公開日:2022年3月12日

「国立美術館アート・コミュニケーションセンター(仮称)」とは何か? 文化庁がアートプラットフォーム事業と今後の展望を発表

日本の現代アートの魅力を国内外に発信し、評価を得るためにできることは何か。3月11日に行われたプレス記者会見の様子をレポート。

文化庁が設置される中央合同庁舎第7号館旧文部省庁舎 出典:Wikimedia Commons(Wiiii)

日本の現代アートが国際的な評価を得るため、官民が一体となってできることは何か? 価値発信のため解決すべき課題に取り組むことを目的に、2018年度より文化庁アートプラットフォーム事業が行われている。

3月11日、文化庁アートプラットフォーム事業の内容と今後の展望について発表するプレス記者会見が林保太(文化庁文化戦略官)と片岡真実(森美術館館長/日本現代アート委員会座長/アート・コミュニケーションセンター[仮称]エグゼクティブ・アドバイザー)参加のもと国立新美術館で行われた。

まずは、林によって日本における現代アート振興政策の流れが説明された。文化庁内で初めて現代アートの課題の整理が行われたのは2014年度。日本には世界的なアーティストを育てるためのエコシステムが存在していないという主論点のもと、近現代アートに係るインフラが未整備(どこに何があり、どこに聞けばいいかわからない)、作家・作品の国際的な評価を高めるための活動が弱い国内のアート市場・産業の規模が小さいなどのサブ論点と解決法が提示された(論点整理については文化庁のウェブサイトで詳細を読むことができる)。

その後18年度には文化庁アートプラットフォーム事業が設立。国内外関係者のネットワーク構築と重要資料の選定、翻訳、発信、そして国内コレクション情報の可視化とネットワーク化に向けてArt Platform Japan(アートプラットフォームジャパン)をローンチ。資料のデジタル化とデータベース化を推進した。

そして、21年度には国立美術館アート・コミュニケーションセンター(仮称)に関わる予算措置が行われた。この、国立美術館アート・コミュニケーションセンター(仮称)とは何か? 片岡によって説明が行われた。

まず片岡は、東京国立近代美術館が1952年にいち早く創設されるなど、アジアにおいて日本は美術館行政では先行していたことを指摘。しかし現在は、香港に大規模なヴィジュアル文化美術館M+が開館し、アートフェアとしてアジア最大規模のアートバーゼル香港が行われるなど、現代アートに関しては日本と他のアジア諸国が肩並びの状況であり、国内のアートシーンの活性化のためにもアジア各国と協働していくこと、また、国内における美術界の連帯も必要だと主張した。

M+のメインホール Photo by Kevin Mak © Kevin Mak Courtesy of Herzog & de Meuron

そんななかで創設される国立美術館アート・コミュニケーションセンター(仮称)の目的は、東京国立近代美術館、国立西洋美術館、京都国立近代美術館、国立国際美術館、国立新美術館、国立映画アーカイブ、国立工芸館(東京国立近代美術館)という既存の国立美術館施設をつなぎ、共通の課題を検討し、国際的にも様々な事業の窓口(ゲートキーパー)かつハブになること。

具体的に行うことは、既存コレクションの価値を国際的に示せるようなナショナルコレクションを形成、有効活用、修復拠点を準備するなどの作品活用促進、デジタルフォーメーションを進めた情報資料、ラーニングに関する情報収集や人材育成を進めるラーニング、多様な社会連携の創出、海外広報、経済界・地域などとの関係を構築する社会連携国際発信の5軸だ。同センターではArt Platform Japanのデータベースシステムも活用していく予定だという。

片岡が強調したのは国立美術館アート・コミュニケーションセンター(仮称)はいわゆる箱物(建築物が新設されるような公共施設)ではないということ。各館が日々の業務のなかでやりたくてもできなかった上記のことを実施していく組織であり、「縦割りの組織にいかに横串を刺せるかというチャレンジ」だと締めくくった。

なお同日、国立新美術館を会場にシンポジウム「グローバル化する美術領域と日本の美術界:我が国現代アート振興の黎明期 ~アート・コミュニケーションセンター(仮称)と国立美術館に期待する役割~」が開催。今後の日本のアート振興や美術館支援を展望し、世界各国におけるアート支援の実例が紹介されるほか、国立美術館アート・コミュニケーションセンター(仮称)が日本のアートの発展に果たすべき役割なども紹介された。

シンポジウムのアーカイヴ映像はYouTubeでも視聴できるため気になる方はチェックしてほしい。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

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