公開日:2022年9月27日

住宅建築の名手・中村好文が見た、ジャン・プルーヴェ展とフィン・ユール展

都内で同時期に開催中の「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」と「フィン・ユールとデンマークの椅子」展。両展の見どころを、建築家で家具のデザインも手掛ける中村好文が自問自答する一問一答式によるレビューでお届け。

「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」のチラシに中村好文が鉛筆で描いたスケッチ

モダンデザインの巨匠ふたりの展覧会が同時期に

モダンデザインに大きな足跡を残したふたりの展覧会が、都内のふたつの美術館でそれぞれ開催中だ。東京都現代美術館「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」(10月16日まで)と、東京都美術館「フィン・ユールとデンマークの椅子」展(10月9日まで)。どちらの展覧会も各人の幅広い仕事を紹介しつつ、とくに「椅子」のデザインに注目する共通点がある。

フランスの建築家・デザイナーのジャン・プルーヴェ(Jean Prouvé、1901~1984)は、デザインから生産までをトータルに見据えた家具と建築物を設計し、20世紀の建築と工業デザインに多大な影響を与えた。「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」は、機能性と美を兼ね備えた彼のオリジナル作品を紹介し、工業化社会や戦後復興とも向き合った姿を浮かび上がらせる。デンマークのデザイナーのフィン・ユール(Finn Juhl、1912~1989)は、「彫刻のような」とも評される優美な曲線が特徴の椅子を多数生み、自邸の設計や店舗、オフィスなどのインテリアデザインも手がけた。「フィン・ユールとデンマークの椅子」展は、「デザイン大国」と呼ばれる同国の家具デザインの歴史を豊富な実作でたどりながら、フィン・ユールの作品の独自性に迫る内容だ。

歳月を重ねても色あせず、多くの人に愛される2人のデザインの魅力とは? 住宅設計の名手として知られ、家具のデザインも手掛ける建築家の中村好文に、質問と回答を自ら書いた一問一答式のレビューを寄せてもらった。【Tokyo Art Beat】


目を見張った吹き抜けの大空間展示

入口から見下ろした「フィン・ユールとデンマークの椅子」展。地下2階のギャラリーCには、デンマークのデザイナー20人の椅子、地下3階のギャラリーAにはフィン・ユールの椅子が並ぶ 撮影:服部真吏

──「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」と「フィン・ユールとデンマークの椅子」展が、それぞれほぼ同時期の7月から10月まで開催されています。建築家であると同時に家具も数多くデザインされてきた中村さんにとっては、待望の展覧会だったのではありませんか?

はい、開催を待ちかねていました。どちらも大変に見応えがあり、学ぶところの多い展覧会ですから。会期も残り少なくなりましたが、できれば、もう1、2回、見学に行きたいと考えているところです。

──日本の公立の美術館で家具の展覧会が開かれるのは珍しいですよね?

そうですね。僕の知る限り、近年に公立の美術館で家具がちゃんと展示されたのは昨年、世田谷美術館などで開かれた「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランドー建築・デザインの神話」ぐらいかもしれません。
いずれにしても、公立の美術館がふたつ揃って同時期にこうした展覧会を開催するのは、「家具」「建築」という分野が、美術館側の視野に入ってきて、一般の人たちの関心も高まってきたということの現れなのでしょう。

──それでは、それぞれの展覧会の印象をお聴かせいただけますか?

では最初に、東京都美術館の「フィンユールとデンマークの椅子」展の印象から話しますね。
都美術館には昨年開かれた「ゴッホ展──響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」も観に行き、前川國男が設計した館内の空間構成については知っているつもりでした。でも、今回の展覧会では「この美術館に、こんなに大きな空間があったっけ?」と目を見張る思いをしました。
2層分吹き抜けた大きな展示空間を上階から俯瞰し、そこに「無数の」と表現したくなるほど数多くの椅子が整然と展示されている様を目の当たりにして、人知れず「う〜ん、これは、すごい ! 」と唸りました(笑)。このように展覧会のほぼ全貌を一望のもとに見渡せる展示は、来館者に期待感を持たせてくれるだけでなく、会場における自分の位置の確認もできるという点でもとてもうまくいっていると思いました。

