公開日:2024年4月20日

ヤングでフレッシュ、それでいてクラッシー、「ART OnO」をフォトレポート。韓国・ソウルに新しいアートフェアが誕生

ソウル江南区のSETECで、4月19日から4月21日の期間開催

「ART OnO」会場風景

ここ数年、現代アートシーンの盛上がりを見せている韓国・ソウルに、新しいアートフェア「ART OnO」が誕生した。アートコレクターで起業家のノ・ジェミョン(Noh JaeMyung)がファウンダーとなり、4月19日から4月21日の期間、ソウル江南区のSETECで開催されている

フリーズやキアフなど、すでに国際的かつ規模が大きいアートフェアが根付いているソウルで、「ART OnO」は「Art One & Only(独立的で唯一無二のアート)」をテーマに掲げ、フレッシュで質の高いギャラリーとアーティストを紹介することを目的とし設立された。筆者はART OnOファウンダーのノに、フェアの目指す像や日本のアートラバーについてコメントを求め、フェア開催前に以下の回答を得た。

「ART OnO」ファウンダーのノ・ジェミョン

──ART OnOは、ほかのメガフェアとは異なる独立性と質の高さを目指すとのことですが、それらをどのように両立させていますか?

ギャラリーブランドの知名度やアーティストとギャラリーの価値といった表面的なものよりも、作品本来のクオリティを優先しています。さらに、「ヤング&フレッシュ、それでいてクラッシー」というスローガンに込められた私たちのエスプリを反映し、既成概念にとらわれない輝きを放つ新進気鋭の才能の発掘とプロモーションを確立し、新しくも素晴らしいアーティストの紹介を心がけています。

── ART OnOにとって、ギャラリーがユニークであること、フェアがユニークであることの基準はなんでしょうか?

私たちのプログラムでは、40の個性的なギャラリーをすべて取り上げることを目標としています。コンセプチュアルなアートであれ、商業化されたアートであれ、私たちの意図は、明確なアートの指向を示すギャラリーをキュレーションして採用することです。

── 現在、日本でも多くの人が韓国のアートシーンに興味を持っています。日本のコレクターやアートラバーにメッセージをお願いします。

私は日本のアートシーンと豊かな歴史に深い敬意を抱いています。西洋の伝統だけでなく、東洋の国々は幅広い文化遺産を誇っています。とくに日本は、コンテンポラリーアートとアートコレクションにおける深いルーツという点で際立っており、歴史的な深みや文化的な意義という点で、アジアのほかの多くの国々を凌駕しています。

意欲的でポジティブな回答を得たが、実際のフェアはどのような様子なのだろうか。

初回となる本年は、韓国ローカルから国外まで40のギャラリーが参加し、アジア・ソウルでは初出展となるギャラリーもいくつかある。ひとつひとつのギャラリーとノが直接コミュニケーションを取って招待したという。アートフェアは初回の印象が大切だと言われているが、2024年の「ART OnO」では、韓国拠点のギャラリーの際立つ個性と、作品に使われるメディアの多様性に驚いた

ソウル拠点のギャラリーTHEOは、オ・サケ(Oh Sake)やユン・ジョンイ(Jeong-ui Yun)ら韓国アーティストを展示した。

THEOブース風景
オ・サケ(Oh Sake)《Quieted head》(2023)

昨年のフリーズソウルでも圧倒的な存在感を放っていたソウル拠点のCYLINDERは、ART OnOでも攻めの姿勢を崩していなかった。

CYLINDER ブース風景
イ・ウソン(Eusung Lee) 《Slow Love》 (2020)

また、ソウル拠点のGALLERY2では、1989年生まれのジェオン・ヒュンスン(Jeon Hyunsun)のペインティング群に目を奪われた。重なり合った幾何学的な形は、複合的な感情や個人的な状況を視覚的に描写している。

