公開日:2015年12月15日

セドリック・デルソー「DARK LENS」インタビュー

「スター・ウォーズ」の世界観と現実が織りなす、日本初となる写真展

DIESEL ART GALLERY では2016年2月11日(木) まで、フランス人写真家、セドリック・デルソーの日本初となる写真展『DARK LENS』が開催されています。ジョージ・ルーカスも絶賛する『DARK LENS』は現実の世界と、SFの世界が入り混じった不思議な景色を映し出すことで、ダブル・デジャヴュを体験させます。

photo by Philippe Bergonzo

セドリック・デルソーは、1974年生まれ。パリ在住。2008年、初のシリーズ作『HERE TO STAY / NOUS RESTERONS SUR TERRE』を出版。 第二作目として写真集『DARK LENS』を出版し、Bourse du Talent賞(2005年)、Prix du livre d’auteur Arles賞(2012年)を受賞。パリ、ドバイ、中国、アメリカ、ポーランドなど世界各地で展覧会を開催すると同時に、各国を旅しながら『DARK LENS』を深化させつつ、新たなプロジェクトにも取り組んでいます。

– はじめましてセドリック。まずはインタビューの前に、昨日フランスがテロにあったとニュースで知りました。私たちは心配しています。

フランス人はテロは絶対またあるって知ってたけど、ショックですね。今回テロがあった場所は、僕は3年間住んでいて、よく知っているんだ。だからよりショックです。

セドリック・デルソー

– 私を含め、日本の人たちでフランスに行ったことがある人は多く、知っている土地だからこそ想像が働き、心を痛めています。

普通のテロと今回のテロの違いは、ターゲットとする人たち。ゆっくりテラスで座ってた人やコンサートで楽しんでいた人たちを狙ったことだと思っています。フランスという国のルーツーーつまり人ではなく、文化に攻撃をしかけた。ライフスタイルに攻撃をした。これは初めてのことです。テロがあった場所は、フランス人も多いけれど、ヨーロッパ人やその他の外国の人が多く住んでいる場所です。それは、フランス人だけを狙ったのではなくて、フランスという国の文化のあり方、つまりヨーロッパ人までターゲットになっている。その意味は大きいです。

– フランスは移民を早くから受け入れていた国ですよね。そういう国がテロの対象になったこと、今の状況とスター・ウォーズの状況がすごく近くなっていることについてお話を聞いてもいいですか?

これから作品の話をするにあたって、そろそろこの世界の見方はカオスになっていくとか、終末思想とかもあるけれども、今回は物語がここまで現実に近づいていてショックが大きいね。スター・ウォーズが世界中で成功したのは、観客がどんな文化背景を持っていても、どんな肌の色でも、自分自身がこの物語の中を生きているように感じられたこと、観客それぞれの鏡のようになっていること。「私はこの立場」とか「僕はここに共感できる」と、思えることだと思っています。

– 今回展示を企画したキュレーターのフィリップとの関係を教えていただけますか?

フィリップ: 僕は日本に住んでいたけど、僕の弟がパリで写真のギャラリーを持っていて、セドリックはそのギャラリーのアーティストの1人として7年位前から仕事をしていました。僕たちは6年前にパリで一回会って、いつか日本で彼の仕事を見せたいなと思っていたんだ。彼もチャンスがあればいつでも良いよという感じだった。その時は、いつやろうか、どこでやろうかと話したけど、二人ともあちこち忙しくしてて中々合わなかった。たまたま去年フランスで会うことがあって、じゃあ何かプロジェクトがあるかなと思って話している時に、このディーゼルの企画もありますよとなって。それからは、ぱぱぱぱぱーっと話が進んで、ぱぱぱぱぱーっと展示が決まりました。

– 新しいスター・ウォーズの映画が始めるタイミングで展示が決まって、日本のみんなはこの時期にこの写真を独り占め! 独り占めじゃないけど、こんな風にみれて嬉しいですね。

そうだね。かなりいいタイミング。

– セドリックさんは、日本は初めていらしたのですか?

ええ、来日できてとても嬉しいです。到着したのはちょうど24時間前です。まだ24時間しか経ってないけど、もうたくさん歩いたよ。渋谷、新宿、表参道……これから2週間滞在する予定なんだ。写真家という仕事の関係で、世界中のいろんな場所に行っているけれど、行きたいとずっと願っていた国が2つ残っていました。それは、インドと日本。今回はそのチャンスが来た。僕は誰かが何かを呼んでいるような、場所に呼ばれて行くやり方が、気持ちよい仕事ができると思っていて、行きたい場所があっても自分から行かずに、待つようにしているんです。

Dark Lens, Two Speeder Bikes, Dubai, 2009 © Cédric Delsaux

日本はずっと前から興味があったんです。なぜかと言えば、日本は「イメージ」の国だから。昔は版画、つまり浮世絵の国として、そして今は写真の国になったよね。写真がフランスで生まれ、日本は写真の国になった。だから僕にとって日本はフランスに近い文化だと思っていて、絶対に行きたかったんです。

– この2週間でどこか行く予定があるのですか?

