公開日:2022年3月4日

清水寺に巨大こけしと守護獣現る! 若手作家主体のフェアARTISTSʼ FAIR KYOTO 2022が開幕

京都各所で3月5日〜6日開催。内覧会レポートをお届け

清水寺の会場風景より、Yotta《花子》 撮影:顧剣亨

ARTISTSʼ FAIR KYOTO 2022が、3月5日〜6日(メイン会場)に開催される。
2018年に京都で誕生したARTISTSʼ FAIR KYOTOは、アートフェアでありながら、ギャラリーがブースを出展するという一般的な形式とは異なり、アーティストが企画から出品までを担うという野心的な試みを続けてきた。参加作家の中心となるのは若手アーティストたちだ。国内外で活躍するアーティストで編成された「アドバイザリーボード」から推薦を受けたり、公募で選出された新進気鋭の作家たちが多様な作品を出品する。
5回目を迎える今年は、初めて清水寺も会場のひとつに加わった。

ディレクターは椿昇。「アドバイザリーボード」は、井口皓太、池田光弘、薄久保香、大庭大介、加藤泉、金氏徹平、鬼頭健吾、塩田千春、鶴田憲次、中村裕太、名和晃平、宮永愛子、矢津吉隆、ヤノベケンジ、Yotta、宮島達男、椿昇の総勢17組。

「今回で5回目を迎えるARTISTS’ FAIR KYOTOは、アーティストオリエンテッドの新たな自立型マーケット生成という初期の目的を達しながら、基礎体力というレベルでようやくスタート地点に立ちつつあるという実感を持っています」という椿昇のステートメントにあるように、若手作家を世に送り出す新たな方法を提示し、最先端の表現を見せるという意欲にあふれた本フェア。さっそく会場ごとに紹介したい。

京都府京都文化博物館 別館

メイン会場は京都府京都文化博物館別館と京都新聞ビル地下1階で、若手アーティスト45組が参加する。なかでも京都府京都文化博物館別館は、絵画作品をはじめ、壁にかけて展示する作品が中心となる。

京都府京都文化博物館 別館の会場風景 撮影:高橋保世
京都府京都文化博物館 別館の会場風景 撮影:高橋保世

京都府京都文化博物館別館は、辰野金吾とその弟子・長野宇平治が設計した明治39(1906)年竣工の建築で重要文化財。ここを舞台に、dot architects(ドットアーキテクツ)が会場デザインを手がける。単管が配され上下の二層構造になっている会場は、建築の持つ歴史的な趣きと、現代的でインダストリアルな雰囲気が混ざり合い、独特の高揚感が生まれている。

高瀬栞菜の展示風景 

ARTISTS' FAIR KYOTO 2022では、メイン協賛企業の株式会社マイナビ支援のもと、若手アーティストの活動支援をするアートアワード「マイナビ ART AWARD」を実施。今回、最優秀賞を受賞したGoh Uozumiの作品があるのはこの会場だ。Goh Uozumiは故・三上晴子のもとでメディアアートを学び、アート&テクノロジーの領域で活動するアーティスト。授賞式では、これまでの自身の活動について「作っている作品のコンセプトや性質、仕組みが、なかなかマーケットと遠いものになってしまっていた。そうすると(作家として)活動することは難しい。楽な活動履歴ではなかった」と振り返りつつ、今回の受賞については「メディアアートや現代アートといった分け隔てなく、より表現の深いところを見てもらえるようになった」と感謝の意を述べた。最先端の技術を取り込んだ、いわゆる“マーケット向き”とは違う形式の作品にも光が当たることも、本フェアの醍醐味だ。

最優秀賞を受賞した、Goh Uozumiの展示風景 撮影:高橋保世

京都新聞ビル地下1階

京都新聞ビル地下1階では、大きな立体作品やテクノロジーを駆使したインスタレーション、パフォーマンスの映像など、多様な表現手法の作品を展示する。

京都新聞ビル地下1階の会場風景 撮影:高橋保世

「マイナビ ART AWARD」で優秀賞を受賞した岩瀬海とソー・ソウエンの作品もこの会場にある。自身の身体や家族との関係を主題に、フェミニズムやクィア・セオリーを取り入れ制作する岩瀬。オランダに住む作家サラ・ミリオとともにウェブミーティングサービスを用いてパフォーマンスを行い、「隔たり」と「共有」を模索するソー・ソウエン。ともに身体や他者性へと想像をうながす作品で、その切実さは胸に迫るものがあった。