GALLERY2 ブース風景
ジェオン・ヒュンスン(Jeon Hyunsun)作品。平面の枠組みにとらわれず、絵画の一部分が立的的になっている

ノは、「アート」というとクラシカルな絵画作品を想起する韓国の状況を変えたく、意識して多様なメディアの作品を持ってくるよう各ギャラリーに頼んだという。

韓国内だけでなく、国外ギャラリーも見どころあるブースが多数あった。ベルリンとパリ、ソウルを拠点とするエスター・シッパー(Esther Schipper)では、リアム・ギリック(Liam Gillick)、サラ・バックナー(Sarah Buckner)、ローザ・バーバ(Rosa Barba) らの立体作品がとくに印象に残った。

エスター・シッパー(Esther Schipper)ブース 右手にはリアム・ギリックのインスタレーション
ブースの片隅に脱ぎ捨てられた靴下がある!?と近寄ってみると、サラ・バックナー(Sarah Buckner)のユーモアあふれる作品《The guy》だった

ローザ・バーバの《Poised Compression》はアルミニウムの箱の中に垂れ下がった35mmフィルムがモーターで動き、この作品を見るものはフレーム化された情報や物語、知識について考えることができる。

ローザ・バーバ(Rosa Barba) 《Poised Compression》 (2023)

シカゴ、パリ、メキシコシティを拠点とするマリアンヌ・イブラヒム(MARIANE IBRAHIM)で目に留まったのは、ドイツ生まれのガーナ人アーティスト、ゾーラ・オポク(Zohra Opoku) 。リネンの織物に黄銅の涙型の立体物がくっついている本作は、オポクのアイデンティティや現代ガーナの政治性を検証している。

マリアンヌ・イブラヒム(MARIANE IBRAHIM)ブース風景
ゾーラ・オポク(Zohra Opoku) 《'I am the lord of light. Mooring is my abomination.I shall not enter into the place of execution of the Duat.'' [Extract from Chapter 85: taking on the form of a BA/ An Ancient Egyptian Book of the Dead/ The Papyrus of Sobekmose]》(2023)

ギャラリー・シャンタル・クルーセル(Galerie Chantal Crousel)では、ドリーミーな作品を展開するミモザ・エシャール(Mimosa Echard)に惹かれた。ビーズやネックレス、絵筆の一部など一見ゴミのようなものが大切な宝物のように固められ立体、半立体として結実している。

ギャラリー・シャンタル・クルーセル(Galerie Chantal Crousel)ブース風景
ミモザ・エシャール(Mimosa Echard)《Narcisse(ouvle)》(2023)と《Narcisse(wasp)》(2023)

キュリー研究所の様々な活動からインスピレーションを得て作られた、ヤン・へギュによる韓国の伝統的な凧の作品も韓国で見る価値があるだろう。本作の売り上げは、癌の治療研究のために寄付されるという。

ヤン・へギュ(Haegue Yang)《Mesmerizing Kite - Acrobat in Butterfly-Bat-Grip》 (2022)

作品が売買されるマーケットの場だが、キュレーションへの意識も大切にしている。

特別展示「OyO (Once you Own it)」風景

キョンギ近代美術館の前館長アン・ミヒ(Mihee Ahn)に依頼し、ビデオアートやインスタレーション、パフォーマンス作品、NFTなどをインスタレーションとしてフェア会場中央に特別展示「OyO (Once you Own it)」として大々的に展開した。

「ART OnO」は継続性に重きを置き、毎年続ける予定だという。フェアの会場でノに改めて今後の展望について聞いたところ、アートフェアの中で完結するのではなく、フェアの外のカルチャー(ギャラリーホッピングや美術館、食や街遊び)との連携を強化し、韓国の文化の醸成に寄与したいという意気込みを語った。今後の韓国のアートシーンのさらなる進化に、期待が高まるアートフェアだ。

ART OnO
会場:SETEC
住所:ソウル 江南区 ナムブスンワン路 3104
会期:4月19日〜4月21日(4月18日はVIPとプレスのみ)
展覧会公式ウェブサイト:https://art-ono.com/

諸岡なつき

諸岡なつき

もろおか・なつき 「Tokyo Art Beat」マネージャー