違う国に行くときは、できる限り新しい見え方を持つように、別の感じ方を感じられるようにしたいと思っています。誰でも日本に来る前から、写真や映画などで持っている日本の印象ってありますよね。だからすでに印象を持ってしまったものを見に行くというよりは、滞在中の2週間で何か今までの印象とは別のことを感じられるような体験をしたいと思っているんです。コミュニケーションをとるのもそうだし、前もって調べた場所を確認しに行くようなやり方ではなく、その場所に行って自分に近い気持ちの出会いがあるようにしたいですね。

ダークサイドとまでは言わないけど、以前に事故があった場所や過去に何かあった場所は、写真家の仕事として必要。僕は問題になった所に「自然に」行きたい。これから危なくなりそうな所にも「自然に」行きたい。これから何か起こりそうなところも探しています。あともぬけの殻となった場所も探しているんだ。既に何かあったか、これから何かありそうな場所。何かが出来上がる前の場所や、何かがかつてあった場所を探しています。

かといって、僕はジャーナリストではないので、問題があったらすぐにいって撮影をするとか、フランスが「今」どうなっているかとかの問題を写真に撮るという手法ではく、もっと違うアプローチをとります。何か問題があっても「今」とは違う視点を持って、落ち着いた気持ちでその場所に行きたい。それは、自分の世界を探しに行くためです。

Dark Lens, AT-AT in Fog, Dubai, 2009 © Cédric Delsaux

– スター・ウォーズの世界では、悪にも善にもルールや秩序がありますよね。悪と言われる側にも、それなりの国の統治の仕方がある。今の地球は、悪と善と目に見える形の対立はないですが、映画のようにどこかでいつも秩序の違いによる衝突がありますね。

スター・ウォーズの物語の中の歴史でも、言葉として切り取ってみれば、善でも悪でも「私たちがあなたを守る、統治する」と言っています。「良い国をつくるために」「良い結果をもたらすために」という理由があるからこそ、ダークサイドの力さえ使うと言います。一方、優しいと言われている人たちも、「私はそんな力は使わない」とは言っても結局の所、歴史を振り返るとスター・ウォーズに出演しているように、力を使っています。僕は結局は、善に行くためには悪を知らないと善にたどり着けないんじゃないかなと考えています。映画を見てると、ジェダイたちも善じゃないように見えるんです。善を遂行するプロセスは善だけじゃない。だから僕の作品のタイトルも「ダーク・レンズ」としています。そんなタイトルだから、鑑賞者からは「ダークサイドの世界しか扱わないの?」「明るい方からの視点は撮らないの?」と聞かれるけど、僕は意識的にダークサイドの視点から世界の秩序を撮影しているんです。

– それは、既に私たちは倫理として「善」を持っているから(わざわざ映すまでもなく)悪を映すという意味ですか?

ルーク・スカイウォーカーはわかりやすい子供っぽさ、ピュアさ、善人という記号を持った、言ってしまえば簡単な人として描かれています。一方、ダース・ベイダーは少し複雑な人間。僕がこの作品を作った目的は、スター・ウォーズの話をしたかったのではなくて、人間としてダークサイドをすべての人は持っていて複雑だということ。もちろんポジティブとか優しさも持っているけれど、それを描くのは簡単。心の複雑さや自分の醜悪さを描くのは簡単じゃないから、その道を調べたいと思って制作をしたんだ。

– ルークは父を信じるという善の心を示すだけで、結局は複雑な心を持つダース・ベイダーがシスを道ずれにするという形でルークに勝利を与えましたよね。「悪が別の悪に手を下す」という方法を促しただけで、ルークは自分で手を下さなかったですね。

そういう細かい映画の意見はたぶんいろいろあると思う。ヨーダだっていろんな場面で、ダース・ベイダーを殺せたのに、殺さなかったとか、いろいろ言えるよね。

– そうですね、このまま話を進めるとスター・ウォーズの設定の話になってしまうので、作品の話に立ち返りましょう。あなたの写真の作品ができた経緯についてお話を伺ってもいいですか? 10年前の2005年に本を出版されましたが、どのような経緯からですか?

