最終更新:2022年2月18日

デジタル×アナログで唯一無二の価値を。中西伶インタビュー

渋谷・DIESEL ART GALLERYで個展「TREE OF LIFE」を開催中の中西伶にインタビュー。

中西伶 撮影:編集部

4月21日までDIESEL ART GALLERYで個展「TREE OF LIFE」を開催中のアーティスト、中西伶。

デジタルとアナログという対極にある手法を併用して生み出される作品群は非常にダイナミックだが、同時に特有のバランス感覚によって緻密に構成されているのがわかる。

中西はグラフィックデザイナーを経て渡米、本場ニューヨークでアーティスト・山口歴のアシスタントを務め、帰国後は山口率いる「GOLD WOOD ART WORKS」に所属して本格的な制作活動を開始。一見すると華やかな経歴の持ち主だが、その創作の原点を探ると、意外な一面も見えてきた。

会場風景 Photo by Miki Matsushima ©︎ 2022 Rei Nakanishi ©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS ©︎ DIESEL ART GALLERY

キーワードは、「バランス」と「テクスチャー」

コンピュータで描いたグラフィックをプリントし、そこに自身の手によるペインティングを施す。ときには幾重にもプリントとペイントの層を重ねたり、複数の画材を組み合わせて新たな質感を生み出したりしながら、ストンと腑に落ちるバランスを探っていく。中西の作品はこのプロセスを経て完成される。

「あくまで感覚的な話なんですけど、色彩だったり、光沢だったり、凸凹具合だったり、いくつもの要素のバランスを画面上でとっている感じです。この浮遊感のある、奥行きがあるようでないような、掴み切れないテクスチャーが僕らしい部分だと思うのでかなりこだわっています。あとは、複製可能なデジタル技術にアナログなペインティングを合わせることで、価値という面でも唯一性を与えるというか」。

会場風景より、《Tree of life no.05 “Earth”》(2022) 部分 Photo by Miki Matsushima ©︎ 2022 Rei Nakanishi ©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS ©︎ DIESEL ART GALLERY

モチーフ選びも、ある一貫したポリシーに基づいている。椅子やテーブルなど人工的に存在価値が与えられたものではなく、「極端に言えば神様が作り出したくらいの”意味がそれ以上掘り下げられないもの”を扱い、それを現代的な手法で表現するということが自分の役割なんじゃないか」と考える。たとえば2021年に発表した「STILL LIFE」シリーズでは、「花」と「スカル」をモチーフに、「生と死」という対極の概念を描いた。

still life no.03 2021 © Rei Nakanishi © GOLD WOOD ART WORKS

今回の個展では、数年前から温めていた「惑星」のイメージと、中西自身の感覚にしっくりきたという幾何学的図形をメインテーマとして組み合わせた展覧会を構成した。個展タイトルにも引用した「TREE OF LIFE」とは、古の時代から存在する図形の名称であり、展覧会場内をよく見ると、各惑星と照明との位置関係によって、この図形を象っていることが分かる。

「僕は作品にあまり意味を求めていないというか、見た人がそれぞれ自由に解釈できる要素さえあれば良いと思っていて。だから言葉で飾ったコンセプトを掲げるより、こうした図形やその概念をベースに作っていくほうが腑に落ちるんです」。

会場風景 Photo by Miki Matsushima ©︎ 2022 Rei Nakanishi ©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS ©︎ DIESEL ART GALLERY

原点となった「ひとり遊び」と、山口歴との出会い

中西伶は1994年三重県に生まれ、県内の美術系の高校を卒業。青春時代は「引きこもっていた」といい、雑多なカルチャーが溢れるインターネットの世界に没頭した。最先端の流行に敏感に反応するタイプではなく、部屋の中で一日中ネットを漁り、国も時代も超えて、自分の感覚のなかで惹かれる情報をインプットしていく。そうした「なんでもありなインターネットの空間」に、大きく影響を受けたという。

