公開日:2021年5月4日

NFT作品の多くは赤字、ホックニーの新作アニメーションが新宿に出現、安藤忠雄が商品取引所をリノベなど:週刊・世界のニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、4月24日〜30日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「ガーディアン紙からのアート物語2話」「欧米での段階的なロックダウン解除」「できごと」「NFT関連記事」の4項目で紹介する。

パリのBourse de Commerce(商品取引所)。5月22日、フランソワ・ピノーの美術館がこの中にオープンし、安藤忠雄が建築リノベーションを担当する。 出典:Wikimedia Commons(Ath wik)

ガーディアン紙からのアート物語2話

◎カラヴァッジョ作品を取り巻くドラマ
スペインのオークションに約20万円の最低価格で競売にかけられようとしていた絵画が実はカラヴァッジョだとわかって直前に競売から引き上げられた。その絵がカラヴァッジョだと気づいたイタリア人ディーラーが競売前にそれを気付かれないように持主からプライベートセールで買おうと5000万円での買取りを持ちかけたときには、すでに別に3億円でのオファーが2件来ていたという。国も巻き込んだドラマチックな数日間の顛末や、いかにイタリア人画家のカラヴァッジョの作品がスペインに渡りこれまで知られてこなかったを類推する、手に汗握る物語。
https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/apr/23/damn-this-is-a-caravaggio-the-inside-story-of-an-old-master-found-in-spain

◎500年ぶりに発見された人差し指
ローマのコンスタンティヌス1世のブロンズ像の欠けていた人差し指が500年ぶりに発見されて繋ぎ合わされた。なんとルーブル美術館に1863年に収蔵されていたが、1913年に足指と間違って仕分けされていた。2018年に博士課程の学生が古い溶接の研究中に指だと気づいたのがきっかけで、3Dプリンターでレプリカを作ってローマに持っていったところぴったりはまったと。
https://www.theguardian.com/world/2021/apr/29/giant-statue-roman-emperor-constantine-reunited-with-long-lost-finger

欧米での段階的なロックダウン解除

◎コロナ後初の大規模フェアに?
毎年3月開催だったNYのアーモリーショーは今年から場所をジャビッツセンターに変更して9月の開催に。例年を超える195の参加ギャラリーを発表した。まだまだキャンセルや規模縮小が目立つアートフェアだが、アーモリーはコロナ後に通常通り開催できる初の大規模フェアになれるか。
https://www.artnews.com/art-news/market/armory-show-2021-exhibitor-list-1234590820/

◎スコットランドでは美術館・ギャラリー再開中
スコットランドでは、コロナによる制限レベルが全5段階のうち4から3に緩和されることで、4月26日から美術館やギャラリーが再開できることに。
https://www.standard.co.uk/news/uk/museums-galleries-rachel-maclean-scotland-emma-talbot-b931651.html

◎公園でオーケストラを
去年の3月から開演できていないニューヨーク・フィルハーモニックだが今年5月の週末はコンテナに簡易ステージを詰め込んでNY各地の公園で他の音楽コミュニティとコラボしながら多ジャンルのコンサートを開演予定。去年はピックアップトラックに楽器を積んでのポップアップコンサートで、そこから大きく拡大。
https://www.nytimes.com/2021/04/30/arts/music/new-york-philharmonic-bandwagon.html

◎フランスでも再開、新美術館もオープンへ
フランスでも段階的にロックダウンを解除していく予定で、5月19日に美術館やギャラリーが再開できる見込み。去年の10月30日以来。また、去年6月から延期されていた大コレクターのフランソワ・ピノーの美術館が5月22日についにオープンする。安藤忠雄がリノベーションを担当。
https://www.theartnewspaper.com/news/bourse-de-commerce-pinault-collection-plans-to-open-on-22-may

◎安藤忠雄が商品取引所をリノベ
安藤忠雄はこれまで20年に渡って、ベニスのパラッツォ・グラッシなどピノーのいくつもの美術館を担当してきた。そして、今回パリのBourse de Commerce(商品取引所)をリノベして美術館に。安藤をピノーに紹介したのはカール・ラガーフェルドだったらしい。
https://www.architecturaldigest.com/story/architect-tadao-ando-transformed-paris-bourse-de-commerce

できごと

◎ホックニーの新作アニメーションが新宿にも出現
デイヴィッド・ホックニーがパンデミックを抜けた先の希望の表現として制作した2分半のアニメーションが、5月にNYのタイムズスクエアをはじめ、LA、ロンドン、ソウルそして、新宿東口のユニカビジョンでも投影されるとのこと。
https://www.nytimes.com/2021/04/29/arts/design/david-hockney-billboards.html