──あの大空間の展示は圧巻です。

でも、あの大空間だけでなく、来場者が座っても良い椅子が並ぶ展示室があったのは、僕はとても嬉しかったですね。
カタログに「椅子は座る人がいなければただのモノで、人が座ってはじめて心地に良い日用品になる」とフィン・ユールは考えていたと書いてありましたが、椅子の展覧会で「座らないでください」「触らないでください」という注意書きばかり読まされるのは、来館者にとってストレスですから……。そういう意味では「座ってもらいましょう」という判断は美術館の“英断”だったと思います。

フィン・ユールの家具が体験できるコーナー。手前右の椅子は1949年の展示会でデンマーク国王が腰掛けたという逸話をもつ「チーフティンチェア」(1949) 撮影:服部真吏

──たしかに家具、とくに椅子は「座って」「触って」初めて真価が分かります。

そうした名作椅子のひとつに座り、モダンデザインの椅子のコレクターで研究者でもある織田憲嗣さんが自宅でデンマークのデザインについて語る映像を見ることができるなど、あちらこちらに見せ場があって、椅子・家具好きには「楽しみ満載」の展覧会といっていいでしょうね。
またタイトルどおり、本展はフィン・ユールだけではなくデンマークの椅子の展覧会でもあるわけですが、コーナーごとにきちんとした解説と言いますか、説明パネルが掲示され、それが簡潔でありながら分かりやすく、デザイン関係者ではない一般の人たちにも親切な展示だなぁと思いました。これは学芸員(キュレーター)のお手柄ですね。

──展示作品の感想をお聴かせいただけますか?

冒頭の展示室には、20人のデザイナーが手掛けた「デンマークの椅子」がズラ〜リと並んでいます。どれもお馴染みの有名な椅子ばかりで、そのうちの幾つかは、僕自身も日常的に使っているものですから、一つひとつを“指差し確認”するように見ていきましたが、なかには「おや、これは?」と目が惹きつけられる椅子がありました。

──それは、たとえばどの椅子ですか?

ひとつは、アルネ・ヤコブセン(1902~1971)がベルヴュー・シアターというレストランのためにデザインした椅子です。座が一枚革で、背板とその上部の笠木に中国・明時代の椅子の影響が見られるものです。ヤコブセンの作品で、ハンス・J・ウェグナー(1914~2007)のように、古い家具からの影響をはっきりと感じさせるものを知らなかったので「え?これもヤコブセン?」と思いました。脚が下の方に行くに従ってスーと太くなっていくあたりも「こういうのもアリなんだなぁ」と妙に感心しました。

第1章「デンマークの椅子」の展示室に並ぶ名作椅子の数々。アルネ・ヤコブセンがデザインした《ダイニングチェア》(ベルヴュー・チェア、1934)は前列の左 撮影:編集部

もうひとつはヴェルナー・パントン(1926~1998)の《バチュラーチェア》(1955)。スチール・ロッド(丸鋼)を一筆書きのように曲げて構造のフレームを作り、丸鋼に革を張り渡して座と背にした一種の安楽椅子です。その一筆書きの非の打ちどころのない構成とジグザクの見事なラインに目を見張りました。思わず手に持っていた展示品リストにスケッチしたほどです。
解説によるとノックダウン構造だそうですが、どこをどうすれば分解できるのか、そのあたりの仕組みを知りたかったし、可能ならちょっと座ってみたかったです。この椅子とセットでデザインしたテーブルもあったらしいので、できればそれも見たかったですね。

中村好文が《バチュラーチェア》をスケッチした出品リスト

 ──フィン・ユールの椅子はいかがでしたか?

