ピエール・シャロー ホール 『フランス室内装飾』1925 豊田市美術館
第一次世界大戦開戦から第二次世界大戦前夜に至る1910年代から30年代は、ヨーロッパを中心に日本を含む世界各地で様々な「モダン」が現れた時代。異なる国・地域で活躍した作家たちは、ほとんど時差なく情報やトレンドを共有し、同時多発的にアートやデザインにおける同期性を感じさせる作品を発表していた。東京都庭園美術館で開催される「交歓するモダン機能と装飾のポリフォニー」展では、そのモダンの時代を伝える作品群を紹介する。会期は2022年12月17日から23年3月5日。


美術においては抽象絵画を生み出したような機能主義に基づく「モダニズム」は、20世紀初頭を代表する中心的な動向と見なされるが、そのいっぽうで大衆消費社会の進展によって装飾性に価値を置いたプロダクトなども数多く作られた当時は「モダニティ」の時代でもあり、ふたつのモダンは複雑に関係・共鳴しながら様々な造形物を結実させていった。その影響関係は国境とジャンルを越えて、様々なかたちで同期しあい、絵画や彫刻、家具、食器、洋服といったプロダクトデザイン、さらにそれらを収める建築や都市のかたちにもあらわれ、当時の人々の生活空間、身体活動全般に及んでいった。


例えばオーストリアのウィーン工房は、フランスのファッションデザイナーであるポール・ポワレと刺激し合い、ロベール・マレ=ステヴァンなど同国のモダニストにも影響を与えた。また、その生活全般への眼差しは日本の森谷延雄や斎藤佳三にも共有され、国を越えた表現活動のネットワークを形成していった。


ジャンルを越えた交流の例で言えば、幾何学的な抽象絵画を描いたソニア・ドローネーはファッションの仕事に専心し、ルネ・エルブストらモダニストは、都市を彩るショーウィンドウのデザインに大きな関心を払った。教育機関としても非常に有名なバウハウスでは女性作家が織物に新たな光を当て、また同校を離れた作家たちがブルク・ギービッヒェンシュタイン美術工芸学校を舞台に応用芸術教育に取り組んでいったのも、顕著な交歓の例だろう。


近代的な兵器や戦術が大幅に導入された人類史上初の第一次世界大戦が象徴するように、この時代はスピードと機械化によって世界の同期が進んだ時代でもある。急速に変化する社会のなかで作家自身も交わり、共鳴しながら探求していったいくつものモダンのかたちに触れられる展覧会だ。