ジョン・シンガー・サージェント 1902年8月のエドワード7世の戴冠式にて国家の剣を持つ、第6代ロンドンデリー侯爵チャールズ・スチュワートと従者を務めるW・C・ボーモント 1904 Gif t of an American Private Collector and Museum purchase with the generous assistance of a friend of the Museum, and the Juliana Cheney Edwards Collection, M. and M. Karolik Fund, Harry Wallace Anderson Fund, General Funds, Francis Welch Fund, Susan Cornelia Warren Fund, Ellen Kelleran Gardner Fund, Abbott Lawrence Fund, and funds by exchange from a Gift of John Richardson Hall, Bequest of Ernest Wadsworth Longfellow, Gift of Alexander Cochrane, The Haydenz Collection—Charles Henry Hayden Fund, Anonymous gift, and Bequest of Maxim Karolik
2020年に設立150周年を迎えたボストン美術館は、古代エジプト、アジア、ヨーロッパ、アメリカの美術をはじめとする古代から現代までの作品を収集し、そのコレクションは現在50万点近くに及ぶ。7月23日から10月2日まで東京都美術館で開催される「ボストン美術館展 芸術×力」では、膨大なコレクションから「芸術と政治権力の関係」にフォーカスして選ばれた約60点が来日。そのうち、およそ半数の作品が日本初公開だ。ちなみに今展は2020年4月に開催予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響でいったん中止に。待望の開催となる今回は、東京都美術館のみでの開催となる。

古代エジプトのファラオや19世紀のフランス皇帝ナポレオンをはじめ、統治者の姿は人々を圧倒するような姿で絵画や彫刻に表されてきた。大きさ、威厳のある表情、贅沢な衣装、装身具や紋章は権力者が有するとされる富や知性や徳を象徴し、その力の強大さを表現している。そういった力の表象は地域が変わるとそのあり方も変わる。例えば日本美術では天皇の姿があからさまに描かれることはほとんどなく、牛車や御簾の内にその存在が示唆されたりもする。そういった地位によって異なる人物表現の違いが見て取れる合戦絵巻の傑作、そして日本にあれば国宝指定されていたとされる「幻の国宝」《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》も展示される。



実際的な政治だけでなく、宗教的な儀式を執り行うことも為政者の重要な役割だった。かれらは神々や霊魂の聖なる世界と俗なる地上の世界をつなぐ者として自らを誇示し、その権力をいっそう強めてきた。そういった信仰・宗教の関わりを伝える作品として、14世紀イタリアで作られた祭壇画の一部、東大寺に伝来した紺紙銀字経《華厳経(二月堂焼経)》などを紹介する。


美術作品のなかには、政治と権力の中心である宮廷の様子も描かれてきた。贅を凝らした荘厳壮麗に飾り立てられた空間は、訪れる人々に支配者の力を体感させる「劇場」的空間であったとも言えるだろう。そうした宮廷の建築や庭園、室内の様子が描かれた作品に加え、ジュエリーや食器セットなども展示される。


権力を維持する、あるいは政治的駆け引きのために、美術品は外交の場での貢ぎ物としても活用されてきた。贈り物がなされる場面を表した作品、為政者が贈り物としてつくらせたと考えられる銀器などから、美術を介した国家や組織間の力の応酬を感じることもできるかもしれない。


展示の最終章では、「たしなむ、はぐくむ」として、権力者たちの芸術のパトロンとしての側面を紹介する。かれらが収集したコレクションは今日の美術館や博物館の礎となっていることは言うまでもない。ヨーロッパだけでなく、今展のために修復された《孔雀図》などを通して日本におけるパトロン文化に触れることもできるだろう。

