公開日:2025年8月5日

「チェン・フェイ展|父と子」展がワタリウム美術館で開催。加藤泉が紹介する中国新世代画家の愛情に満ちた新境地に注目

父子関係と芸術家アイデンティティを探求する展覧会がワタリウム美術館で開催中。会期は7月3日〜10月5日

会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto

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加藤泉の紹介で実現した待望の個展

中国の新世代を代表する画家チェン・フェイの個展「チェン・フェイ展|父と子」展がワタリウム美術館で開催中。会期は10月5日まで。

チェン・フェイは、1983年山西省生まれ。現在、北京を拠点に活動している。政治的なグランドナラティヴが崩壊した時代背景のなかで、日常生活に散在する時間の断片を発見・再構成することに長けた画家として評価され、上海余德耀美術館、日本の下山芸術の森発電所美術館、ペロタン(ニューヨーク、パリ、香港、北京)、ギャラリー・ウルス・マイレ(ルツェルン)などで個展を重ねてきた。

会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto

今回の展示は日本を代表するアーティスト、加藤泉の紹介により実現したという。10年来の友人であるふたりの関係について加藤は「僕たちは国も世代も作品のタイプも違うけど、絵を通して世界に接続したいと思ってる、同じ種類のペインターだ」とコメントを寄せている。

左から加藤泉、チェン・フェイ ワタリウム美術館にて 撮影:編集部

父親になった転機から生まれた新作絵画15点

本展では、コロナ禍の影響が残る2022年から2025年にかけて制作された新作絵画15点のほか、高さ7メートルの壁画、インスタレーション、ドキュメントなどが紹介されている。

パンデミックによる社会の混乱のなかで、チェンは現実主義の画家として時代と向き合う困難に直面し、現実に関わるモチーフを扱うことすら空々しく感じられる時期が続いた。その転機となったのは父親になったことだった。生活の重心が変わり、子供の成長に自然と目が向くようになったことで、「家」というものに対する不安や執着から解放され、命や生活そのものへの信頼を取り戻すことができたという。

そして本店の出発点となっているのは、ナチス時代のドイツで活動した漫画家E.O.プラウエン(1903〜44)の名作『Vater und Sohn(父と子)』だ。単純な父子関係を描くだけでなく、特異な社会情勢のなかで家族、仲間、愛という普遍的テーマを探求した傑作として知られる本作に共鳴するように、チェンは自伝的なアプローチで親しい人々との関係を描き、中国人画家としてのアイデンティティを織り込んでいる。

会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto

早産の娘への愛から生まれた《ラブレター》

会場で特別な存在感を放つのは、鮮やかなピンクの《ラブレター》だ。これは作家の極めて個人的な体験から生まれた作品である。早産で生まれた娘の体重は1⽄(500グラム)にも満たず、その健康状態を毎日記録し続けた便の写真が創作の源泉となっているという。

会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto
会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto

同様に父親としての体験を基にした《超自然》(2022)は、作家が初めて娘を描いた記念すべき作品だ。「初めて父親になったときのように、緊張しすぎて上手く描けないのではないかと心配になった」と制作時の心境を明かすチェンは、子供の誕生が制作に与える影響を否定しようとしたものの、最終的にはその感情の変化を受け入れ、作品に反映させることで新たな表現領域を開拓している。

会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto

父と子の家族関係を深く掘り下げながら、作家自身が抱く職業的アイデンティティについても思索を重ねた本展。チェン・フェイの近年の変化と成熟を物語る、愛情に満ちた作品群と出会うことができる。コロナ禍を経て父親となったアーティストの新たな境地を、ぜひ会場で体感してほしい。

会場風景 Courtesy of WATARI-UM, The Watari Museum of Contemporary Art Photo: Osamu Sakamoto

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