公開日:2024年12月11日

今月の読みたい本!【12月】パレスチナ問題、ロシアの現代アート、ソフィ・カル、K-POP、障害と映画、日本の戦後美術など

アート、映画、デザイン、建築、マンガ、ファッション、カルチャーなどに関するおすすめの新刊を毎月紹介。

ガザ 欄外の声を求めて FOOTNOTES IN GAZA

ジョー・サッコ
早尾貴紀 訳 Type Slowly 2300円+税 10月3日発売

パレスチナ/イスラエル問題についてマンガを通して知ることのできる貴重なコミック・ジャーナリズムの1冊。マルタ共和国出身でアメリカ在住のマンガ家、ジャーナリストである筆者は2002〜3年にガザ地区を訪れ、かつてパレスチナで起きた出来事について目撃者に取材を行った。その出来事とは、1956年にガザのハーンユーニスで275人、ラファハで111人のパレスチナ人がイスラエル兵に射殺されたというもの。無数の公文書の奥に埋もれた凄惨な大虐殺事件に着目し徹底的な独自調査を行い、ガザ地区の過去と現在、悲劇の本質を浮かび上がらせる。

オペレーションの思想 戦後日本美術史における見えない手

富井玲子
イースト・プレス 5000円+税 11月6日発売

ニューヨーク在住の美術史家による著者は、日本の1960年代美術を出発点として、戦後美術のグローバルな展開を語るための方法論を構築し実践することを主な仕事としてきた。本著は戦後日本美術を俯瞰し、グローバルかつ脱西洋中心主義的な視点からその到達点を示し、近現代美術の100余年の歴史を支えてきた見えない仕組み(=オペレーション)を看破する画期的論考集。

なぜなら

ソフィ・カル
青幻舎 9000円+税 11月19日発売

三菱一号館美術館の再開館記念「『不在』ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」が開催中の、フランス出身の作家ソフィ・カル。2018年に発表したシリーズ「Parce que」(なぜなら)に合わせて刊行された書籍の日本語訳が発売。「なぜなら」から始まるテキストが刺繍された布がフレームを覆い、鑑賞者はテキストを読んだ後で布をめくり、そこにある写真と向き合うという作品同様に、書籍でもまず言葉を読み、その後で自ら写真を取り出すことでイメージを探るという構成になっている。仏英新版と同内容、新作6作を収録。近現代美術キュレータ岡部あおみの監修により、ソフィ・カルの作品世界が美しい日本語で示されている。

スクリーンのなかの障害:わかりあうことが隠すもの

塙幸枝
フィルムアート社 2400円+税 11月26日発売

映画はどのように障害を描いてきたのか。「スクリーンのなかで障害がいかに描かれてきたのか、また、より今日的な映画作品のなかで障害がいかに描かれるようになったのか」を論じる本書は「スクリーンのなかの障害」の歴史が通時的に綴る。『フォレスト・ガンプ/一期一会』『カッコーの巣の上で』『最強のふたり』『アイ・アム・サム』『コーダ あいのうた』『ケイコ 目を澄ませて』など古今東西の作品を例に、歴史、物語のパターン、再現による同一化、当事者性⋯⋯様々な角度から映画と障害のつながりを解きほぐす。

K-POPはなぜマイノリティを惹きつけるのか:クィアとアイドルの交差するところ

ヨン・ヘウォン 編著
キム・セヨン、キム・ミンジョン、パク・キョンヒ 訳
河出書房新社 2400円+税 12月2日発売

ファンダム、推し活、BL、ジェンダー……。世界中を席巻するK-POPの魅力を、「クィア」という切り口で読み解く画期的評論集。小説家、研究者、活動家など、様々な書き手が結集した1冊。

「お静かに!」の文化史 ミュージアムの声と沈黙をめぐって

今村信隆
文学通信 1900円+税 12月4日発売

美術館に足を運んだ際に、「お静かに!」という注意を受けたり、されないようにと気遣ったりする体験は多くの人に馴染みのあるものではないだろうか。北海道大学准教授で美学、美術批評史、博物館学を専門とする筆者が、「お静かに!」の背後にひろがる諸問題について扱い、美術作品の鑑賞という営みと、「声」や「会話」との関係について考える。

生きのびるためのアート 現代ロシア美術

鴻野わか菜
五柳叢書 3600円+税 12月5日発売

ロシア東欧美術・文学・文化研究の鴻野わか菜による、現代ロシアのアートを全般的に紹介する日本で初めての書籍。歴史篇、主題篇、作家篇の3部構成で、ソ連崩壊後のロシアの美術や社会の文化と変容をひもとく。ロシア各地域での現代アートの興隆や、検閲と統制、ジェンダーやセクシュアリティの表現、パンデミック、ウクライナ侵攻後の美術など、様々な視点からアーティストたちの表現について検討する。また多数の作家が近年、大地の芸術祭や瀬戸内国際芸術祭に参加していることをふまえ、こうした文化接触や国際芸術祭の意義についても考察する。

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