公開日:2023年4月11日

真鍋大度「EXPERIMENT」レポート。テクノロジーの未来をアートで実験する

5月10日まで開催。山梨県北杜市にある清春芸術村にて、4つの「EXPERIMENT」を出品

EXPERIMENT 4《Cells: A Generation》の前で話す真鍋大度

山梨県北杜市にある清春芸術村にて、真鍋大度の個展「EXPERIMENT」が開催されている。会期は5月10日まで。

真鍋大度は1976年生まれ。岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業後、ライゾマティクスを主催。テクノロジーを用いて、身近な現象や素材を異なる目線でとらえ直す作品を制作してきた。YouTube上で公開された「electric stimulus to face」は初期の代表作のひとつだろう。自身の顔に医療用の電極を貼り付け、電気信号を流して顔の筋肉を意図せずに動かすという、インパクトのある作品だ。ライゾマティクスとしては、東京都現代美術館での大規模個展「ライゾマティクス_マルティプレックス」も記憶に新しい。

他方で、真鍋は自身やコレクティヴとしての制作だけを追求しているわけではない。坂本龍一、Perfume、ビョーク、スクエアプッシャーといったアーティストと積極的にコラボレーションし、ライブや映像のディレクション、プログラミングなど、表現をサポートする活動も展開してきた。

あるいは、大学の研究機関と連携し、最新のテクノロジーをアートへと活用してきたことも印象的だ。本展もそうした協働の例外ではなく、ソフトバンク株式会社、高橋宏知研究室(東京大学大学院情報理工学系研究科)、神谷之康研究室(京都大学情報学研究科)が制作協力として参加している。

本展で公開されるのは、こうした協力機関が保有する最先端の技術を試すための、「EXPERIMENT」と題された4つの作品。4年ぶりの個展となる真鍋は、開催にあたって以下のようにコメントした。

ライゾマティクスをはじめ、いままで多くのプロジェクトをやってきた。だが、今回は個展なので、長く個人的に興味を持っていたトピックに挑戦した。すぐに作品の面白さがわからないかもしれないが、自分がやりたかったことはこういうことだったんだ、と10年後に気づいてもらえたら。

真鍋大度

真鍋の作品が展示されるのは、安藤忠雄設計による光の美術館。展示空間には一切の照明がなく、館内に差し込む自然光のもとで、作品鑑賞を楽しむことができる。

光の美術館外観

EXPERIMENT 1:オーディエンスで変形する粘菌

1階に展示される最初のEXPERIMENT《Telephysarumence》は、粘菌のシミュレーションを用いた作品。粘菌は、周囲の環境の変化によって集団のかたちを変え、予測が難しい独特な振る舞いをする。本作は、カメラに映る観客の動きが、スクリーン上のシミュレートされた粘菌にフィードバックされることで、音声と映像が生成的に変化していく。将来的には、実際の微生物に対して、遠隔でインタラクションする作品を目指しているという。

会場風景より、EXPERIMENT 1《Telephysarumence》

EXPERIMENT 2:映像と音声の高速フィードバック

2つ目のEXPERIMENT《Teleffectence》は、高速通信を用いた作品。光の美術館と、同じ北杜市にある公共施設、長坂コミュニティ・ステーションの2ヶ所にカメラとディスプレイ、マイクとスピーカーを設置し、音と映像のハウリングを起こす。カメラに映ったものや人が、モニター上では無限に後退していくようだ。入力された映像と音声を、即座に送信し、さらに入力が重ねられて戻ってくるというこのラリーは、遅延が極めて小さい、最新の通信技術によって実現している。

会場風景より、EXPERIMENT 2《Teleffectence》
会場風景より、EXPERIMENT 2《Teleffectence》

EXPERIMENT 3:音楽から映像を生成する

3つ目のEXPERIMENT《dissonant imaginary》は、聴覚と視覚のつながりを探る作品。本作は、ある音楽を聞いたときに、音楽に関連する映像が感情とともに想起されるという経験に注目。神谷之康研究室が開発した、人の脳活動のパターンを機械学習によって認識・解析し、心の状態を解読する「ブレイン・ディコーディング」を用いて、被験者の脳情報から生成された映像が上映される。

会場風景より、EXPERIMENT 3《dissonant imaginary》

EXPERIMENT 4:ラット細胞に絵を描かせる

最後のEXPERIMENT《Cells: A Generation》は、ラットの神経細胞に絵を描かせるという実験。人工知能とは異なる「生命知能」を探求する高橋宏知研究室の協力のもと、ラットの脳細胞が環境に応じて学習する仕組みを開発。スクリーンには、稼働しているラットの細胞や、絵を描く様子が映される。人間の創作欲求や、メディウムによる制作の限界を問うような作品だ。

会場風景より、右がEXPERIMENT 4《Cells: A Generation》
EXPERIMENT 4《Cells: A Generation》の前で話す真鍋大度

清春芸術村の見どころは、本作が展示されている光の美術館だけではない。ギュスターヴ・エッフェル設計の「ラ・リューシュ」や、谷口吉生設計の「清春白樺美術館」、20世紀を代表する宗教画家ジョルジュ・ルオーを記念する「ルオー礼拝堂」などなど。展覧会に合わせて、小旅行を計画してみるのもよいかもしれない。

清春芸術村内の「ラ・リューシュ」
清春芸術村内の「ルオー礼拝堂」
清春芸術村内の「茶室 徹」(設計:藤森照信)

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。