ある時突然、ある朝起きてアイディアが浮かんだ!ということはないんだ。僕はアイディアで作品を作るのは良くないと思っている。フランス語の「アントゥイシオン」という感じが大切だと思っている。その言葉の意味は、「心から感じた」というような意味なんです。周りの世界の関係を感じて自分の中から生まれたというような感じが、制作では重要だと思っています。なにかが(作品が)生まれた気持ちで世界を見るには、ダイレクトに見るのではなく、想像を通して世界を見る必要があるのです。

撮影は2004年にしたけれど、その前の準備は10年くらいかかっています。本当にこの世界観でいいのか考えたり、下準備をしたり。そうして一度考えから離れて、カメラを手にして、撮って、撮って、撮って。でも何も見えなかった。そして何も見えない時はフィルムを捨ててまた歩く。そしてまた撮って、撮って、撮って。そしてだんだん想像の世界が生まれてくる。そしてやっと2004年に今回の作品につながるイメージができてきて、作品が生まれました。

– フィルムで撮影したのですか? 作品群はデジタルカメラではないのですか?

昔はフィルムカメラで撮影していましたが、今はデジタルカメラを使っています。撮影を続けながら、この世界を捨てて、子供の頃に見ていたSF世界も見えてくるようになりました。

– セドリックさんの作品づくりは映画のような舞台設定ではあるが、写真言語で撮影していますよね。それはあなたが想像の世界を大切にしていることとの共通性はありますか?

僕の仕事の基礎となるのは場所。場所が大切です。場所について何を感じるのか、これが目的となります。特に「ダーク・レンズ」以前の作品シリーズでは世界の色々な場所に出向き、様々な場所を撮影したけれど、すべての場所は何かが似ていました。そして、仕事ですごく大切なことは「好きか、嫌いか」。その場所が好きなのか嫌いなのかをはっきり意識することが大切です。その感情の組み合わせで仕事をしています。

– 好き、嫌いというのは個人的な直感ですか?

もちろん撮影は自分の気持ちでしているし、撮影は自分の目でしている。でも、できるだけ写真の世界は人が入り込みやすいように大きくしているんだ。できるだけ世界を大きくして「私」から「私たち」になってほしいと考えている。撮影の最初は自分一人の気持ち「興味があるか、ないか」から始まる。そしてみんなの視点になっていく。その場所を見て、自分が嘘っぽい世界だと感じたりすれば、いつの間にかもっと嘘っぽくなるような視点で撮影をしていく。撮影の手法はそんな「自然な流れ」の中で行っています。

– あなたの作品は映画のようで「映画のワンシーンを切り取った映像」ではなく「写真」として自立しています。それは「私」ではなく「私たち」として撮影しているから……もう少し推し進めた言い方をしてしまうと、「私」を無くすことで被写体の物体性を現す、そのような写真の言語を使ってるのかなと、お話を聞いて思いました。簡単に言えなくて、回りくどい言い方でごめんなさい。。。もう少し簡単に言うと「無私」だと、目がなくなる。じゃあ撮影する目はどこにあるかといえば、取られている被写体に目がある。その見られるはずの被写体が、実はこちらを見ているという構図でできあがった作品が、流れていく映像では無く、写真らしさや作品の魅力を生み出しているのかなと思いました。

作品で大事なのは、「誰か」の意見を伝えるということではないと考えています。誰かが意見をいうのはとても大切だし、自分も意見が言えるとも思える。それに誰かの声を切り取って、「自分の文化」とか「自分の歴史」とか言うことができるかも知れない。私が喋ってるといっても、私の意見じゃないかも知れない。できる限り作品の中で、誰かが喋っているという感じや、被写体のアイデンティティーを入れるようにしているけど、それは「私」という言葉を使っても、結局私って何かなってわからないことと同じだと考えているからです。

僕は子どもの時、いろんなイメージを持っていました。駐車場があれば「ここはもしかしてUFOが来た場所かもしれない」「これはUFOの飛んだ跡かもしれない」と思っていました。その後、いろんな場所にいって同じようなことを考えている人たちに出会いました。彼らは「私も子供の時に駐車場をみて、同じように考えていたよ」と言っていました。そんな、みんなの中にちょっと残ってる思い出やイメージを引き出して「この作品のアイディアは本当は自分も持っていた!」「私もこんな風なことをしたかったけど具体的には思いつかなかった」とか、「作品を見たらこんな風なことを言いたかったのを思い出した」「私もその雰囲気だった」とか思える、「私たち」がこの作品には映し出されています。

– 作品を展示するには色々な方法があるかと思います。雑誌にするのか、パネル張りにするのか、質感やサイズなど。ディーゼルのこのギャラリーで設営する時はどのような考えで、展示をしましたか?

