公開日:2023年4月20日

俳優・鈴木京香が建築学会文化賞を受賞。吉阪隆正の代表作「ヴィラ・クゥクゥ」の保存再生と一般公開に向けての改修に尽力

2023年建築学会文化賞を受賞

鈴木京香 撮影:Tokyo Art Beat

杉本博司、榊田倫之と協働した改修保存、社会的影響力を高く評価

一般社団法人日本建築学会は、建築文化の向上、建築への理解と認識向上などに貢献した人物に贈られる日本建築学会文化賞を、俳優の鈴木京香に贈ることを19日、発表した。

演劇や映画などでの俳優活動とともに、現代美術のコレクターとしても近年知られている鈴木は、取り壊しの危機にあった吉阪隆正+U研究室設計の住宅「ヴィラ・クゥクゥ(旧近藤邸)」(東京・渋谷区)を個人で購入。その保存再生と一般公開を視野に入れた改修を行った点が高く評価された。

1957年に完成した同住宅は、ル・コルビュジエに師事した建築家・吉阪隆正の代表作の一つ。竣工から60年以上が経ち、解体の危機にあった同建築を「壊されてはいけない、残さなければいけない」と感じた鈴木は、新素材研究所杉本博司榊田倫之と協働。吉阪の設計思想を紐解き、残存する図面を参照したり、部分によっては解体しながらその設計意図を想像する改修では、使えるものは残し、図面が残っているテーブルなどを新たに作成している。

日本建築学会ホームページに掲載された選評は以下のとおり(一部抜粋)。

ヴィラ・クゥクゥは1957年の竣工で、竣工から65年以上経過しておりDOCOMOMO(編集部註:1988年に設立された近代建築の記録と保存を目的とする国際学術組織)にも選定されている。ル・コルビュジエのアトリエで学んだ吉阪が帰国後に設計した代表作の一つで、彼が大学生の時に内モンゴルで衝撃をうけた「泥の家」の記憶とコンクリートの彫塑的性格を追求した晩年のル・コルビュジエの影響が多くみられる住宅で、アルピニスト仲間で仏文学者であった近藤等・勝子夫妻が50年余り住み続けた。その間、様々な改修も施されていたが、鈴木氏は竣工当時の姿に復元することを目指しながら、新しい感性も加えて現代の住居として再生させることを試みている。

現代の住居としてのあるべき姿、すなわち実際に現代人として生活をしていくことを想定した時に、必要な機能を慎重に取捨選択しながら最適化しているという点も今回の保存再生のあり方として評価に値する。鈴木氏による今後の利用方法は、「管理人」として維持管理していくと共に、一般への公開を前提に検討を進めているとのことで、これまでのヴィラ・クゥクゥが個人邸として原則的に非公開であったことから、その貴重な価値を共有できることの意味合いも極めて大きい。

さらに、俳優である鈴木氏自身の知名度も手伝い、一般読者向けの住宅・インテリア雑誌や女性誌に多く取り上げられ、SNSでも話題になる等、建築界を超えた幅広い世代に周知されるに至った実績は、建築の文化的価値を広く知らしめることに貢献するものであり、今後の有名建築保存再生への理解を推進するという点で意義深い。

日本建築学会文化賞は同学会員以外を対象にしており、鈴木のほかに、優れた公共建築を数多く実現し、豊かな建築・まちを創造することに貢献した元群馬県庁職員の新井久敏、『新建築』を発行する新建築社の写真部長を務めた後も、個人として数多くの建築写真を手掛けてきた写真家・小川重雄が選ばれた。

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