2024年度 ソーシャリー・エンゲイジド・アート支援助成プロジェクト 一覧
一般財団法人川村文化芸術振興財団は、コミュニティや社会にコミットし、地域社会や住民とともに制作や活動を実施し、より良い社会モデルの提示や構築を目指す日本国内のソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトを助成する「ソーシャリー・エンゲイジド・アート支援助成」を行っている。
7回目となる2024年度は、応募総数83件(海外5件、国内78件)から、8件の助成対象プロジェクト(うち1件は長期支援プロジェクトとして継続)が決定した。
ドキュ・アッタン「ドキュ・アッタン シアター ―ミャンマーのクリエイターたちとともに「声」をあげる/届けるプロジェクト」
2021年にミャンマーで起きたクーデター以降の困難のなかで、表現活動に取り組むジャーナリストや映像制作者、アーティストなどを支援するためのオンラインプラットフォーム《ドキュ・アッタン(Docu Athan)》。この活動をきっかけに、ミャンマーの表現者らとともに、ドキュメンタリーや映像作品をはじめとした多様な「声=芸術表現」を広げていく。
マダン劇プロジェクト「マダン:民衆が共謀する広場」
アーティストの遠藤麻衣、キュレーターの権祥海を中心に、日韓朝におけるマダン劇の調査・表現・共同制作を目的とするプロジェクト。主に京都におけるマダン劇の精神および表現形式をリサーチし、ワークショップおよびパフォーマンス試作を中心とする協働の場を開く。
瀬尾夏美+小森はるか「へびと地層プロジェクト」
作家の拠点である宮城県丸森町と東京都江東区、そのほかに、岩手県陸前高田市、マーシャル諸島、インドネシア等を調べ、語りを聞き創造的な共同作業を行う。水に関わる災害に遭った土地である各地を横断することで、グローバルな形で構造的格差について検証し、“災禍を語り継ぐこと” の実践を通した関わり合いを試行する。
渡邊拓也「メンテナンス労働と共生関係のドキュメンテーション」
福井県の小原という限界集落での草刈りを中心に、自然と人との共存関係を映像によるドキュメントとして残していく。村に関わる人との上映会や食事会の機会を通して、伝統化した習慣や、たんなる労働と捉えているものをとらえ直し、土地に残る集合知を再発掘する場を創出する。
志賀理江子「オープンスタジオ/3.11後の復興に関する資料ライブラリー」
「3.11後の復興に関する資料ライブラリー」という常設展示を通じて、本を読める空間であり、感受性が育まれる場所に育つように制作スタジオを開き、読書会・ワークショップを不定期で行い、様々な分野の人たちと共に考え、試行錯誤の実践をしていく。
藤口諒太「匿名の語り」
依存症を持つ人々のための自助グループ「アルコホーリクス・アノニマス」のメンバーと共に、コロナ禍や戦争、震災など特殊な社会状況下のケア活動について話し合う。グループミーティングが開催できなかったコロナ禍の状況を振り返り、当時揺さぶられた倫理と道徳の関係を対話を通して再検討する。匿名を保つ故に記録として残りにくい彼/彼女ら自身の声と語りから、フィクションラジオドラマを創作する。
寺田健人「ネガティブな想像上の家族からポジティブな家族像を生み出すために」
《想像上の妻と娘にケーキを買って帰る》において、規範的な家族のステレオタイプに批判的なメッセージを込め、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの形式を通じて性的マイノリティの経験を収集し反映させた寺田健人。インタビューと被写体との共同制作を通じて、過去の苦しみを共有し未来の家族像を模索する。
また、ソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトは長期間にわたり行われるケースが大半である特性を鑑みて、2023年より立ち上がった「ソーシャリー・エンゲイジド・アート長期支援助成」では、2013年から活動している「Donʼt Follow the Wind(ドント・フォロー・ザ・ウィンド)」が選出されている。
各プロジェクトは、プロトタイプ(事前ワークショップ、試作、レクチャー、映像等)も含め、2024年度に発表を予定している。