しなければならない。事実、アーティストはいつもプロパガンディストでありつづけている。闘争と自分を切り離すアーティストに私は用はない」という作家の言葉に基づき、美術館と闘争を切り離すことはできないと述べ、差別に立ち向かう姿勢を示した。

国立学術文化研究機関「スミソニアン」は事件を受け、「人種」に関する国民の会話を広げるためのオンライン・ポータルサイト「Talking About Race」を新たに開設。ビデオ、学術的な記事、質問、その他100以上のマルチメディア資料を提供し、「人種」の差別とアイデンティティを掘り下げていく試みを行なっている。

その他、ボストン美術館J・ポール・ゲティ美術館ブロンクス美術館イサム・ノグチ庭園美術館など多くの博物館・美術館に加え、デイヴィッド・ツヴィルナーハウザー&ワースなどのギャラリーも事件を悲嘆し、長きにわたる人種差別を批判、多様性を認める社会のため従事することを示した。

個人では、キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストも、黒背景に白字で「BLACK LIVES MATTER」と書かれた画像をInstagram上に投稿。反人種差別に関するリソースがまとめられたサイトと、黒人解放のために活動する団体リストを共有した。

アーティストのジャミー・ホームズはフロイドが残した最後の言葉「彼らは私を殺そうとしている(They’re going to kill me)」と記されたバナーを飛行機に載せ、5都市の上空で空中デモを行った。自身のウェブサイトでは、抗議者を支援するための嘆願書や擁護団体などへのリンクを掲載した声明全文を公開。

また、人種差別への抗議運動はアメリカの外へも。イタリア拠点イラストレーターのアンジェロ・ルタは、自由の女神が膝で押さえつけられているイラストを公開し、日本では映像ディレクターの関根光才が今回の事件と渋谷警察でのクルド人男性暴行事件を受け、7月3日まで短編映画『INVISIBLE』を限定公開するほか、アートトランスレーターの田村かのこが、BlackLivesMatterに関するビリー・アイリッシュの言葉を翻訳するなど、それぞれに動きを示している。

このような悲劇は今回の事件のみならず、長年にわたって繰り返し行われてきた。これは「アメリカの黒人差別」という限定的な問題ではない。歴史の中で自己の優位性を説くために様々な理由を用い、周縁化され、他者化されてきた、日本を含む世界中のあらゆる人々に関わる問題のほんの一例である。アートを通して抗議と変革の必要性を声にしてきたアーティストたち。アーティストだけでなく、私たちひとりひとりが自分の声を発するべきときなのではないだろうか。

Mei F. Tokyo

Mei F. Tokyo. 2020年1月よりTokyo Art Beat / Staff Editor、Translator。大学院ではアメリカ文学を専攻。文学への熱意はアート全般へと広がり、現代アートの概観を得るべくギャラリーや美術館を日々巡っている。 ≫ 他の記事

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