「わりと長いことハマっていたのが、tumblr(ブログや画像、動画などを投稿できるウェブサービス)でひたすら画像を集め続けること。たとえば『atmosphere』とか『material』みたいなカテゴリーのフォルダを自分で作って、集めた画像をそこに仕分けていくんです。そのひとり遊びを高校生から22〜23歳くらいまで続けていました。いま思い返すと高校の先生がちょっとおもしろい人で、授業の一環でMoMAの収蔵品を小さな紙にたくさん印刷してきて、それを自分の好きなように分類するっていう遊びをさせてくれたんです。たぶんそれがきっかけだったんだと思いますね」。

会場風景より、左から《Tree of life no.10 “Neptune”》(2022)、《Tree of life no.07 “Jupiter”》(2022)、《Tree of life no.03 “Venus”》(2022) Photo by Miki Matsushima ©︎ 2022 Rei Nakanishi ©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS ©︎ DIESEL ART GALLERY

とにかく「画像」が好きだった。その感覚を活かせる仕事を模索した結果、上京してグラフィックデザイナーという職に就いた。しかし次第に、クライアントから発注を受け、与えられた条件下でのみ行う表現に限界を感じるようになる。

「ちょうどその頃、雑誌でアーティストの山口歴さんの作品に出会ったんです。これまで見てきた『画像』とは全然違う価値観をぶつけられたような、ものすごい衝撃でした。しかもその作品が実在しているっていう」。

2016年、その衝撃からほどなくして、山口が拠点とするニューヨークへ単身飛び立つことを決意。SNSを通じてつながることができた山口と現地で交流し、アシスタントとして採用されると、約3年を山口のもとで過ごした。

「僕、当初は敬語も使えず、人の目を見て話すこともできなかったんですけど、歴さんにしばいてもらって。あの経験がなかったら、人間として未完成だったと思いますね(笑)」。

会場風景より、《Tree of life no.08 “Saturn”》(2022)部分 Photo by Miki Matsushima ©︎ 2022 Rei Nakanishi ©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS ©︎ DIESEL ART GALLERY

何かと何かのミックスで、新しい価値を生む

中西のクリエイションにおいて山口歴が多大な影響を及ぼしたことは言うまでもないが、その影響下から一歩踏み出し、現在の独自のスタイルを確立する契機となったのは過去の自分の経験だった。

「自分らしさということを考えると、やっぱりいちばんは昔の経験だったんです。グラフィックデザインで培った経験、ネット上のなんとも形容し難い、宙に浮いているような無国籍な空気感に思いを馳せていた記憶、そういったものをテクスチャーとして作品の表面に置いているつもりです。それが少しでも『新しいもの』になっていたら良いなと思いますね」。

中西の言う「新しいもの」とは?

「いまはもう大体のものが存在しきっているので、まったく新しい何かを形成することはなかなか難しいと思うんです。だから僕は、いまあるものをミックスすることで新しい価値を生めたら良いなと、そう信じてやっています」。

会場風景 Photo by Miki Matsushima ©︎ 2022 Rei Nakanishi ©︎ 2022 GOLD WOOD ART WORKS ©︎ DIESEL ART GALLERY

ネットに興じていた生活から一転、本場ニューヨークの空気を肌で感じ、国内外での作品発表を積極的に続ける中西だが、意外にも現在は静岡の山奥に拠点を置き、ふたたび「引きこもりながら」制作に打ち込んでいるという。

「そもそも人や街があまり得意ではないんで、逃げてきました(笑)。自分には変えられない部分があるって気づいたんですよ。近所のスーパーまで車で30分かかるところにひとりで住んで、とにかくずっと制作しているという感じです。それが性に合っているんでしょうね」。

見る者がいかようにも受け取れる包容力のある作品と、作家本人の飾らない人物像には、共感を覚える人も数知れないだろう。その絶妙なバランス感覚を最大限に感じられる展示空間で、中西の生み出す「新たな価値」を体感してほしい。

中西怜 撮影:編集部

中西伶「TREE OF LIFE」
会期:2022年1月22日〜4月21日
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
開館時間:11:30〜20:00(変更になる場合があります)
https://www.diesel.co.jp/art/rei_nakanishi/
中西伶Instagram

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菊地七海

菊地七海

きくち・ななみ 編集/ライター。1986年生まれ、国際基督教大学卒業。『美術手帖』や書籍、ウェブサイトなどで編集・執筆を行う。アート、スポーツ、ライフスタイルなど、多ジャンルに適応しながら活動中。

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