最初この「ダーク・レンズ」シリーズはインターネットで広まりました。インターネットではそれぞれのモニター環境が違います。モニターによっては、あまり良くない写真が良く見えて、良い写真が逆に映るような事があります。だから紙で出力しておくのは必要だと思いました。出力することによって、オブジェクトとして感じることができるようになります。最低限、写真の中に写っているものが見える状態でないといけない。そうしないと作品として見ることができないからです。作品の情報として、このような世界は実際にはないとか、この作品世界は全部SFだということを理解するには、この展示した作品くらいのサイズじゃないとわかりづらい。写真の世界に入り込めるようにできる限り写真は大きくしたいと考えています。

– あなたは作者でもありますが、このサイズで展覧会を作って体験した最初の観客でもありますよね。観客としてのこのギャラリーの感想はどのようなものですか?

展示空間の壁の色や質感によって、建物の大きさや柱などによって、高さ、光、雰囲気によってもちろん、展示は変わっていきます。DIESEL ART GALLERYでの展示はバランスがよくうまく展示ができています。だからとても嬉しいですね。

– 今回ディーゼルと一緒に仕事をしましたが、どうですか?

時々、展示でうまくいかない時もあるけど、ここでの展示はとてもスムーズでした。自分でセッティングする時もあるし、今回みたいに海外の場合は、セッティングが終わってから見るということもある。また時々はセッティングが終わってもチェンジしたほうが良い時もあります。今回は何の問題もなく展示ができて、嬉しいですね。それに、今回はよくある「アーティストとブランド」の関係でもあります。芸術とブランドの関係を混ぜてしまうと、会社の目的やマーケティング、ブランディングとか、関係は難しくなっていく。ブランドは、どこまでお金のために展示するのか、どこまで芸術を応援するために展示をするのかなどの問題も出てきます。この場所は店の中にちょっと作品を飾るというわけでもなく、「ギャラリー」としてあり、自由度があります。アーティストが見せたかった作品を尊重してくれています。あれやこれを禁止することもなく展示できました。

僕にとって、今回は初めてファッション業界での展示です。そのチャンスが来て、僕はそれを使いました。アーティストの中には展覧会をする時に「美術館」じゃないとダメとか、あのギャラリーじゃないと展示をしないとか、この街はよくない、この国には行かないとか決めている人がいますが、僕はそうではない。いろんな場所に行って、いろんな出会いをします。その方が自分の勉強にもなるし、自分で決めた「これしかしない」というやり方ではなく、できるだけいろんなことをしたいと思っています。

– この展示のあとのご予定は?

ダーク・レンズは昔から人気シリーズで、今は映画もあるからうちのギャラリーでもお願いって話はよくある。アメリカ、インドネシア、フランスでもこれから展示があるけれど、僕はいつも話がきたら急いで「やりましょう!」というのではなくて、いいタイミングとおもしろい場所だったら、いい出会いになりそうだったら、やりましょうと言います。

– 最後に、何度も聞かれてるかと思いますが……。日本の皆さんに一言お願いします。

たぶん、一番いいメッセージは「他のギャラリーに行く前にこのギャラリーにも寄ってください」。杉本博司展(千葉市美術館で開催中)を観たあとでもいいので、ギャラリーに寄ってみてください(笑)


– ありがとうございました!

DIESEL ART GALLERYが紹介する『DARK LENS』の世界は、14作品と映像作品を展示上映しています。
http://www.diesel.co.jp/art/

yumisong

ふにゃこふにゃお。現代芸術家、ディレクター、ライター。 自分が育った地域へ影響を返すパフォーマンス《うまれっぱなし!》から活動を開始し、2004年頃からは表現形式をインスタレーションへと変えていく。 インスタレーションとしては、誰にでもどこにでも起こる抽象的な物語として父と自身の記憶を交差させたインスタレーション《It Can’t Happen Here》(2013,ユミソン展,中京大学アートギャラリーC・スクエア,愛知県)や、人々の記憶のズレを追った街中を使ったバスツアー《哲学者の部屋》(2011,中之条ビエンナーレ,群馬県)、思い出をきっかけに物質から立ち現れる「存在」を扱ったお茶会《かみさまをつくる》(2012,信楽アクト,滋賀県)などがある。 企画としては、英国領北アイルランドにて《When The Wind Blows 風が吹くとき》展の共同キュレータ、福島県福島市にて《土湯アラフドアートアニュアル2013》《アラフドアートアニュアル2014》の総合ディレクタ、東海道の宿場町を中心とした《富士の山ビエンナーレ2014》キュレータ、宮城県栗駒市に位置する《風の沢ミュージアム》のディレクタ等を務める。 → <a href="http://yumisong.net">http://yumisong.net</a>