公開日:2022年7月20日

「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2022」の全プログラムが発表。コロナ禍を経て、海外アーティストが多数来日!

志賀理江子、梅田哲也、ティノ・セーガル、金氏徹平らの新作、日本初公開作品が目白押し。会場は京都市内各所、会期は2022年10月1日から23日

フロレンティナ・ホルツィンガー © Urska Boljkovac

日本でもっとも攻めた国際芸術祭がフルスペックでカムバック!

日本を代表する国際芸術祭の一つである「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2022」の詳細が発表された。欧州圏でいまもっとも注目されるフロレンティナ・ホルツィンガー、1984年の設立以来話題作を発表してきたフォースド・エンタテインメントなど海外勢にも注目すべき作家が名を連ねるが、志賀理江子梅田哲也ティノ・セーガルら主に現代アートのフィールドで活躍する作家も登場。ジャンルを越えて交わされる実験(EXPERIMENT)の精神を体現してきた同芸術祭らしいラインナップと言えるだろう。

川崎陽子、塚原悠也(contact Gonzo)、ジュリエット・礼子・ナップら3名による共同ディレクター体制に刷新したのが3年前の2020年だが、スタートと同時に到来した地球規模のパンデミックの影響で海外アーティストの来日中止が相次ぎ、フルスペックでの開催は断念され続けてきた。つまり、今回のKYOTO EXPERIMENTは、かれらの念願がようやく具現化する最初の機会だ。

KYOTO EXPERIMENT 2022メインビジュアル ©︎ 小池アイ子

まず注目したい作品はフロレンティナ・ホルツィンガーの『TANZ(タンツ)』。ドイツの演劇雑誌で年間ベストパフォーマンスにも選ばれた同作は、伝統的なバレエの世界を題材としつつも、それを徹底的に破壊するかのような様々な展開が待ち受けている。ロマンティック・バレエにおいて継承されてきた妖精や幽霊といった女性表象には、高く「飛翔」し、軽やかに「浮遊」する精度が求められてきたが、本作に登場する10名のバレリーナたちは、ワイヤーアクションによって空中浮遊する超能力までもが与えられる。女性の身体史に一石を投じる必見の作品だ。

フロレンティナ・ホルツィンガー © Urska Boljkovac

話題のコレクティブであるスペースノットブランク(小野彩加、中澤陽)は、岸田國士戯曲賞を受賞した気鋭の劇作家・松原俊太郎と共に新作『再生数』を発表する。演劇の上演と映画の上映をリアルタイムでミックスするという同作について、松原は「今回はドラマを作ることがテーマですが、フェイクニュースや陰謀論が溢れるいま、ドラマを書くのは難しい。けれどスペースノットブランクは<距離>を作ることが巧み。新しい表現を作っていきたい」と意気込みを語った。

小野彩加、中澤陽/スペースノットブランク © Ayaka Ono & Akira Nakazawa / Spacenotblank

オーストラリア出身のサマラ・ハーシュ『わたしたちのからだが知っていること』は一風変わった演劇。各回12名限定となる20歳以上の観客は、電話を介して関西在住の10代の若者たちと対話することになる。話題は、性教育や身体についての知識、セクシュアリティ、老いや死といったトピックについての世代間対話。やがてそれらの会話は年齢や立場から生じるヒエラルキーを解体し、新しい学びの場を作り出していく。

サマラ・ハーシュ Photo by Pier Carthew

昨年に続いての登場となるチーム・チープロ(松本奈々子、西本健吾)は、膨大なリサーチをふまえたダンス作品を作るパフォーマンス・ユニット。新作『女人四股ダンス』では、習俗と科学的な言説が交差しながら意味づけられてきた女性の月経と相撲を組み合わせ、新たな「四股(シコ)」のかたちを創造するという。松本によると「出演する美術家の前田耕平、ダンサーの内田結花と共に月経日記を交換したりフィールドワークをしながら制作を進めています」とのこと。

松本奈々子、西本健吾/チーム・チープロ KYOTO EXPERIMENT 2021 AUTUMN『京都イマジナリー・ワルツ』 Photo by Haruka Oka

