「所蔵作品展 MOMATコレクション」にて、「6室 戦時の女性たち」の会場風景 撮影:編集部
戦後80年となる2025年、国内でもっとも注目を集めた展示のひとつが、東京国立近代美術館「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」だったと言えるだろう。
10月26日まで開催された本展は、同館収蔵の戦争記録画153点のうち24点を展示し、戦時中に生み出されたイメージに多角的に迫る内容だった。
続く企画展としては「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」が12月16日に開幕したが、現在開催中の同館コレクション展「所蔵作品展 MOMATコレクション」(会期:11月5日〜2026年2月8日)では、引き続き第二次世界大戦中の人々のイメージに関わる小テーマ展示が行われている。3階の6室「戦時の女性たち」だ。
本展示室は、「絵画や雑誌に登場する女性たちのイメージを通して、日常と戦争が隣り合わせにあった当時の暮らしと社会における女性の多様な役割を紹介」するもの。同館の説明によれば、「日中戦争から太平洋戦争にかけて日本では総力戦体制が敷かれ、『前線で戦う男性』と『銃後を守る女性』という構図が美術や文学、雑誌など、あらゆるメディアを通じて浸透していきました。良妻賢母として家庭を支える女性たちの姿は、しばしば戦時下の典型的なジェンダーロールとして受け入れられました。一方で、この時代には軍需工場で武器を製造したり、応召して従軍看護師として戦場に赴いたりする女性たちも存在していました」(公式サイト)という。
「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」でも展示されていた伊原宇三郎《特攻隊内地基地を進発す(一)》(1944)をはじめ、戦時中に描かれた女性たちの姿が紹介される。
鈴木良三は、病院の院長を務める父のもとに生まれ、自身も東京慈恵医大で学びながらも、画家として活動した人物。太平洋戦争中の1943年、陸軍参謀本部と日本赤十字の依頼により従軍画家を委嘱されてビルマ方面に赴く。本展出品作の《患者後送と救護班の苦心》(1943)には、白衣を着た従軍看護師たちの姿が描かれている。
鈴木誠《皇土防衛の軍民防空陣》(1945)は、作戦記録画のなかで「銃後」をテーマにした数少ない作例のひとつ。手前にはバケツなどを手に、空襲で燃え上がる火の消火活動に奮闘する女性たちが描かれている。
同じく空襲をテーマにしたものとして、『主婦之友』に掲載された杉浦幸雄の「連載漫画 頑張れ!! ハナ子さん一家ハリキリ防空演習の巻」は、まだ1941年という公開時期もあってか、思わず笑ってしまうユーモアに満ちたマンガ作品で興味深い。
新収蔵作品である和田三造 「昭和職業絵尽」シリーズは、昭和期の働く人々をとらえた作品で、少しずつ消えゆくモダンな都市生活や、戦争のために働く人々などが生き生きと描きこまれている。当時の世相を色濃く反映した作品だ。
もうひとつ、新収蔵作品である朝倉摂の《うえかえ》(1941)は、女性の姿を描くことが多かった作家としては、珍しく男性をモデルに銃後の日常生活を描いた珍しい作品。ほかに桂ゆき(ユキ子)や丸木俊(赤松俊子)といった女性の画家による作品も展示されている。
また部屋は異なるが、2階11室 「記憶と想起」では、現代アーティスト嶋田美子の新収蔵品を展示。太平洋戦争期の報道写真を引用し、戦時下の女性像を再考する銅版画シリーズなので、こちらも合わせて鑑賞したい。

ほかに、「所蔵作品展 MOMATコレクション」では、企画展「アンチ・アクション」に合わせて、「アクション前夜」「『…アクション!』&『…カット!』」という展示も。企画展と合わせて、ぜひコレクション展示室にも足を運んでほしい。
福島夏子(Tokyo Art Beat編集長)
「Tokyo Art Beat」編集長