バッタを連想させる形状の《グラスホッパーチェア》(1938)をはじめ、1930年代の初期から60年代まで、フィン・ユールの主要な仕事を通観できたのは大きな収穫でした。
ヘンリー・ムーアやジャン・アルプの彫刻から大きな影響を受けていることも、《ペリカンチェア》(1940)などの張りぐるみふうの椅子を見てはっきり分かりました。
作品を通観して、やはり彼の真骨頂は織田さんが中期と呼んでいる1940年代半ばから50年代半ばまでの仕事だと思います。完成度といい、洗練度といい、佇まいの美しさといい、この時代の作品はずば抜けていると思います。 

会場風景より、左からフィン・ユール《グラスホッパーチェア》(1938)、モーエンス・ヴォルテレン《コペンハーゲンチェア》(1936) 撮影:編集部
会場風景より、左からフィン・ユール《ペリカンチェア》(1940)、同《ポエトソファ》(1941) 撮影:編集部
会場風景より、フィン・ユールが1940年代後半にデザインした椅子やテーブル 撮影:編集部

「そうしたくなるよね」フィン・ユールの肩を叩きたい

──そのフイン・ユールの中期で好きな椅子はどれですか?

その質問が来るだろうと思って身構えていたんです(笑)。というのは、僕はフィン・ユールの椅子をそれほど高く評価してこなかったからです。評価というより、どこか僕の木材の扱い方や家具の価値観と相入れない部分があると言ったほうが良いかもしれません。

──それは興味深い発言ですね。どこが相入れないのでしょう?

かいつまんで言うと、フィン・ユールは彼の椅子の特徴である彫刻的フォルムを作り出すために、木目に対し素直な順目(ならいめ)であるか、そうでない逆目(さかめ)であるかという木材の特性にお構いなしに削っているところに抵抗感があるんです。あの動物の骨や関節を連想させる有機的な形を作るために、順目も逆目も気にせずに縦横に削り、最後はサンダー(研磨の工具)でズーイ、ズーイと撫で回して仕上げるわけですが、そのことがちょっと気持ちにひっかかるんですね。
僕は木造住宅を作ることの多い建築家で、柱・梁という直線材を木目に対して素直に鉋掛けして仕上げる仕事に慣れているので、とくに気になるのかもしれません。
たとえば本展のポスターになっている《イージーチェアNo.45》(1945)。前脚とアームのジョイント部分やそのアームがJの字型に立ち上がって背柱になっていくところ、Jの字の曲がり部分に後ろ脚が吸い込まれるようにジョイントされる個所など、この椅子の一番の見せ場である工芸品としての美しさや優美さに惚れ惚れと見とれますが、心のどこかで「これって、いいのかな?」という気持ちが拭えないのです。

──その感覚は、ご自身が家具をデザインすることと密接な関係がありそうですね。

それは、絶対あると思いますね。僕が家具デザインをするうえでいちばん影響を受けたのが、シェーカー教徒の家具だったことも大きいと思います。シェーカーの無駄のない直線的なデザインが身体に染み付いてしまったせいか、僕にはフィン・ユールの椅子の彫刻的な木の扱いが、どこか装飾的に見えてしまう部分があるんでしょうね。

フィン・ユール《イージーチェア No.45》 撮影:服部真吏

──逆に「多いに共感できる」という部分はありますか。

もちろん、あります。たとえば座と背という身体を支える部分と、座と背を支えるフレーム(構造体)を切り離しておくことに対する執念深さは多いに共感できます。
「そうそう、そうしたくなる、そうしたくなる」と共感と敬愛の意味を込めて、思わずフィン・ユールの肩を叩きたくなります(笑)。
先ほど《イージーチェアNo.45》に代表される、ジョイント部分のディテールについて共感できないという話をしましたが、後期にあたる1956年の籐張りの《イージーチェア》や1957年の《ジャパンチェア》になると、彫刻的な形は影をひそめて「素直でいいな」と思いますね。このあたりはフィン・ユールの椅子としては一般的に評価は低めらしいのですけれど……。