優秀賞を受賞した、ソー・ソウエンの展示風景 撮影:高橋保世
優秀賞を受賞した、岩瀬海の展示風景 撮影:高橋保世

また商品の流通システムに着目し、IKEAで購入した植物を用いた石毛健太の作品、「オフィーリア」とセックスワーカーの女性たちを重ね合わせ、「転落した女性」というスティグマを押された彼女たちへの視線を浮き彫りにする倉敷安耶の絵画など、現代社会の構造に目を向ける作品が多数あったことも印象深かった。

石毛健太の展示風景
倉敷安耶の展示風景

作品の前に作家がおり、作品について話すことができるのもARTISTS' FAIR KYOTOの面白さだ。筆者が出品作家たちに話を聞くと、「アートフェアに参加する貴重な機会が得られた」「同世代の作家と一緒に作品を展示するのは大学卒業後はなかなかなかったので嬉しい」など、好意的な意見が寄せられた。いっぽうで、ギャラリストのような作品と鑑賞者・コレクターをつなぐメディエーターが不在で、作家自らその役割を担うことに難しさを感じるという意見もあった。ARTISTS' FAIR KYOTOの試みは、アーティストの活動の在り方やアートフェア、マーケットについて、様々な人が改めて考えるきっかけを生み出していると言えるだろう。

清水寺 

日本を代表する観光地、清水寺。ここでは 「アドバイザリーボード」を務める、国内外で活躍するアーティストたちの作品が展示される。会期は3月5日〜13日。

清水寺の会場風景より、Yotta《花子》 撮影:顧剣亨

まず驚くのが、Yottaによる巨大なこけし《花子》。涅槃仏さながら横たわり、来場者を出迎える。そしてヤノベケンジによる守護獣《KOMAINU―Guardian Beasts−》は、メタリックなボディを輝かせながら、キッと睨みを利かせている。フェアのことを知らずに訪れたであろう参拝者や観光客たちも集まり、思い思いに記念撮影を楽しんでいた。

清水寺の会場風景より、ヤノベケンジ《KOMAINU−Guardian Beasts−》 撮影:顧剣亨

宮島達男の映像作品が展示された経堂に加え、通常非公開の成就院もフェアのために開かれ、多数のアーティストが作品を出品。神聖な寺院が現代アートの発表の場になる貴重な機会だ。

清水寺の会場風景より、宮島達男《Counter Voice in the Water at Fukushima》 撮影:顧剣亨
清水寺、成就院での、大庭大介《M》の展示風景 撮影:顧剣亨
清水寺、成就院での加藤泉の展示風景 撮影:顧剣亨
清水寺、成就院より鬼頭健吾《cosmic dust》展示風景
清水寺、成就院より、名和晃平《PixCell-Vulture》の展示風景
清水寺、成就院より、井口皓太《空の時計 / Blank Clocks》の展示風景

この3会場のほか、ARTISTSʼ FAIR KYOTO 2022では7つのサテライト会場もオープン。飲食店、ギャラリー、デパートなど街中でアートが楽しめる。会場ごとに会期や開場時間が異なるため、来場前にウェブサイトなどを確認しよう。

サテライト会場の千總ギャラリー 撮影:高橋保世

また、今回から若手批評家育成プロジェクトを始動させることも大きな特徴だ。プロジェクト『歴史・批評 ・芸術』は、日本でグローバルなアート市場を作り活性化させるため、批評の重要性を改めて見つめ直し、批評家の育成と活動の助成を目的として行われる。今年の批評家は、沢山遼(美術批評家)と山本浩貴(文化研究者、アーティスト、金沢美術工芸大学講師)の2名で、これまでARTISTSʼ FAIR KYOTOに参加したアーティストの作品の批評を執筆、書籍化し国内外へ発信する。また3月5日、6日は、シンポジウムやトークイベントを京都文化博物館 本館1Fろうじ店舗にて開催する。こちらも合わせてチェックしてほしい。

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2022 マイナビ ART AWARD」授賞式の様子。左から、椿昇、落合和之(株式会社マイナビ執行役員)、Goh Uozumi(最優秀賞受賞作家)、審査委員の飯田保子と山峰潤也

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2022」
開催日時

<メイン会場>
2022年3月5日(土)、3月6日(日)
10〜18時

<清水寺>
2022年3月5日(土)〜3月13日(日)
10〜17時

会場
会場京都府京都文化博物館 別館
京都新聞ビル 地下1階
音羽山 清水寺

チケット
入場料:共通チケット2400円、学生1000円(要・学生証)、高校生以下無料(要・学生証)
※共通チケットは2022年3月6日(日)まで利用可能/7日以降で清水寺会場をご覧になられる場合には600円の拝観料がかかります。
※京都新聞ビル 地下1階は無料

問い合わせ
TEL: 075-414-4219
FAX: 075-414-4223
bungei@pref.kyoto.lg.jp
https://artists-fair.kyoto/

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より現職。