「第25回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展」が日本科学未来館で開幕。コロナ禍を経て、新たな感覚を拡張させるメディア芸術の最先端に触れる

日本科学未来館で「第25回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展」が9月16日〜26日に開催。

《太陽と月の部屋》の展示

『第25回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展』が9月16日〜26日に開催される。会場は日本科学未来館。またサテライト会場に、CINEMA Chupki TABATA、池袋HUMAXシネマズ、クロス新宿ビジョン、不均質な自然と人の美術館がある。

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガといった、広くメディアアートに関わる領域の優れた作品を顕彰・紹介してきた文化庁メディア芸術祭。第25回となる今回は、世界95の国と地域から応募された3537作品の中から、部門ごとに、大賞、優秀賞、ソーシャル・インパクト賞、新人賞、U-18 賞が選出された。

ここでは、多様な表現形態を含む受賞作品と、功労賞受賞者の功績を一堂に展示する、日本科学未来館の様子をレポートする。

第25回文化庁メディア芸術祭 キービジュアル

アート部門

新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、多くの人々の身体感覚は多少なりとも変化したのではないだろうか。たとえば自然との関わりを見直したり、デジタルデバイスを駆使したコミュニケーションがより身近になり、最新テクノロジーの恩恵や危険性などについて考える機会が増えたかもしれない。アート部門の展示でも、こういった新たな身体感覚を想起させる作品が印象的だった。

大賞は、《太陽と月の部屋》(作者:anno lab[代表:藤岡定]/西岡美紀/小島佳子/的場寛/堀尾寛太/新美太基/中村優一)。本作は、大分県豊後高田市に設立された「不均質な自然と人の美術館」にあるインタラクティブアート。来館者が室内を歩くと、天井の小窓が自動で開閉し体が光に包まれるとともに、足元の日だまりが小窓の開閉によって月が満ち欠けするようにかたちを変えていく。鑑賞者が自然と触れ合い、その身体性を拡張することで、感覚と意識を研ぎ澄ませるように設計されている。本展ではインタビュー映像や資料を展示。

《太陽と月の部屋》の展示

優秀賞は、山内祥太《あつまるな!やまひょうと森》、Theresa SCHUBERT(ドイツ)《mEat me》、MOON Joon Yong(韓国)《Augmented Shadow – Inside》。ソーシャル・インパクト賞は田中浩也研究室+METACITY《Bio Sculpture》。

《あつまるな!やまひょうと森》の展示

《Bio Sculpture》の展示

《Augmented Shadow – Inside》は、鑑賞者が持つ照明デバイスの動きがトラッキングされ、影絵のような人物が投影される没入型インスタレーション作品。体験者から「おお〜」という声が漏れるなど人気を集めていた。

新人賞を受賞した、花形槙《Uber Existence》

エンターテインメント部門

大賞は、NHK Eテレの人気ドキュメンタリー番組から、「浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~」が受賞(作者:上田勝巳/倉本美津留/内田愛美/塚田努/丸山恵美)。マンガ家・浦沢直樹が、毎回ゲストのマンガ家とともに制作過程についてトークを繰り広げ、その作画のこだわりや魅力に迫る。マンガ家の手元を撮影する複数台のカメラを備えたセットも展示室に登場。

「浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~」の展示

優秀賞は、ポーランド発のゲーム『サイバーパンク2077』、Veljko POPOVIC / Milivoj POPOVIC(クロアチア)による難民移民問題を扱った映像・VR作品《Dislocation》、パラリンピック東京大会の開会式の演出にも使用された《Project Guideline》、屋久島で行われたコムアイとオオルタイチのライブパフォーマンスを、ウェブブラウザを通してインタラクティブに視聴できる作品《YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA》が受賞。展示室で大きなスクリーンと音響設備で見ることができた《YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA》は、視覚・聴覚を揺さぶられる体験だった。

ソーシャル・インパクト賞は、SNSでも大きな話題となった「新宿東口の猫」が受賞。新宿アルタ前広場、クロス新宿ビジョンのための錯視3Dを利用した映像コンテンツだ。最新技術と安定の人気者「猫」の組み合わせに、興味をそそられた人も多いだろう。

「新宿東口の猫」の展示

アニメーション部門

イランの作家、Mahbooben KALAEEによる短編『The Fourth Wall』が大賞受賞。台所という小さな空間を舞台に、吃音の少年と赤ん坊、洗濯機と一体化した母、冷蔵庫と一体化した父が繰り広げるファミリードラマだ。親密なものと考えられる「家庭」が、暴力や闘争の場になり得るいっぽうで、子供たちの想像力を育む場であることをも示唆する。様々なアニメーションの手法を積み重ね、現実と虚構の垣根を揺さぶる。

『The Fourth Wall』の展示

優秀賞は、『幾多の北』(山村浩二)、『漁港の肉子ちゃん』(本作制作チーム)、『Letter to a Pig』(Tal KANTOR[イスラエル])、『Sonny Boy』(夏目真悟)。

ソーシャル・インパクト賞は、子供向け番組の枠組みを超え大ヒットとなった『PUI PUI モルカー』(見里朝希)が受賞した。

『PUI PUI モルカー』の展示

マンガ部門

大賞は、持田あき『ゴールデンラズベリー』が受賞。芸能事務所で働く北方啓介と、凛とした存在感を放つ新人・吉川塁のサクセスストーリーを描く。審査員おざわゆきによる受賞理由では「従来のジェンダーの役割を超えたところでの恋愛の新しい形を提示してくれる」との評が。本展ではとても美しい原画が展示されているので見逃せない。

『ゴールデンラズベリー』の展示

ソーシャル・インパクト賞は、その独特な会話のテンポやローテンションなキャラクターたちが笑いを生む、和山やまのギャグマンガ『女の園の星』。優秀賞は、うめざわしゅん『ダーウィン事変』、浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』、西村ツチカ『北極百貨店のコンシェルジュさん』、ティー・ブイ(米国)『私たちにできたこと――難民になったベトナムの少女とその家族の物語』が受賞。

『女の園の星』の展示

また、日本科学未来館の球体展示に関する作品を募集した「フェスティバル・プラットフォーム賞」の受賞作品も観賞することができる。選出されたのは、フランスのPaul LACROIX《Path of Noise (r, theta, phi)》、中国の王俊捷《親愛なるウイルスたちへ》。

Paul LACROIX Path of Noise (r, theta, phi)

また開催期間中には、浦沢直樹が参加する『浦沢直樹の漫勉neo ~安彦良和~』のトークセッションや、「新宿東口の猫」サテライト放映などもあるので、公式サイトでスケジュールをチェックのうえ足を運んでほしい。

なお、文部科学省は8月に「文化庁メディア芸術祭」について、次回となる2022年度の募集を行わないと発表しており、今回の受賞作品展で幕を閉じる見通しだ。これまで多くのクリエイターの目標となり、複数の領域を跨いでメディア芸術の発展や優れた作品の周知に貢献してきた芸術祭だけに、その終了を惜しむ声も多い。今後、これに変わるイベントや顕彰等が行われるのかは発表されていないが、メディア芸術の発展・振興につながる新たな展開があることを期待したい。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集。音楽誌や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より現職。