東京都現代美術館で12月9日から開催される、「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」展は、初期作品から新作まで、所蔵作品および個人蔵の作品も含め、およそ400点を初めて一堂に公開する待望の個展となる。
豊嶋康子(1967-)は、東京藝術大学在学中に西武高輪美術館で作品展示を行った1990年から30年以上にわたって、私たちを取り巻くさまざまな制度や価値観、約束事に対して「私」の視点から独自の仕方で、対峙し続けてきた作家だ。
作家としてのデビューを飾った2作品、《マークシート》《エンドレス・ソロバン》が、全面修復のうえ33年ぶりに公開され、オリジナルのインスタレーションを受け継ぐかたちで展示される。なかでも、マークシート解答用紙の回答部分のみを残して黒塗りにした《マークシート》は、豊嶋が自身の表現をつかんだ重要な作品だ。
「美術の領域でやることは、相手の想定する領域を広げることだと思います。」
「自分の住んでいる空間を、自分の意思で組みなおす。」 ── 豊嶋康子
多くの世の決まりごとに「私」を交差させる豊嶋の作品は、システムと不可分の存在であり続ける私たちに、多くの示唆を与えてくれる。「天地」や「左右」はどのようにして決まるのか? あるいは裏と表をひっくり返すとは? 展示も豊嶋本人の構想にもとづいた展示構成となっており、作家の思考にそのまま触れることができる。
豊嶋は「表現」を万人の行為ととらえていることからも、その創造が美術の専門家だけに向けられたものでない。「考えさせる」作品であると同時に、「見る」楽しみや「作る」ことの誘惑も感じさせる豊嶋の作品群。同時代を生きる私たちにとって、「自分事」である作品に出会えるかもしれない。