公開日:2021年12月22日

未来はどう変わり、どうあるべきか? 21_21 DESIGN SIGHT「2121年 Futures In-Sight」展レポート

テクノロジーが人類の文化やライフスタイルをいかに変えるのか? その未来を見据えた数多くの書籍や雑誌を手がける編集者の松島倫明がディレクションを行う展覧会がスタート。

2021年12月~今年5月に開催された「2121年 Futures In-Sight」展の展示風景より、上西祐理デザインによる《Future Compass》

展覧会の会場を埋め尽くす「未来」にまつわる言葉、言葉、言葉──。 21_21 DESIGN SIGHTの創設以来、会場に並ぶ文字が最多であろう展覧会「2121年 Futures In-Sight」展がスタートした。

「本展は、どのように問いを組み立てられるかということがメインの目的。会場を歩きながら、未来への問いを立てることを楽しんでほしい」と話すのは、本展のディレクターである松島倫明。雑誌『WIRED』の編集長を務め、テクノロジーが人類の文化やライフスタイルをいかに変えるのか、その未来を見据えた数多くの書籍や雑誌を手がけてきた人物だ。そのほか、グラフィックデザインを上西祐理、会場構成を中原崇志、企画協力を水島七恵と平瀬謙太朗が担当する。

会場入口
会場風景より

本展に参加するのは、青木竜太、安藤瑠美、e-lamp.(山本愛優美)、池上高志、石川善樹、石川凜、石山アンジュ、稲見昌彦、we+、内田まほろ、内田友紀、evala、江間有沙、大川内直子、大澤正彦、大塚桃奈、岡崎智弘、岡島礼奈、小川絵美子、小川さやかなど、活動分野が多岐にわたる72組。その多くが未来にまつわるテキストを展示している。

作品を展示するのは、青木竜太、evala、佐藤卓、Synflux、HUMAN AWESOME ERROR、Qosmo × 朝日新聞社メディア研究開発センター、長嶋りかこ、PARTYら二十数組。各展示タイトルもすべて問いの形式になっている。

会場風景より、深澤直人《REAL FOOD》。問いは「どうやって未来を想像しますか?」

たとえば、プロダクトデザイナーの深澤直人は「どうやって未来を想像しますか?」という問いのもと、3Dプリンタで生成したジュースのパッケージのプロトタイプ《REAL FOOD》を発表。本作は100年後に食べ物の原型を知る人はいるのかという疑問が原点となっており、オレンジ、パイナップル、スイカなどの輪切りパッケージが、未来の人々は知り得ないかもしれない原形を伝える。

会場風景より、佐藤卓《ゴミの概念が変わる?》。問いは「duct circulating pro」

自身が38年前にデザインしたウイスキーのボトルを《duct circulating pro》のタイトルで作品に転用したのは、グラフィックデザイナーの佐藤卓。佐藤は、「未来の新商品はリユースを起点としたものとなり、現代における新商品とは意味合いが違っているのではないか」という考えを本作に反映している。すべてのボトルに「NEW MATERIAL」と記されるが、いずれも素材は再利用されたものだ。問いは「ゴミの概念が変わる?」。

会場風景より、Qosmo × 朝日新聞社メディア研究開発センター《Imaginary Dictionary - 未来を編む辞書》。問いは「未来たちをどのように想像することができるか?」

Qosmo × 朝日新聞社メディア研究開発センターは「未来たちをどのように想像することができるか?」の問いで、AIによってリアルタイムで作られる辞書《Imaginary Dictionary - 未来を編む辞書》を展示。新聞記事のデータを学習したAIが、新しい言語と意味を生成する様子を見ることができる。

「2121年 Futures In-Sight」展の展示風景より、廣川玉枝《Kimono Couture》

本展にはファッションにまつわる展示もいくつかある。服飾デザイナーの廣川玉枝は、「どうやって未来をつくる?」の問いで、京都友禅染の老舗「千總」や西陣織の「細尾」と共同で手がけた着物《Kimono Couture》を展示。日本の伝統的な着物産業が縮小していることに対し危機感を抱いた廣川が、着物の文化や技術を未来に継承していくため、伝統的な着物のデザインを現代のライフスタイルに寄り添うかたちで進化させた。

会場風景より、Synflux《WORTH- ダイエジェティック・コレクション - 撤退線 β》。問いは「複数の現実を生きる『次の人間』はどのようにして、未来の衣服を欲望するのだろうか?」

スペキュラティヴファッションラボラトリのSynfluxは、「複数の現実を生きる『次の人間』はどのようにして、未来の衣服を欲望するのだろうか?」の問いで、リアルとヴァーチャルのどちらの世界にも展開できる服《WORTH- ダイエジェティック・コレクション - 撤退線 β》を発表している。

会場風景より、PARTY《バック(キャスト)します》。問いは「一般的に、人間は過去のデータや経験をも元に近い未来を予測します。それによって、予測が時に悲観的になったり、消極的になったりします。もし、遠い未来を先に想像して、現代に戻ってくるとしたら、近い未来はどのように想像できるのしょうか?」
作品へは2人が搭乗できる

本展でもっとも多くの作品に通底するテーマは「時間」だ。たとえば、クリエイティブ集団のPARTYは、SDGsのキーワードでもあるバックキャストを実際に体感できるインタラクティブ作品《バック(キャスト)します》を発表している。バックキャストとは「一般的に、人間は過去のデータや経験をも元に近い未来を予測します。それによって、予測が時に悲観的になったり、消極的になったりします。もし、遠い未来を先に想像して、現代に戻ってくるとしたら、近い未来はどのように想像できるのしょうか?」という問いにもある通り、現在から未来を考えるのではなく、未来を起点に解決策を見つける思考法のこと。車型の本作は実際に2名が搭乗できるのでぜひ会場で体験してほしい。

会場風景より、岡崎智弘《手でつくる時間》。問いは「人間の手作業は100年後にはどのように変化しているのでしょうか?」

そのほか、グラフィックデザイナーの岡崎智弘は「人間の手作業は100年後にはどのように変化しているのでしょうか?」の問いのもと、砂時計をテーマにした1分の映像と、手作業での工程を撮影した10時間4分におよぶ手作業の映像《手でつくる時間》を裏表で展示。効率化される社会のなか、手作業の途方もなさと非効率性に気持ちが和む一角でもある。

会場風景より、「地球の時間軸 EARTH TIMELINE」のコーナー
会場風景より、「地球の時間軸 EARTH TIMELINE」のコーナー

先進的な技術を用いた作品が整然と並ぶなか、本展でひときわ異彩を放つのは、水島七恵(企画協力)による「地球の時間軸 EARTH TIMELINE」。土と炭化した木からなるこの展示について水島は、「人間の言葉や理性にあふれた展示空間の中で、また少し違う時間軸に波長を合わせてもらいたいと思いました。木と土が内包する時間は500〜1000万年前という時間。それらの時間軸に波長を合わせることまた見えてくる未来や視座があるのではないかと思った」と話す。

こうした多彩な展示と未来にまつわる多数のテキストで構成された本展は、SF小説を読む感覚にも近い鑑賞体験がある。SF作家のウィリアム・ギブソンはコロナ禍において「なぜ人類は22世紀を想像できないのか?」と問うたが、この「問い」だらけの展覧会を通して、答えではなく自分だけの新たな問いを見つけてはいかがだろう。

会場風景より


野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

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