公開日:2026年6月30日

チャーリーxcxが自ら描く「brat summer」の終わり、映画『the moment/ザ・モーメント』

TABのスタッフが気の向くままに更新する日記。今回は編集部・後藤が、チャーリーxcxのモキュメンタリー映画『the moment/ザ・モーメント』を紹介

チャーリーxcxの映画『the moment/ザ・モーメント』を見ました。

『the moment/ザ・モーメント』は2024年に発表されたチャーリーxcxのアルバム『brat』のヒットと、それを起点とした「brat summer」の熱狂の「その後」を描くモキュメンタリー。A24とタッグを組み、本人の発案・主演により製作された作品で、『brat』が世界的ヒットを記録し時代の寵児となったチャーリーが、アルバムツアーの準備に挑む数週間を舞台にしています。

アルバムの発売以来、アメリカ大統領選にまで影響するなどポップカルチャーの枠を超えて社会現象となった『brat』。その「brat summer」を「永遠」にしたいレーベルや関係者は、Amazonの出資によるツアー映像配信を企画し、人気映像作家のヨハネス(アレクサンダー・スカルスガルド)を監督に起用します。チャーリーは信頼するクリエイティブ・ディレクターのセレステ(ヘイリー・ベントン・ゲイツ)とステージプランを練っていたものの、彼女の表現を理解していないヨハネスが現場をかき乱していく。チャーリーのストレスがピークに達するなか、レーベルが仕掛けた「brat」クレジットカードの発行が銀行、さらには国を巻き込む大炎上を引き起こし……というのが大まかなあらすじです。

監督は「360」のMVも手がけたエイダン・ザミリ。2025年のコーチェラで「i just want this moment to last forever」という言葉を残したチャーリーですが、「この瞬間を永遠にする」のでなく現象そのものを延命させようとした場合のifストーリーとも言えるかもしれません。

『the moment/ザ・モーメント』予告編

もともとはレーベルからツアーのドキュメンタリー映画の制作を持ちかけられた本人が、「レーベルがアルバムの寿命を伸ばすための手段に感じた」ことから、音楽業界だけでなく自分自身を風刺するというアイデアに辿り着いたのだそう。そうすることが「ポップカルチャーや名声、そして作品を世に出した瞬間に失われていく芸術性について語るための入口のように感じられた」とVarietyのインタビューで語っています。

セルフパロディーが満載なので、どこからがフィクションでどこまでが真実がわからないところが本作の面白さのひとつ。彼女を取り巻く「業界人」たちは誇張された存在として描かれていますが、とくにアレクサンダー・スカルスガルド演じるヨハネスの嫌さがものすごく、どの国にもどの業界にもこういう人はいるんだな……となぜかダメージをくらいました。「クラブはただの場所だ」と言ったり、「brat」をすべて大文字にしようとしたり、象徴的なライムグリーンを「ナチュラルなグリーン」にしようとしたりと、「わかっていない人」としての描写が絶妙です。

最近実際に『brat』のアートワークを手がけたデザインスタジオ・Special Offerのブレント・デヴィッド・フリーニーが、その裏側を語るプレゼンテーションの様子がSNSで話題になっていたこともあり、そういった文脈やこだわりを正面から無効にしていく感じがリアルでした。ヨハネスが手がけたステージが最終的にどうなるかは実際に映画を見てほしいのですが、その結末は大衆とメディアに対するチャーリーからの皮肉の効いた応答なのだろうと思います。

映画のサウンドトラックよりA.G.Cook「Residue」MV。映画に本人役で登場するカイリー・ジェンナーが出演

宣伝文句の「ショービズの裏側を描く」ことに成功しているかはやや疑問が残りますが、そもそもこの作品が目指しているのはそこではなく、自分の手を離れ、巨大な記号として消費され尽くす「brat」を自らの手で終わらせることなのでしょう。業界風刺とともに劇中で描かれるのはスターダムに上り詰めたポップスターとしての孤独と苦悩です。現実のチャーリーはというと、『brat』の季節から次章へと進んでおり、最新アルバム『MusicFashionFilm』の発売を7月末に控えています。ジョン・ケール、マーク・ジェイコブス、マーティン・スコセッシが登場するモノクロのアートワークもすでに話題を呼んでいます。クラブカルチャーに根差した『brat』と対照的に今度はロックだとも示唆されている新作ですが、「音楽」「ファッション」「映画」から影響を受けたという楽曲がどんなものなのか、今後の展開も楽しみです。

後藤美波(編集部)

後藤美波(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集部所属。ライター・編集者。

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