ボルタンスキー逝去、ロボットと大理石彫刻、ゴヤ《巨人》騒動など:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

In Art Beat News Main Article 3 by Kosuke Fujitaka 2021-07-20

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は7月10日〜16日に世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「テクノロジーとアート」「台湾と韓国の記事」「おすすめの展覧会と読み物」の4項目で紹介する。

テクノロジーとアート

◎ロボットと大理石彫刻
イタリアを代表する鉱産物、カラーラの大理石はミケランジェロの彫刻にはじまり、18世紀には大量の新古典主義の彫刻作品に使われ、何十軒ものアトリエができたという。だが、制作時の加工に数ヶ月から数年もかかる大理石は近代、現代にはアートの材料としては人気が低迷し建物の内装に使われることが多くなった。だが、最近では、ジェフ・クーンズやマウリツィオ・カテランなど有名作家の注文で人の代わりにロボットが彫刻作品を削っているという。18世紀にアントニオ・カノーヴァが5年かかって制作した傑作《Psyche Revived by Cupid’s Kiss》は今ではロボットを使って270時間で完成するとのこと。ただ、ロボットも完璧ではなく、やはり仕上げは人の手で行われている。
https://www.nytimes.com/2021/07/11/world/europe/carrara-italy-robot-sculptures.html

◎新興サブスクプラットフォームは善か悪か
著名アート批評家でNew York Magazineのジェリー・サルツが、新興サブスクプラットフォームのSubstackから年収2700万円での移籍を断ったとして話題になっている。彼は、断った理由としてお金を払った人しか読めないサブスクではなく広い読者に読んでもらいたいと。ただ、SubstackのようなサブスクはNew York Magazineのようなメディア大企業から書き手を開放するのだという反対意見も。
https://news.artnet.com/art-world/jerry-saltz-substack-1988234

◎ハーストのNFTプロジェクト第2弾
ダミアン・ハーストが2回目の暗号資産プロジェクト。2016年に制作した1万枚の紙にドットを描いた作品。1万枚あり、どれも似ているが同じものはなくすべて「ユニーク」。1枚2000ドルでNFTとして販売する。購入者はNFTをNFTのままか、紙の実物と交換するかを選ぶ必要があり、NFTを選ぶと実物は焼却される。売り切れれば総額20億円超になる。1回目は桜のモチーフのプリント作品を1枚3000ドルで6日間限定でオンライン販売し、支払いにビットコインなどの暗号通貨を受け付けた。結果、7481枚売って25億円弱の売上に。
https://news.artnet.com/art-world/damien-hirst-the-currency-1988535

台湾と韓国の記事

◎台北アートシーンの現在
2020年、台湾はコロナをしっかり抑え込めたことで、世界でも珍しくアートフェアやビエンナーレを予定通りに開催することができた。ヴェネチアでは政治的な理由でパヴィリオンを持てないなど不利な要素も多いが、層の厚い美術館、コレクターなど、世界から注目が高まっている台北のアートシーンについてまとめた記事。
https://www.artnews.com/art-news/news/taipei-taiwan-art-cities-to-watch-1234598724/

◎廃校活用法いろいろ
韓国でも少子化の影響で子どもが減り、使われなくなった廃校がたくさんあるそう。それらをアートギャラリーや図書館に転用される例が増えているとのこと。なかには動物のシェルターに転用している例まで。いくつかの街の転用事例を取材した記事。
https://www.koreatimes.co.kr/www/culture/2021/07/703_312029.html

できごと

◎ゴヤ《巨人》騒動
ゴヤの手によるものか議論が割れてきたプラド美術館の《巨人》。2008年に弟子による作としたが、今回ひっくり返して伝ゴヤという表記になった。プラド美術館外でもゴヤの作品ではないかという意見は強い状況ではあるが、今回の変更にあたって美術館は明確な根拠なども示しておらず、ゴヤ研究の第一人者であり2008年の決定をしたマヌエラ・メナ・マルケスが同年に美術館を退職し、美術館内部の組織再編の結果なのではないかという批判も出ている。
https://news.artnet.com/art-world/prado-restores-goya-attribution-to-colossus-1988856

◎贋作を売ろうとして逮捕
バスキアとヘリングの贋作を売ろうとしたとして49歳のメキシコ人がNYで逮捕された。仲介者が別々のオークション会社に持ち込んだが、ヘリング財団が贋作と認定し、その仲介者がおとりになって、警察の監視のもと犯人からバスキア作品の贋の来歴書を送らせて、それが証拠となり逮捕につながった。
https://www.nytimes.com/2021/07/09/arts/design/man-arrested-fake-basquiats-harings.html

◎デュビュッフェ売却に対して異議
フランス人コレクターが2013年、友人夫妻が設立したスイスのバイエラー財団にバスキア、サム・フランシス、ジグマー・ポルケなど20世紀の巨匠による33作品を寄贈した。そのうちのジャン・デュビュッフェ4作品を財団が売却しようとしているとして、コレクターの娘が不満を表明。財団は、デュビュッフェは同財団のコレクション内にすでにあり、寄贈の時点で将来的な売却の可能性が契約書で同意されており問題ないと反論。
https://news.artnet.com/art-world/beyeler-foundation-deaccessioning-dubuffet-paintings-1987754