──これまでのお話は、本展で作品を年代順に通観できたからこその感想ですね。

それに尽きますね。いろいろ気づかされたり、考えさせられたりすることの多い、僕には大変有意義な展覧会でした。
もうひとつ共感といえば、フィン・ユールの自邸を紹介するコーナーがとても印象に残りました。じつは数年前、コペンハーゲン郊外にある自邸をファッションデザイナーの皆川明さんと一緒に訪ねたことがあります。家に足を踏み入れたときに、彼が目指していたことがわかったような気がしたのを鮮明に思い出しました。彫刻的な手触りの椅子も、自邸に置かれた状態ではさほど不自然に感じられなかったのが不思議です。建築空間のマジックでしょうね。このときは、皆川さんと思わず「居心地の良さそうないい家だねぇ」と言ってしみじみと頷き合いました。

会場風景より、フィン・ユールが自邸で用いたデザインの家具が並ぶコーナー 撮影:編集部

理性や知性に訴えるジャン・プルーヴェ作品

──東京都現代美術館の「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」に話題を移しましょう。まず、本展の第一印象から伺いたいと思います。

第一印象は、「フィン・ユールとデンマークの椅子」展とは好対照ということです。あっさり言うと、手触りなどの感覚や感性に訴えてくるフィン・ユール展と、システム的・論理的で理性や知性に訴えるジャン・プルーヴェ展の違いと言えるかもしれません。
その両展が期せずしてかどうかは分かりませんが、ほぼ同時期に東京都のふたつの美術館で開かれたのは特筆に値します。ふたつの展覧会が響きあって、もうひとつの展覧会を生み出しているとさえ思うほどで、画期的な“事件”と言ってもいいと思いますね。

──先ほど都美術館の展示空間についてお話がありましたが、都現代美術館はいかがですか?

こちらも会場に入ってすぐに、吹き抜けから見下ろす大空間にジャン・プルーヴェがピエール・ジャンヌレと協働した《F 8×8 BCC組立式住宅》(1942)の実物展示を眺められる会場構成になっています。ここでも思わず「う〜ん、お見事」と唸りました。僕の前を歩いていたふたり連れの若い女性は異口同音に「ゥ、わあ〜」と声を上げてその場に立ちすくんでいました。それほどインパクトも強く、効果的な見せ方でしたね。
この組立式住宅を6年ほど前に、フランス大使公邸の庭に建てられた状態で見学したことがあります。今回は上から俯瞰できたので、屋根の構造などもわかって大変興味深く、しばし見入ってしまいました。僕もそうでしたが、この展示だけで、来館者はジャン・プルーヴェという人物と展覧会そのものにギュッと心を掴まれたのではないかと思います。

会場風景より、ピエール・ジャンヌレとの協働《F 8x8 BCC組立式住宅》(1942)Yusaku Maezawa collection © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

──以前からジャン・プルーヴェの仕事に関心を持っていたのですか?

名前はもちろん知っていましたが、家具デザインやプレファブ住宅の仕事を写真で見ていたぐらいで、詳しくは知りませんでしたし、正直なところ、仕事にも人物にもそれほど深く関心を寄せていたわけではありませんでした。
以前、南仏にあるル・コルビュジェのキャバノン(休暇小屋)の本(『ル・コルビュジェ カップ・マルタンの休暇』・TOTO出版)の日本語版を監修したとき、モナコを望む70cm角の正方形の窓の製作をコルビュジエがジャン・プルーヴェに依頼していたと知りました。でも、恐らく意見が食い違ったのでしょうね、ジャン・プルーヴェは仕事から手を引いています。もしジャン・プルーヴェが手掛けていたら、彼のことですから小さな窓にも何か画期的な新機軸を盛り込んだに違いありません。実際に見に行ってみると、そこはただの片開き窓になっていて、がっかりしたことがあります。
そんな経験があったので、本展の会場に建てられた組立式住宅の窓も仔細に見学しました。折りたたみ式の突き出し窓の金物など、ちょっと自分で操作してみたい形でしたね。

会場風景より、ピエール・ジャンヌレとの協働《F 8x8 BCC組立式住宅》(1942)Yusaku Maezawa collection © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924 撮影:編集部
会場風景より、ピエール・ジャンヌレとの協働《F 8x8 BCC組立式住宅》(1942)の部分 Yusaku Maezawa collection © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924 撮影:編集部

──建物以外の展示はどうでしたか?