メルツバウ、バラージ・パンディ、リシャール・ピナス with 志賀理江子による『Bipolar』は、過去に志賀が制作した映像に端を発するコラボレーション作品。秋田昌美が主宰するメルツバウ、ドラマーのバラージ・パンディ、エクスペリメンタル・ロックの巨匠であるリシャール・ピナスによる即興演奏に、リアルタイム編集される志賀の映像が重なっていくという。メルツバウの思い出について志賀は「初めて聴いたのは二十歳頃。爆音を10分ぐらい聴いていると、やがてそれが無音のように感じられて、血流のような自分の身体の中の音を聴いているような錯覚に陥りました。それは近代化の象徴のような街で生まれ育った自分にとって、壊れていく近代の音のようでもありました」と振り返る。ちなみにタイトルの「Bipolar」とは「双極」を意味する。

メルツバウ、バラージ・パンディ、リシャール・ピナス with 志賀理江子 Photo by Lieko Shiga

ブライアン・イーノのサウンド・インスタレーションでも話題沸騰の京都中央信用金庫 旧厚生センターでは、梅田哲也『リバーウォーク』を発表する。近年、梅田はツアー形式のパフォーマンス作品を発表しているが、本作でも観客は9名ごとのグループに分かれて建物内を巡り、様々な出来事に遭遇することになるという。

梅田哲也 Photo by Yuko Amano

バンコクを拠点とするジャールナン・パンタチャートは、タイとミャンマーの歴史を題材とする『ハロー・ミンガラバー・グッドバイ』を発表。本作の構想がスタートしたタイミングの2021年にミャンマーでクーデターが発生したことで、作家はオンラインでミャンマーの俳優たちとやりとりしながら制作を進めていったという。個人と国家、歴史がどのように作られてきたかを考察する一作だ。

ジャールナン・パンタチャート © Kajit Pramsukdee

1984年の結成以来、イギリス現代演劇の地平を切り拓いてきたフォースド・エンタテインメントは10年ぶりの日本公演となる今回、『もしも時間を移動できたら』『リアル・マジック』の2作を上演する。過去や未来にタイムトラベルできるとしたら、何が重要で、何に関心があり、何を変えられるかを問う前者と、ドタバタなクイズショースタイルの後者を通して、場に起こるパワーバランスや、背後にある構造が浮き彫りになってくる。

コロナ禍において制作されたZOOMを利用した演劇作品のなかでも、とくに優れた作品を手がけたカンパニーの久々の日本公演に期待したい。

フォースド・エンタテインメント もしも時間を移動できたら Photo by Hugo Glendinning
フォースド・エンタテインメント リアル・マジック Photo by Hugo Glendinning

元ジャーナリストでもあるアーザーデ・シャーミーリー『Voicelessness —声なき声』は、ディストピア化した2070年のイランを舞台に、50年前に失踪した祖父の真相を突き止めようと奮闘する主人公を描く。言論統制され、過去に起きた不都合な事実を事実として公言できない世界で、主人公が得られる真実とは何か?

アーザーデ・シャーミーリー © Roberta Cacciagla

ここから紹介するのは、現代アートに寄った発表形態の作品。ミーシャ・ラインカウフは、京都芸術センターのギャラリー北・南で映像展示「Encounter the Spatial —空間への漂流」を開催する。移民や難民など、国家間の移動が様々な摩擦を生む今日にあって、越境困難な陸路ではなく、人の手の及ばない海底を歩くことで境界を越えようとする作家自身を追ったドキュメンタリーである《Fiction of Non-Entry(入国禁止のフィクション)》と他1作を展示する。

ミーシャ・ラインカウフ Fiction of a Non-Entry(入国禁止のフィクション) © Mischa Leinkauf - alexander levy - VG Bild/Kunst

