会場風景 © Gerhard Richter 2025 (18102025) Photo: © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
ゲルハルト・リヒターの大規模な回顧展が、フランス・パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで2026年3月2日まで開催されている。
1932年にドレスデンに生まれ、現在もドイツ・ケルンを拠点に創作を続けるゲルハルト・リヒター。本展では、1962年からリヒターがペインティングから離れる決断を下した2017年までの作品を中心に、油彩画、ガラスおよびスチールの彫刻、鉛筆とインクによるドローイング、水彩画、オーバーペインテッド・フォトグラフなど、計275点を展示している。展覧会としては初めて、その60年以上におよぶ創作活動の全貌を紹介する試みとなった本展を、写真史家・評論家の打林俊がレビューする。【Tokyo Art Beat】
ゲルハルト・リヒターが、現代アートにおいてビッグネームのひとりであることは疑いの余地がない。日本でも2022年には東京国立近代美術館、豊田市美術館でリヒターの集大成となる作品《ビルケナウ》(2014)を含む大回顧展が開催、それに合わせて『美術手帖』2022年7月号で特集が組まれるなど、大きな話題となった。
ただ、《ストリップ》(2011)などの代表作がもたらす錯視などが話題を集めたいっぽう、画業全体を俯瞰したとき、“リヒターはわからない”などという声もちらほらと聞く。リヒターのわからなさは、大きくふたつに集約されるように思える。ひとつは、具象的絵画と抽象的絵画が画業を通じてずっと平行して制作されていたので、表現の振れ幅が大きいこと。そしてもうひとつは、リヒター自身が作品について詳細をあまり語らないことだろう。実際、日本での回顧展のカタログに収録された対談などを読んでも、作品について的確なコンセプトや制作意図を語っているとは言いがたい。
またいまひとつの問題は、その複雑に交錯した画業を日本での回顧展がわかりやすく提示できていなかったことにもあるだろう(東京国立近代美術館での展示では、制作年順に並んでいなかったので、それが理解の妨げになった感は否めない)。
