3月2日から国立新美術館で「ダミアン・ハースト 桜」が開催される。会期は5月23日まで。
ダミアン・ハーストは1965年イギリス・ブリストル生まれ。84年からロンドン在住。88年ゴールドスミス・カレッジ在学中に、同窓生と開催したグループ展「フリーズ」を主催。のちにハーストを含む同展の参加作家は、90年代にイギリスで頭角を表す「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)」と称されることになった。
本展はカルティエ財団によって開催された、ハースト初となるフランスでの個展「Cherry Blossoms」(2021年7月6日〜22年1月2日)の巡回展。107点から成る「桜」シリーズから作家自身が選んだ24点の大型絵画で構成される。
「桜」シリーズは19世紀のポスト印象派や20世紀のアクション・ペインティングといった西洋絵画史の成果を独自に解釈したものだ。生物の死骸を用いたインスタレーションや空間を薬局のように演出した作品など、既存のメディアにとらわれない表現で知られるハースト。だが、同シリーズでは絵画という伝統的な表現に回帰している。
桜というモチーフについて、ハーストは以下のように説明している。「〈桜〉のシリーズは、美と生と死についての作品なんだ。それらは極端で、どこか野暮ったい。愛で歪められたジャクソン・ポロックみたいにね。〈桜〉は装飾的だが、自然からアイデアを得ている。欲望、周囲の事柄をどのように扱い、何に変化させるのかについて、さらに狂気的で視覚的な美の儚さについても表現している。〈桜〉は快晴の空を背にして満開に咲き誇る一本の木だ」(展覧会ウェブサイトより)。長く生と死の不可避さを念頭において制作してきたハーストは、桜の儚さにもこのテーマを見出している。
どの作品も桜が描かれているものの、木の部位、花びらの色使い、背景となる水色の濃淡など、よく見ると少しずつ異なることがわかる。
マーケットではたびたび高額で落札され、いわば現代アートのスター街道を歩んできたハースト。意外にも日本初の大規模個展である同展に、足を運んでみてはいかがだろうか。