公開日:2013年12月4日

森万里子「Infinite Renew」インタビュー

生と死、そして再生のモデルを観る者のエネルギーでつくりだす

現在ニューヨークを拠点に世界中で作品を発表して活躍する森万里子は、最新のテクノロジーやメディアを用いて、自然、科学、宇宙システムの循環などをテーマとした超感覚的な作品を発表している。

東京で生まれ育った森は、1989年に渡英しチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで学んだ後、1992年にニューヨークに渡り、翌1993年から作品を発表してきた。
初期の頃は、自身がさまざまなキャラクターに扮して写真やビデオ映像に登場し、日本の伝統文化から現代のサブカルチャー、神道や仏教、西洋と東洋の文化的なルーツをテクノロジーと融合させた作品を発表した。

「Infinite Renew(無限の再生)」展に先立って行ったインタビューをお送りする。

©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo
©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

ー今回は展覧会タイトルが表すとおり、エネルギーの果てしない再生をテーマとした作品を展示していますが(*)、どこから着想されたのでしょうか?

森:今回のテーマは、昨年のロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツでの展示《Rebirth》の延長として発展させたものです。宇宙で目に見える物質は4%しかなく、残りの96%がダーク・マター、ダーク・エネルギー(**)という、肉眼で可視できないエネルギーに満たされているといわれています。今回は、その目に見えないエネルギーを目に見えるかたちで具現化したいと思い制作しました。

《Infinite Energy I, II, III》 2013
《Infinite Energy I, II, III》 2013

ー最近は宇宙を連想するような作品の発表が多いですが、今、森さんが一番関心を持たれているテーマが宇宙なのでしょうか?


森:宇宙には起源があって、その前には何も存在しなかったということについてずっと納得ができないでいました。
たとえば、新石器時代の人はすでに生から死、そして再生というサイクルがあることを見抜いていました。仏教にも輪廻という思想があり、超新星爆発でも同じように生から死、そして再生のサイクルの現象があります。というように、すべての事象はつながって循環しているのに、宇宙については同じ方程式が当てはまらないということについて納得ができなかったので、これについてずっとリサーチしてきました。

ーその結果、今少し見えてきたことがあるのでしょうか?


森: はい。ロイヤル・アカデミーで物理学者のブライアン・コックス氏とトークをしたときに、いくつかのブレーン(膜)が衝突してビッグバンが起こって宇宙が生まれたという話を聞きました。現代における現在進行形の関心事として、宇宙について言及したいと思いました。今回の出品作《Renew》はその一つの例えとして制作した作品です。

《Renew I》2013
《Renew I》2013

ーロンドンの《Rebirth》展から今回の展示にはどうつながっているのでしょうか?


森:《Rebirth》展ではエネルギーがテーマではなかったのですが、新石器時代のリサーチからインスピレーションを受け、展覧会全体を通して生から死、そして再生へのサイクルを表すような展示を行いました。一方、今回の展示では、それぞれの作品が1点で、このサイクルを表す作品を制作しました。たとえば、今回展示している《Infinite Energy》は、人の動きに反応して色が変わります。人から発せられるエネルギーを吸収し、それが天に放たれるというイメージです。ブラックホールに星が吸い込まれる瞬間にジェット・ストリームという強い光が発生するのですが、そのイメージにもつながります。

ーともすると難しくなりがちな宇宙論の概念について、森さんの作品という目に見えるかたちで宇宙をイメージできるような気がします。

森:先ほどの話で、宇宙の96%がダーク・マター、ダーク・エネルギーという目に見えないもので満たされているという話がありましたが、これは私たちの生活にもあてはまることで、実際は見えていないものの存在に気付くというのはとても大切だと考えています。

《Birds II》2012
《Birds II》2012

ー《Birds II》は、どういったイメージから生まれた作品ですか?

森:実はこの作品は、私の夢の中に出て来た鳥のかたちからインスピレーションを受けた作品です。今回の展示の中で唯一具象的な作品ですが、二羽の鳥がつながっている様子を通して、「愛」という不定型なものをかたちにした作品です。

ー森さんはこれまで、屋外の大型のものも含めて数々のサイトスペシフィックな作品を制作されてきたと思いますが、これから実現したいサイトスペシフィックな作品の構想にはどんなものがありますか?

森:2010年にFAOUというノンプロフィットの組織を立ち上げ、六大陸にそれぞれ一つずつパーマネントのインスタレーションを制作するというプロジェクトを進めています。
第一弾として、2011年にアジアのプロジェクトということで宮古島に《サンピラー》を制作しました。今はブラジルのヴィスコンデ・デ・マウアという滝でプロジェクトを進めており、2015年に完成する予定です。すべて、地球上にある自然の要素に敬意を表するような作品になる予定です。

《Butterfly》 2013
《Butterfly》 2013

ー今回の会場、エスパス ルイ・ヴィトン東京はホワイトキューブではない屋内の空間ですが、今回の展示で苦労されたり工夫されたりした点はありますか?

森:エスパス ルイ・ヴィトン東京は天井高が約8mある大きな空間なのですが、今回の作品を搬入するには、搬入口が小さいという問題がありました。けれど、その制約に取り組むうちに、作品をモジュール化することで、どこまででも組み立てていける無限の作品が制作できると気づきました。自然光が入る昼と夜では、作品の見え方が異なるので、ぜひ昼と夜の2回とも見ていただきたいです。

夜は窓ガラスに《Infinite Energy》が映り込む
夜は窓ガラスに《Infinite Energy》が映り込む

ー最後に、森さんは約20年間日本を離れて制作を続けられていますが、日本以外で制作するということはご自身の制作活動にどう影響していますか?

森:アーティストというのは、悪くいえばどこにいても自分の居場所がないともいえるのですが、きっとどこにいても常にアウトサイダーという感覚があると思うのです。ただ、そのおかげで客観的な目を持てるようになりました。その結果、自分自身に限界をつくらないようにできるようになりました。ここでできなくてもどこか他のところでできるし、ここで理解されなくても他で理解される場所があるというように思えるようになったというのはあると思います。また、アメリカでは、大きなアイデアに対しても「そんなことできるわけない」というように制限されることなく、逆に「どんどんやれ」とサポートしてくれる環境なので、そのお陰でアーティストとして成長させてもらえたなと思っています。

ー今日はどうもありがとうございました。

なお、ニューヨーク・ジャパン・ソサエティにて、森万里子氏の展覧会《Rebirth: Recent Work by Mariko Mori》が10月11日より始まっている。昨年のロンドンでの《Rebirth》展の巡回でもある同展覧会では、現在エスパス ルイ・ヴィトン東京にて上映中の新作アニメーション《Ālaya》も野外上映されている。

《Ālaya》 2013 ©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo
《Ālaya》 2013 ©Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat Courtesy of Espace Louis Vuitton Tokyo

*展示作品8点のうち7点が新作、そのうち3点はエスパス ルイ・ヴィトン東京のサポートによる制作。
**ダーク・マター=暗黒物質(dark matter)。宇宙の中心は、ダーク・マターとダーク・エネルギーと呼ばれるものからなるとされている。
*** FAOU http://faoufoundation.org/

Rei Kagami

Rei Kagami

Full time art lover. Regular gallery goer and art geek. On-demand guided art tour & art market report. アートラバー/アートオタク。オンデマンド・アートガイド&アートマーケットレポートもやっています。