◎ラテンアメリカ系作家に支援
アンドリューWメロンとフォードの両財団が5億円強をラテンアメリカ系作家の助成金にあてる。5年間で計75人に各500万円強ずつ助成する。ラテン系はアメリカの約20%の人口にもかかわらず2%未満の文化助成金しか受け取っていないうえ、コロナでより多くの経済的損失を被っていることが判明しているそうで、それに対応したもの。
https://news.artnet.com/art-world/latinx-fellowship-1988077

◎ボルタンスキー逝去
フランス人アーティストのクリスチャン・ボルタンスキーが76歳で亡くなった。1944年生まれで、12歳で学校を離れて以来、独学で活動してきた。Artnetの記事は彼を1987年からディーラーとして支えてきたマリアン・グッドマンの言葉で締めくくっている。
https://news.artnet.com/art-world/french-artist-christian-boltanski-died-age-76-1988975

◎ベソスが博物館に高額寄付
7月20日に宇宙旅行予定のジェフ・ベゾスが、それに先駆けてスミソニアンの国立航空宇宙博物館になんと200億円以上の寄付。創立の際のスミソニアン氏からの寄付以来最大規模だという。うち70億円あまりは館のリノベーションに、残りはベゾス学習センター創設に使われる。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/museums/bezos-smithsonian-donation-air-and-space-museum/2021/07/14/405ac38a-e4c2-11eb-b722-89ea0dde7771_story.html

◎SF MOMAでさらなるリストラ
SF MOMAがコロナ禍後にも来場者が戻らないことを理由にさらなるリストラを断行した。地元作家の作品を販売していたArtists Galleryと映画部門、さらにオンラインメディアも閉鎖。2018年以来、来場者減に悩まされていたところにコロナが追い打ちをかけ、去年3月にも300人リストラしていた。
https://www.kqed.org/arts/13900017/sfmoma-cuts-several-programs-and-staff-positions-citing-declining-attendance

◎クラフトの魅力
クラフトが市民権を得始めたアート業界だが、シカゴ出身の若い作家コレクティブLucky JewelがNYのギャラリーでクラフトのポップアップストアをやって注目されている。参加作家たちによると、アート作品は作るのに理由がいるが、クラフトはもっと直感的であり、クラフトの本質は実用性とコミュニティーだとのこと。値段もアート作品だと高くつけがちになるが、クラフトでは使用されることを前提に自然と安くなるという指摘。
https://www.artnews.com/art-news/news/lucky-jewel-craft-exhibition-1234598653/

おすすめの展覧会と読み物

◎ティノ・セーガルインタビュー
フラッシュモブというとちょっと安っぽく聞こえるが、演者に見えない人々が一定間隔で突然パフォーマンスをするという形式で一時代を築いたティノ・セーガル。コロナ開けの今、急遽イギリスのオックスフォードのBlenheim Art Foundationで8月15日まで屋外展覧会をしている。今回の展覧会や、これまでのキャリアなどについての彼へのインタビュー記事。
https://news.artnet.com/art-world/tino-sehgal-blenheim-palace-interview-1988578

◎話題のビーチ作品がアメリカを巡回
屋内にビーチを設営し、水着姿のパフォーマーが気候変動について歌う展示で、2019年のヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞をとったリトアニア館の3人組の展覧会がやっとアメリカを巡回。ブルックリンのBAM(9月15日から26日まで)を皮切りに、フィラデルフィアやLAにも。
https://www.artnews.com/art-news/news/sun-and-sea-venice-biennale-lithuanian-pavilion-u-s-debut-1234598911/

◎パブリックアート作品に批判
ハドソン川沿いにデイビッド・ハモンズがホイットニー美術館と共同で、ゴードン・マッタ=クラークへのオマージュを込めたパブリックアート作品を作って大きな評判を得ている。だが、20億円弱かけたこの作品は街の過度な民営化と作家スターシステムの悪い表象だと、また、批評家達がこの作品があった場所にゲイムーブメントへの記憶を重ねるのはお門違いだとする辛辣な批評記事。長文だが、マッタ=クラークが作品を作った際のゲイコミュニティへの態度など、歴史を紐解いて批判しており、読み応えがある。
https://filthydreams.org/2021/07/13/why-i-hate-david-hammonss-days-end-and-why-you-should-too/

◎トライベッカは次の人気エリアに
NYの画廊街といえばチェルシーだったが、高層の高級コンドが林立し、家賃が高騰した結果、超大手以外は出ていかざるを得ない状況に。中堅若手のギャラリーの移動先で人気なのが実はソーホーの南にあるトライベッカ。中堅ギャラリーばかりだったが、時流を逃さないとばかりに、なんと今年の秋には超大手の一角デイビッド・ツヴィルナーもギャラリーをオープンすることが決まっている。6年かけて数十件の画廊の引っ越しをしかけた不動産エージェントへのインタビュー記事。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-inside-tribecas-booming-gallery-scene-realtor-helped-build

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka. 1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。 ≫ 他の記事

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