ミューぽんは、Tokyo Art Beatによる都内の美術館の割引券を集めたiPhoneアプリ。美術館の新しい楽しみ方が発見できるイベントの第3弾として、ミューぽんユーザーを対象に対話型鑑賞 in 東京都現代美術館を企画しました。
今回の舞台となったのは、東京都現代美術館で開催中の企画展「ゼロ年代のベルリン -わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)」。ベルリンに住む18組のアーティストによる力強く、鮮烈な作品が紹介されています。
今回のイベントのために特別に貸し切られた閉館後の美術館。
夜の美術館という、普段訪れるときとは少し違う空気の中で、イベントは始まりました。
「対話型鑑賞」とは、「みる」「かんがえる」「はなす」「きく」という4つを基本にしながら、美術の知識だけに頼らず、みる人同士の対話を通して、作品の理解を深めていくための鑑賞方法です。
「みる」直感を大切にしながら、まず作品をじっくり見る
「かんがえる」なぜ自分がそう思ったのかについて内省する
「はなす」自らの中に湧き上がった思いや疑問を言葉にして他の鑑賞者に伝える
「きく」他の鑑賞者の声にきちんと耳を傾ける
今回もこれまで同様、ナビゲイターに対話型鑑賞の研究・実践をされている平野智紀さん(@tomokihirano)をお迎えしました。
まずは、グループに分かれて自己紹介。参加者の皆さんには事前に、本展の出展作品の中から、ヨン・ボック《バウフヘーレ・バウヘン》の映像スティルを取り上げて、どのようなシーンを描いたものなのかストーリーを想像してツイートしてもらっていたので、自分がつぶやいた内容を語り合いながら、あっという間に場の雰囲気がほぐれました。
今回の参加者は5歳の子どもから、大学生、主婦、会社員、ライター、俳優の方までと多彩でした。異なるバックグラウンドをもつ皆さんが一緒に鑑賞していく中で、どんな意見が生まれていくのでしょうか。
1作品目は作家のサイモン・フジワラと実父カン・フジワラによるユニット、フジ・リユナイテッドによるインスタレーション、《再会のための予行練習》。
「舞台」の上にはテーブルと椅子が並べられ、床には割れた陶器の破片が散乱しています。「客席」「舞台裏」もあって、劇場のようです。「舞台裏」では作家本人が出演している映像が流れています。
「どうして(陶器が)割れているの?」
という5歳の男の子からの純粋な質問からスタートしました。まだ少し緊張していた空気は一気に柔らかくなり、参加者の方から作品に対する意見が次々と出てきました。
「鑑賞用の椅子が作品の周りに置いてあるので、これから何かが起こるのではないかと思っていた」
「割れたままの食器や、いま立ち上がったかのような椅子の状態をみて、とても感情的なシーンを描いた作品に見えた」
(参加者のコメント)
対話を重ねるうちに、また次の疑問が持ち上がってきました。
「割れた陶器はバーナード・リーチの作品とのことですが、これって本物なんですか?」
「お芝居のように全部つくりもので嘘なのか、本当なのかわからない。現実とフィクションが織り交ぜられていて……」
「結局、息子は作品を通じて父親と何を話したかったのだろう?」
(参加者のコメント)
他の人の意見を聞いていくと、たくさんの要素が入れ子のように重なり合い、交錯する複雑な作品であることが分かってきました。映像を見たり、対話を通して次々と他の人からの新しい視点が加わったことで「より分からなくなる」という不思議な体験。しかしながら、一人で鑑賞したときよりも作品の本質へ迫っていけるような鑑賞の時間でした。
あっという間に時間は流れ、お題は次の作品へと移動します。
アトリウムの広い空間に現れたのは、イザ・ゲンツケンによる作品《ベルリンのための新建築》。いくつもの高い台座の上に、身近な素材で作られた色彩豊かな立体作品がそびえ立ち、空間を斜めに横切るようずらりと一列に並びます。
「プラスチックや養生テープで作られているので、作品というより仮設の状態のよう。おもちゃっぽい」
「親近感のある素材を使うことで、近づいてみたくなる」
(参加者からのコメント)
参加者の皆さんから一通り意見が挙がったところで平野さんから、この作品の着想の元となった、ドイツの建築家、ミース・ファン・デル・ローエによる高層ビル案の写真を紹介。絶妙なタイミングで作品のバックグラウンドについての情報が加わり、学芸員の吉崎和彦さんからも解説が入ることによって、ぐっと対話に広がりが出てきました。
「高層ビルをイメージした作品だとわかってから、使われている素材一つ一つに別の意味を感じるようになった」
「ベルリンの未来がこうあってほしいという希望が含まれているんだろうか?」
「逆に、今のベルリンの建築に対して批判的な視点からつくられた作品なのかもしれない」
(参加者からのコメント)
スタイリッシュな高層ビルと、身近な素材で作られたこの作品とは対称的です。そのギャップの意味は何か、作家は何を考えて作品を作りだしていったのか。それぞれがベルリンに対してもっているイメージを聞きながら、改めて作品を眺めていると、訪れたことがないベルリンの街の雰囲気が浮かび上がってくるようでした。
初めて見たときには素通りしてしまった、という方が多い作品でしたが、対話を通してどんどん見え方が変わり、作品のもつ魅力に気づくことができました。
今回の体験を通して、自分が作品に注目する部分と、他者が注目する部分の違いについて、ひとつ思うことがありました。なんの知識もなく、作品を初めて見たときに「作品のこんなところが面白い、作家はこんな意図で作っている」と思った部分は、自分が過去に経験したことや自分自身の性格を反映しているのではないか、ということです。
「作品を鑑賞して得るファーストインプレッションは、自分自身を映しだす鏡である」
そう考えながら作品を鑑賞していくと、新たな発見と面白さをより多く見つけることができるのではないでしょうか。
是非、気の合うお友だちと一緒に気になる作品をみつけて、対話型鑑賞にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。「ゼロ年代のベルリン -わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)」は東京都現代美術館にて、1月9日まで開催中です。
懇親会会場:レストラン コントン content
<友だちとやってみよう>
平野さんが提案している、友だちと気軽にできるアクティビティです。展覧会を見終わったあと、美術館併設のカフェなどでコーヒーを飲みながら試してみましょう。
平野さんによる紹介がウェブサイトに掲載されています。
1. 展覧会を見る
各自、自由にひととおり展覧会を見て、お気に入りの作品を探します。
2. 一番好きだった作品について、5分間で紹介する
トークだけで友だちに作品の魅力を説明します。
作品について深く解説しても、展覧会のキャプションに書いてあった作品の歴史を暗記して伝えても、自分の人生に引きつけて語ってもOK。
3. もう一度、作品を見に会場に戻りたい、と思わせた人が勝ち!
他人の感想を聞いたあとに作品を見ると、最初とは違った見え方をするでしょう。
[執筆協力]
山崎智佳:岡山生まれ、岡山育ち。上京して武蔵野美術大学でデザインを学ぶ傍ら、アートマネジメントの授業を機に日本でのアートの在り方についても興味を持つ。最近では現代アートから得られる新しい発見や感動に夢中。学んでいるデザインとうまく繋げることで、もっとたくさんの人にこの発見や感動を伝えられないか、日々模索中。