
「だれもが文化でつながる国際会議2026」キーヴィジュアル Design: Higuchi Maiko, Typeface “Clementite”: François Dey / Silly Type Foundry
ウェルビーイングとは、そもそも何か? 心身ともに健康で、よりよく生きること。それを「理想的な状態」だと思い浮かべる人も多いだろう。しかし、「だれもが文化でつながる国際会議2026」が指し示すのは、その先にあるものだ。
「だれもが文化でつながる会議」は、東京都とアーツカウンシル東京による「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョー(CWT)」の一環として2022年に始まった。今回で5回目を迎える。これまでの集大成となる2026年のテーマは、「Moving Together―ともに生きる文化」。
カンファレンス、ネットワーキング、展示という3つの構成を通じて、他者や環境、自分自身との関係を多角的に考えていく。5年にわたる試行錯誤のなかで、このプロジェクトはいかにして現在の問いにたどり着いたのか。国際会議ディレクターの森司と、企画担当の岡崎未侑に話を聞いた。
──今年の「だれもが文化でつながる国際会議2026」は、「Moving Together―ともに生きる文化」をテーマに、5日間にわたって様々なプログラムが展開されます。今回の会議ではどんなことを考えていくのでしょうか?
岡崎未侑(以下、岡崎) 「Moving Together」はアクションを表す言葉です。クリエイティブ・ウェルビーイングという概念について考えるなかで、そのウェルビーイングな状態を生み出すには、どうアクションを起こすとよいのか。「Moving Together」には「ともに動く」という意味に加えてTogether=コミュニティやコレクティヴなどをMove=動かしていく、という解釈も込めています。今回の会議ではまさにそうした「Moving Together」を体現する方々が集まります。
森司(以下、森) その開催に先駆けキックオフ企画としてアーティストや研究者による「マルチスピーシーズ」も開催しました。昨年度の会議において自分の「居場所」をめぐる議論から「他者性」を含めた視点へと広がったことを受けてのことです。
「マルチスピーシーズ」とは、人間を含むあらゆる存在が絡まり合いながら世界をかたち作っていることに目を向ける考え方のことです。他者と聞くと僕らはつい人間を中心に考えてしまうけど、環境や生物など、より広い視野を取り込むことで、議論が深まるのではないか。そんな問題意識から、写真家の石川直樹さんに8000m級の山の世界について語ってもらいました。さらに、くじらとともに生きる人々をテーマに作品を制作する美術家の是恒さくらさん、食と農の歴史や思想を研究する藤原辰史さん、それぞれ異なる領域から人間と世界の関係をとらえる専門家たちにお話いただきました。

──「他者」の存在を、キックオフで最大限まで広げてみたわけですね。
森 はい、そうなんです。それを受けてオープニングセッションでは、アーティストで京都市立芸術大学学長の小山田徹さんに、現在、京都で取り組んでいるプロジェクトについて具体的に語ってもらいます。人間のスケールを超えた「時間」に目を向けることで、見えてくることはたくさんあるはずです。アーティストの鴻池朋子さんは、様々な動物をモチーフに、サイトスペシフィックな作品を作ってきました。哲学者の齋藤百合子さんには芸術文化を非日常の特別な行為ではなく、日常のなかにある美としてとらえることについて論じていただきます。

岡崎 セッション1「しなやかな共助」では、コミュニティのなかで活動を続ける実践者が対話をします。アーティストのクリスティン・ウォン・ヤップさんはメンタルヘルスに課題を持つ人たちや移民のコミュニティに関わりながら活動しています。アーティストの瀬尾夏美さんは東日本大震災をはじめとした被災地で地域の人たちと活動を続けてきました。研究者の森下有さんは、研究施設のある北海道でのフィールドワークを通して、地域にある環境資源を読み直し、既存の関係性を再構築しています。タイトルにある「共助」は英語では”Interdependence(インターディペンデンス)”としています。支援する側/される側という固定された関係ではなく、時にその立場が入れ替わりながら、互いに助け合っていく。そんな関係性の在り方を、「しなやかな共助」という言葉に込めました。
セッション2のテーマは、「アイデンティティと文化」です。登壇者はパレスチナ出身のアーティストのジュマナ・エミル・アブードさん、アイヌ民族にルーツを持つ研究者である北原モコットゥナㇱさん、ろう者の大学教授である松﨑丈さんです。アイデンティティは多様な要素が絡まり合ってかたち作られるものですが、社会では、無知や無自覚さによって時に誰かを沈黙させてしまったり、文化やルーツをないものにしてしまうことがあります。社会で生きることと切り離せない「わたし」とどう向き合っているのか、3人の登壇者が対話するセッションです。

森 だれかのあたりまえを強いられる社会構造への疑問を投げかけ、そのような社会でどう生きるかということをそれぞれ考えます。当たり前が違う人々が「ともに生きる」ことには、困難や緊張が付きまといますが、そこに向き合い、対話や表現の可能性を話し合います。
──環境や地域、アイデンティティと、論点を少しずつ移しながら議論を深めていくんですね。セッション3では、そこからどのような展開があるのでしょうか?
岡崎 セッション3「Moving Together 夢とともに生きる」に登壇するのは、インドの出版社「タラブックス」の創設者ギータ・ヴォルフさんと、同社から絵本を出版したアーティストのサンギータ・ジョギさん。インドの小さな村に生まれ、満足に学校に行けなかったり、家事労働を担わなければいけない環境で生きてきたジョギさんは、絵を描くことで自分の道がひらかれるという経験をしました。彼女の表現に共感し、日本語の翻訳を手がけた小林エリカさん、帯文を寄せた西加奈子さんも登壇します。ひとりの「夢」が共感を呼び、バトンリレーされて世界に広がっていくさまは、まさに「Moving Together」を体現するものだと思います。
最後にクロージングセッション「クリエイティブ・ウェルビーイング ともに生きる文化」では、3日間伴走してきたモデレーターとともに、ここまでの議論を総括しつつ、ウェルビーイングを生み出す「クリエイティブ」の役割を再確認します。そして、未来、次世代へ向けてメッセージを伝えていただきます。登壇者は、クリエイティブディレクターの小池一子さん、アーティストの宮島達男さん、そしてロンドン市の文化・クリエイティブ産業担当で副市長のジャスティーン・サイモンズさんと、アーツカウンシル東京機構長の青柳正規です。各分野の公的機関を含む行政やクリエイティブな分野の前線で長年活躍されてきた登壇者の方々です。
森 モデレーターはアーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーターの堀内奈穂子さんと、ロジャー・マクドナルドさんです。倫理的、美学的な視点を持つふたりが、アンカーとしてキックオフからクロージングまで議論をともにしていきます。