《組立式ウッドチェアCB 22》(1947)をはじめ何種類もある組立式の椅子の展示、とりわけ分解された状態の展示が大変興味深かったです。「ああでもない、こうでもない」と、組み立てのシステムを考えた人ですから、完成品よりそのシステムについての思考の経緯を辿るようにして見ていくことになり、興味が尽きなかったですね。
ジャン・プルーヴェがスケッチを重ねながらアイデアを煮詰めていくさまを、彼の肩越しに眺めているような錯覚を覚えたりしました。そういう意味では素晴らしく臨場感あふれる展示でした。

ジャン・プルーヴェ《組立式ウッドチェア CB 22》(1947)© Galerie Patrick Seguin © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3892
ジャン・プルーヴェ《「カフェテリア」チェア No. 300》(1950頃) Laurence and Patrick Seguin collection © Galerie Patrick Seguin © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3892
展覧会チラシに中村好文が描いたスケッチ。描いた椅子はジャン・プルーヴェの《「シテ」アームチェア》(1930年代)で、メモも書き込まれている

原寸の実物の圧倒的な迫力

──本展で特別に心惹かれた作品はどれですか?

やはり、窓付の木製壁パネルや円窓をパラパラっと嵌め込んだアルミパネルなど、原寸の展示物です。つまり「現物」になるわけですが、これは圧倒的な迫力と説得力があります。それらを目の当たりにして大きな刺激を受け、鼓舞されました。
アルミで製作された大型で可動式のプリーズ・ソレイユ(日除けルーバー)の現物も間近に見ることができて、会場を巡り歩きながら「本当にご馳走の多い展覧会だなぁ」と思いました。
組立式住宅の丸ごとの展示など、サイズの大きな展示物が多い展覧会を立ち上げるまで学芸員(キュレーター)の方たちのご苦労はいかばかりだったか……。見学者のひとりとして、心からねぎらいと感謝の気持ちを伝えたいと思います。

会場風景より、ジャン・プルーヴェ《「メトロポール」住宅(プロトタイプ、部分)》(1949)Laurence and Patrick Seguin collection © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

──最後にひと言、ふたつの展覧会についての感想をお願いします。

「フィン・ユールとデンマークの椅子」展にしろ「ジャン・プルーヴェ展」にしろ、これだけ質も高く、規模も大きな展覧会なら、会期はせめて半年、できれば1年間ぐらいはあってもいいと思いますね。3ケ月程度ではあまりにも短か過ぎてもったいないですよ(笑)。
大学の建築科で教えている友人が「最近、建築やデザインを学ぶ学生たちは、積極的に展覧会に行ったりしない」と嘆いていましたが、こういう千載一遇の展覧会には「首に縄をつけて」とは言わないまでも、学生たちには半強制的にでも見に行かせた方がいいと思いますね。即物的にモノに接することが、なによりも勉強になりますし、期間が長ければ、2度でも3度でも通うことができるわけですから。

会場風景より、左からジャン・プルーヴェ《「シテ」本棚》(1932)、同《「S.A.M.」テーブル No.506》(1951)Yusaku Maezawa collection、同《「メトロポール」チェア No.305》(1950頃)、同《キャビネットBA 12》(1950頃)Laurence and Patrick Seguin collection © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

中村好文

中村好文

なかむら・よしふみ 建築家。1948年千葉県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒。都立品川職業訓練校で木工を学ぶ。吉村順三設計事務所勤務を経て、1981年に自身の設計事務所「レミングハウス」を設立。1987年「三谷さんの家」で第1回吉岡賞受賞。1993年「一連の住宅作品」で第18回吉田五十八賞特別賞を受賞。主な著作に『住宅巡礼』『住宅読本』(ともに新潮社)、『普段着の住宅術』(王国社)、『中村好文 百戦錬磨の台所』vol.1・vol.2(学芸出版社)などがある。