公開日:2021年2月13日

TAB Farewell, What’s Next:TAB共同設立者 ポール・バロンより

Tokyo Art Beat共同設立者のポール・バロンからのステートメント

TAB Farewell, What’s Next

テクノロジーや興味、時間とそして友情が絶妙にぴったり重なるときがあります。それが起こったときには何だってつくりあげることができるのではないでしょうか。2004年10月、オリビエ・テロー、藤高晃右、そして私と数人の友人は、あるカフェでTokyoArtBeat.comのローンチを祝っていました。TABは何ヶ月もの週末や夜遅くの皆のハードワークの賜物でした。東京のアートシーンを世界中に配信していくそのドアをあけようとしていたまさにその時、、、自分たちの一人が唐突に立ち上がって、家まで走って帰らないといけなくなりました。サイトにパスワードをかけたままにしていたのを忘れていたのです、、、。

「東京で何が起こっているのか? 今日はどういう展覧会が見られるのか、どの展覧会がもうすぐ終わってしまうのか? アート展覧会のためのオンラインサーチエンジンがほしい。インターネットってそういうことのためにあるんでしょ?」2003年にこんなことを考えていました。ロンドンから東京まで「鉄道」で引っ越してきた数ヶ月後のことです。イギリスでは4年間デザインを勉強しながら、タイムアウトロンドンを片手になんとなくギャラリーや美術館をまわっていました。ただ、東京では、アートシーンをめぐるのに少し戸惑っていました。東京の友達にどうやってアートやデザインイベントを見つけているのかを聞き周りながら、「その情報がカテゴリーや便利なリストで整理されているバイリンガルのウェブサイトに全部載っていたらいいと思わない?」と尋ねていました。答えはいつも一緒でした。皆フライヤー、雑誌、いくつかのブログでその情報を得ていたのです。そして皆「もちろん、そういうウェブサイトがあるといいなあ」と言うのです。

16年後の今、東京アートビートは世界でも一番長く続いているアートウェブサイトの一つです。長く続けてこられた秘訣をあげましょう。

1:アートを見に行くのが好きな人々のために、アートを見に行くのが好きな人々によってつくられたこと。アート業界や業界人のためのツールとしてではなく。
2:何十人もの熱心なボランティアによって創設され、それが有給のコアのチームとボランティアのGadago NPOのメンバーに引き継がれ、皆が美術館やギャラリーに毎日のように足繁く通って、アートやデザインへの熱い思いを拡散し続けたこと。Sasaki Tomomi, Sakai Kaori, Tomita Sayo, Tahara Xin, Yamamoto Chikako, Morooka Natsukiそして、文末にあげさせてもらった何百人のみなさんによって。
3:非営利活動法人として、経済的に持続可能なかたちで構築されたこと。(2005年以降)
4:あと付けやちょっとした追加機能のようなものではなく、アートが持つ「遠い異文化や違うコミュニティをもっと身近にする力」への根源的な共感として、設立当初から英語、日本語のバイリンガルでつくられ、これまで維持されてきたこと。
5:そして最後に、「いい」美術館・ギャラリーの展覧会だけを選ぶのではなく、東京近郊の(ほとんど)すべてのアート・デザイン展覧会を掲載するためにつくられたこと。(後に現地のパートナーと協力してニューヨーク、そして、一時的でしたが関西にもひろがりました。)

これら5つの原則がそろったことで、TABはあの大きな金融恐慌も、巨大地震、原発事故もしなやかに乗り越えることができましたし、スマートフォンやソーシャルメディアの勃興、そしてコロナをも目撃してきました。これまでのアーティストTシャツコレクション、東京アートマップ、そして美術館割引アプリのミューぽんなど、TABプラットフォームのより詳しい歴史は、NPOのサイトをご覧ください。

数年前に、アートとブロックチェーンを掛け合わせたスタートアップのスタートバーンを創業した施井泰平さんが、いかに彼の新しい会社がアートシーンを未来にむけてアップデートしていくことができるかというビジョンを我々に共有してくれました。議論を重ねるうちに、TABが次の10年20年を自信を持って迎えるにあたって必要な新しいエネルギーをスタートバーンが体現していることに気が付きました。16年というのはインターネット業界ではとても長い期間で、ここ数年はとても困難でもありました。すべての共同設立者やほとんどの理事が海外に引っ越したり、他の活動に移っていったりしていくなか、サイトは人気のiOSアプリとクーポンで辛うじて運営されてきましたが、新しい企画を実現できず、インフラは古くなってきていました。そんななか、スタートバーンはとくに困難な今年にも支援の手をさしのべてくれ、お互いの運営チームが親しくなっていきました。

コロナ禍の中、彼らがつくりあげているテクノロジーと私達の築いてきたコミュニティを組み合わせることが、TABプラットフォームにとっても、TABコミュニティにとっても一番いいということが明確になってきました。そして約1ヶ月前に、非営利で活動してきたことを鑑み、金銭のやり取りを発生させないかたちで、すべてのTAB関連サービスをスタートバーンに譲渡し、現在の運営メンバーはスタートバーンにジョインすることを、NPO法人の総会で出席会員満場一致で決定しました。

TABの愛好者のユーザーの皆さんにとって何が変わるでしょうか? 最初は何も変わりません。これからの1年をかけて、新しく合流したチームが東京の、日本の、そして世界のアート好きの皆さんの未来を想像しながらコミュニティの声に耳を傾けていきます。サイトもアプリも変わりなく運営されていきますし、私達の前に広がる新しい10年にうまく適合しながらアップデートされていくことと思います。これからの新しいチームに大きな期待をしています。

私や、NPO法人の理事のみなさんにとっては、TABとスタートバーンが迎えるエキサイティングな2021年とその先が素晴らしいものになるように、一歩下がって応援するときがきたようです。あらためて、この16年の長い間に、身をなげうってTABを支えてくれたすべてのみなさん、スタッフのみなさんに大きな感謝の意を表したいと思います。みなさんの善意、素晴らしいアイデア、パッション、そして割いてくださったすべての時間をありがとうございました。みなさん全員がTABの家族です。

また近いうちに東京のアートビートに一緒に耳を傾け、みなさんに再会し、また新しいアートを発見して、新しい夢をつくっていく日まで、どうかお元気で!

ポール・バロン(Tokyo Art Beat共同設立者、特定非営利活動法人GADAGO理事長)
paul@tokyoartbeat.com

And many thanks to:
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Paul Baron

Paul Baron

1977年パリに生まれる。2002年、ロンドン芸術大学(London College of Communication)を卒業後、日本のパワフルなビジュアル文化を堪能すべく来日。本田技術研究所でインタラクションデザイナーとして3年間勤務の後、2004年、オリビエと藤高晃右と共同でTokyo Art Beatを開設。