公開日:2026年3月16日

世界アート市場、緩やかな回復と残る不安。アート・バーゼル×UBSレポートから読み解く2025年の動向

アート・バーゼルとUBSによる年次レポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026」が公開された。コロナ禍からの回復や、経済・政治情勢の流動化のなかで揺れるアート市場の行方を、レポートをもとに読み解く

世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」と、スイスに拠点を置く国際金融企業UBSによる年次レポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026」が公開された。本レポートは、ディーラー、オークションハウス、コレクター、アートフェア、美術・金融関連データベース、業界専門家など、美術取引に関わる幅広い関係者から収集・分析したデータをもとに、2025年の世界のアートおよびアンティーク市場の動向をまとめたものだ。今回は本報告書に書かれた内容をもとに、現在のアートシーンの動向と展望について解説する。

コロナ禍からの回復は本格化したのか

2025年、世界のアート市場は再び成長へと転じた。総売上高は年比4%増の推計596億ドルとなり、2年連続の縮小から緩やかな回復を見せている。ただし、その持ち直しは限定的かつ一様ではなく、市場全体としては依然として2022年のピークを下回る水準にとどまった。

出典: The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026

世界市場の中心はなお米英中、日本はやや減速

世界のアート市場のうち、米国、英国、中国の3市場が売上全体の76%を占め、その集中構造は前年から大きく変わらなかった。米国は売上額ベースで世界シェア44%を占め、前年比1%増で最大市場の地位を維持した。英国は18%で2位、中国は14%で3位となった。中国の売上は前年比1%強増の85億ドルにとどまり、ほぼ横ばいだった。国内需要が中心の中国本土ではオークション売上が持ち直したいっぽう、より国際色の強い香港市場は縮小した。

出典: The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026

また、中国以外のアジア市場でも成長の動きは一様ではなかった。2024年には市場全体の減少傾向に反して伸びを見せていた日本は、2025年には売上が前年比1%減となり、やや減速した。いっぽう、韓国は6%の伸びを記録した。

関税リスクが揺さぶる米国アート市場

2025年は、トランプ政権の政策運営をめぐる不確実性や関税政策の動きが、米国および世界のアート市場にとって大きな不安要素となった。主要取引を支える米国向けの美術品・アンティーク輸入額は前年比13%増の99億ドルとなったいっぽうで、輸出額は1%減少した。関税の影響は、適用除外や政策の修正、駆け込み輸入などによって一部緩和されたものの、多くのディーラーやオークションハウスが事業への直接・間接の打撃を指摘している。

出典: The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026

進むジェンダー均衡、それでも残る格差

昨年に続き、女性アーティストの存在感は高まりを見せた。プライマリー市場のギャラリーでは、取り扱い作家の男女比はほぼ同等となっている。全ディーラーで見ると、取り扱い作家に占める女性の割合は44%となり、2018年の32%から大きく上昇した。ただし、売上面での伸びは緩やかで、女性アーティストが占める割合は2018年の28%から37%へと上昇した。この伸びを牽引したのはプライマリー市場のギャラリーで、女性アーティストは同市場の売上の44%を生み出した。

出典: The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026

いっぽうで、こうした進展にもかかわらず、小規模ディーラーと大規模ディーラーのあいだには、女性作家の比率をめぐる格差が依然として残る。売上高25万ドル未満のディーラーでは、取り扱い作家に占める女性の割合は55%、売上額ベースでは43%だった。しかし、ディーラーの規模が大きくなるにつれてこの比率は低下し、売上高1000万ドル超のギャラリーでは、女性作家の比率は35%、売上額ベースでは27%にとどまった。裾野では参入や多様化が進んでいるいっぽう、商業的にもっとも成功する層に到達できる女性アーティストはなお限られていることがうかがえる。

なお、2025年のモダンアート部門で最高落札額を記録した作品は、女性アーティストによるものだった。フリーダ・カーロの《El Sueño (La Cama)》(1940)がサザビーズ・ニューヨークで5470万ドルで落札され、女性アーティスト作品としてオークション史上最高額を更新した。

強まる楽観論、その裏で深まる運営負担

2026年に向けて、アート市場では先行きへの楽観的な見方が強まった。12カ月前の調査時点と比べても、より多くの事業者が翌年の市場環境の改善を見込んでいる。2024年末にはパンデミック以降でもっとも低い水準まで落ち込んでいたディーラー部門の景況感も、2025年末には持ち直した。全体では、売上の改善を見込むディーラーは43%、横ばいを予想するディーラーは38%、売上減少を見込むディーラーは19%だった。

いっぽうで、2025年に売上高が回復したにもかかわらず、ディーラーは依然として大きな事業運営上の圧力に直面している。とりわけ負担となっているのが、コスト上昇と国境を越えた取引の複雑化だ。ディーラーがもっとも多く挙げた課題は、政治・経済の不安定さと、それが需要に及ぼす影響だった。これに続く懸念として、この2年間と同様に既存コレクターとの関係維持が挙げられた。実際、既存顧客は買い手全体の51%、売上額ベースでは62%を占めている。さらに、アートフェアへの渡航費や出展コストが3番目の課題となり、これに続いて間接費や運営費の増加が挙げられた。これらの費用負担は、報告された課題のなかでも前年比でもっとも大きく増加している。

出典: The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2026

また、中堅オークションハウスにとっても、2025年の最大の懸念は政治・経済の不安定さだった。運営コストや間接費は第2の課題となり、前年までよりも高い割合で指摘されている。

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