国立西洋美術館 撮影:編集部
国立博物館と美術館を運営する3つの独立行政法人(国立文化財機構、国立美術館、国立科学博物館)に対し、今後5年間で入館料などの自己収入を増やす数値目標を設定した文部科学省の中期目標が波紋を呼んでいる。公費依存の抑制を目指し、来館者数の大幅増加や訪日外国人客と国内居住者を別料金にする「二重価格」の導入も求めているが、その内容に妥当性と実現性は十分にあるのか。元文化庁長官で考古学者・美術史家の青柳正規・多摩美術大学理事長に見解を聞いた。
青柳氏は1944年生まれ。東京大学文学部教授、国立西洋美術館館長、独立行政法人国立美術館理事長などを歴任。2013年に民間出身として5人目の文化庁長官に就任した(16年まで)。現在、山梨県立美術館館長と石川県立美術館館長、奈良県立橿原考古学研究所所長も務める。文化行政とミュージアム運営、学術研究の3分野に精通する数少ない専門家だ。
──青柳さんは2013~16年に文化庁長官を務めました。国立博物館・美術館の自己収入の拡大を数値目標として掲げた文部科学省の次期中期目標をどう見ますか。
独立行政法人の中期目標は、基本的に所管する省庁が中心となって文案を作り、それを財政面から財務省がチェックする作業などを経て策定されます。ところが今回の中期目標を見ると、従来と比べて財務省のイニシアチヴが強いように感じられます。「心を育む文化の育成に寄与する」という文化政策の前提よりも、経済の論理が前面に出ている印象です。もちろん公的機関に財政規律は必要ですが、文化施設の場合は短期的な効率だけでは測れない価値が本質にあり、それがどこまで中期目標に汲み取られたかという点を慎重に見極める必要があります。
──どの点に経済の論理が表れていますか。
象徴的なのは、自己収入比率の数値目標や「再編」という言葉ですね。これは文化行政の現場から出てきた発想というより、効率性・収益性を重視する財政当局側の考え方に近いように思います。本来なら公の博物館・美術館の中期目標は、何を収集してどう保存し、どのような調査研究を積み重ねて、それらをいかに社会に還元していくかという活動の中身が中心に置かれるべきですが、今回は明確に目標とする数値を掲げています。そうなると、どうしても計測可能な部分だけが評価の焦点になります。でも、文化の本質的な価値は数字では測れないはずです。