京都市京セラ美術館日本庭園では、国際的に人気のティノ・セーガル《これはあなた》が10月1日から23日までの長期にわたって披露される。作品の記録や撮影を一切許さないことでも知られるセーガルは、パフォーマンスが生み出すある種の状況自体を作品とするアーティスト。本作では、「翻訳者」と呼ばれるパフォーマーが庭園内を回遊し、来場者と1対1で向き合うことで、その人の姿、印象を、とびきり気さくに、親密なかたちで翻訳し伝えてくれるという。

ティノ・セーガル Photo by Koroda Takeru

以上11作家が上演・展示形式のラインアップだが、これに加えて今年はリサーチプログラムとして続いてきた「Kansai Studies」からもパフォーマンス作品が生まれることになった。建築家ユニットのdot architectsと演出家の和田ながらは、「水」や「お好み焼き」をテーマに重ねてきた計3年間のリサーチから、パフォーマンス『うみからよどみ、おうみへバック往来』を制作・発表する。フェスティバルが立脚する京都や関西の「地域文化」を調査対象としてきたリサーチがどのように姿を変えて登場するか、楽しみに待ちたい。

Kansai Studies dot architects & 和田ながら

クラウドファンディングでKYOTO EXPERIMENTを応援

この他にも様々な関連イベントを行う「Super Knowledge for the Future」などにもユニークなプログラムが並ぶが、今回最大の挑戦と言えるのが、フェスティバル初の試みとなるクラウドファンディングだ。

京都市や市内文化施設、芸術大学の研究機関などで構成された実行委員会の予算を中心にプログラミングしてきたKYOTO EXPERIMENTだが、新型コロナウィルス感染症による経済状況の変化でコロナ禍前と比較して半分以下の予算規模に減少してしまったという。さらにロシアのウクライナ侵攻、円安の影響で、海外アーティストの渡航費の2倍近い高騰をはじめとした想定外の支出も重なった。それによって生じた赤字を補うために始めたのが今回のクラウドファンディングで、当面の目標金額として400万円を目指して実施中だ。

【京都市×ふるさと納税】京都国際舞台芸術祭の継続発展のために(https://readyfor.jp/projects/KYOTOEXPERIMENT2022)

参加作家でもある金氏徹平森千裕志賀理江子らの作品が返礼品になっている高額なコースもあるが、5000円で手軽に応援できるコースもある。こちらは、2000円を越える分については所得税及び個人住民税の控除が受けられる「ふるさと納税型クラウドファンディング」の仕組みを利用しており、実質的な自己負担額は2000円となる。

金額としては微々たるものだが、ファンや市民による応援は今後の都市型・地域型芸術祭においては重要な要素になってくるのは間違いない。公共機関による助成金は税金から拠出されるが、少子化や経済状況の鈍化の進む未来の日本において、芸術や文化は助成金にだけ依存することはできない。もちろん公共性や公正性を担保するためには、民間に頼りすぎない仕組みや気骨も維持されなければならない。理想的なのは、様々な背景を持つ人々が共に文化を支え、それを時代や地域の財産として大事にするマインドが共有されることではないだろうか?

その観点で言えば、世界的なジュエリーブランドであるヴァン クリーフ&アーペルによるプログラム「Dance Reflections」とのコラボレーションで実現するティノ・セーガル《これはあなた》は、KYOTO EXPERIMENTの挑戦の一つだろう。

同作の予算はヴァン クリーフ&アーぺルが拠出し、キュレーションはKYOTO EXPERIMENT側が担う。このようなコラボレーションが定着しつつ、良質で批評性をもった作品が生まれ、観客に届けられる環境は豊かなものだ。もちろん、チケットを購入して作品を見ることもKYOTO EXPERIMENTへの応援になる。それぞれの方法で、この稀有なる国際芸術祭を応援してみてほしい。

(前列左から)松原俊太郎、中澤陽、小野彩加、松本奈々子。(後列左から)塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップ、川崎陽子、家成俊勝、金氏徹平、森千裕

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2022

会期:2022年10月1日〜23日
会場:ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO、京都市京セラ美術館、京都中央信用金庫 旧厚生センター ほか
クラウドファンディングはこちらから
https://kyoto-ex.jp/

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