◎かわいい「ボデガ猫」
ブルックリン在住のウェブデベロッパーのロブ・ヒット(Rob Hitt)は2012年からNY中のボデガ(主にヒスパニック系の個人食料雑貨店)で猫の写真を撮ってSNSにあげてきたそう。ボデガ猫は州の衛生法上は罰金の対象だが、店のネズミ(ネズミも罰金対象)対策にもなり、猫を愛する店のオーナーに多く飼われているそう。かわいい写真をどうぞ。
https://hyperallergic.com/640916/new-york-bodega-cats-instagram-photography-rob-hitt/

◎ジェフ・クーンズがギャラリー移籍
ジェフ・クーンズが、これまで契約していたガゴシアンとデイヴィッド・ツヴィルナーギャラリーを離れてペースと独占契約をした。ここ数年はクーンズのマーケットは低調で2017年にはスタジオのリストラもしている。作品制作の遅れなどで数名のコレクターがガゴシアンやツヴィルナーを訴えていたことも移籍に関係しているのではといわれている。
https://news.artnet.com/market/jeff-koons-pace-gallery-1962282

◎イサム・ノグチはホワイトキューブの取り扱いに
ペースにはクーンズが移籍したニュースに続いて、入れ替わるようにイサム・ノグチ(のestate)が70年代から仕事をしてきたペースギャラリーを離れてロンドンのホワイトキューブギャラリーに移籍する。
https://www.artnews.com/art-news/news/isamu-noguchi-white-cube-departs-pace-1234591251/

NFT関連記事

◎NFT作品の多くは赤字
連日の高額で落札されるNFTのニュースや、大手NFTサイトで平均落札価格が数十万円になっていることで、NFTを出したアーティストがみな高額で売れていると錯覚しがち。だが、アーティストのキンバリー・パーカー(Kimberly Parker)が綿密に調査を行った結果はそうではないという。じつは一握りの作家だけが飛び抜けて高額であることで平均額が歪んでいるだけで、落札価格の中央値は$200くらいで、3割以上は$100未満であり、手数料が約$100かかることを考慮に入れると多くは赤字だという。
https://news.artnet.com/market/think-artists-are-getting-rich-off-nfts-think-again-1962752

◎Beepleはウォーホルになれるか?
前々回のドクメンタのディレクターのバカルギエフがBeepleに約80分インタビュー。「伝統的」アート界と「デジタル」アート界の邂逅という感じ。バカルギエフのオープンさ、真摯さが興味深く、共通の場を見つけながら対話し、探り、そしてBeepleの作品に関連して彼に美術史の集中講座までしている印象。バカルギエフはBeepleがやっていることが、「アート」かどうかはわからないとしながらも、いろいろな意味でアンディ・ウォーホルと対比している。個人的にはBeepleがウォーホルになるかラッセンになるかは今後の作品の変遷次第ではないかと感じている。
https://www.castellodirivoli.org/en/mike-winkelmann-beeple/

オススメの展覧会と本

◎NYでデイビット・ハモンズを見よう
現在NYソーホーのドローイングスペースではデイビット・ハモンズの個展開催中。5月にはホイットニー美術館のコミッションでハドソン川に巨大なパブリック・アートが完成する。さらに5月1日からナフマドコンテンポラリーでも個展がはじまり5月のNYはハモンズを見るにはいい機会。
https://www.artnews.com/art-news/news/david-hammons-basketball-kool-aid-works-new-york-survey-1234591204/

ドローイングスペースの個展:https://drawingcenter.org/exhibitions/david-hammons
ホイットニー美術館の個展:https://whitney.org/exhibitions/david-hammons-days-end
ナフマドコンテンポラリーの個展:http://www.nahmadcontemporary.com/exhibitions/david-hammons-basketball-and-kool-aid

◎中東の一大西洋絵画コレクション
イランのテヘラン現代美術館には70年代の石油絶頂期に集められた抽象表現主義からウォーホル、ベーコンなど、欧米以外では一番多くの西洋絵画コレクションがあるといわれており、この1月にリノベーションの末に再開された。70年代にコレクション収集のチーム内で働いていたアメリカ人女性ドナ・ステイン(Donna Stein)が当時を振り返る本「The Empress and I: How an Ancient Empire Rejected and Rediscovered Modern Art」を今年出版したが、彼女が自身の貢献を過剰評価しているのでは、また当時のイランの社会状況を差別的に捉えている部分があると論争をよんでいるそう。テヘラン現代美術館はイラン革命前の77年に王妃によって開館されたが、開館がパリのポンピドゥーの同じ年でテート・モダンの25年前とのこと。西洋美術とイランの現代アーティストを同時に見せることが目的だったそうで、西洋美術コレクションは現在3000億円以上の価値があると言われている。
https://news.artnet.com/art-world/donna-stein-memoir-reception-iran-1962479

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。