会場風景より、《観音菩薩立像(百済観音)》(飛鳥時代)
奈良国立博物館(奈良博)にて、開館130年を記念した特別展「超 国宝―祈りのかがやき―」が開催されている。仏教美術を専門とする同館の研究員が厳選した仏像・神像・仏画・経典・仏具など、日本の宗教美術を代表する国宝が一堂に会する。会期は6月15日まで。
本展は全7章で構成され、それぞれの章が奈良博と日本の精神文化、そして仏教・神道美術の深い歴史を掘り下げる内容となっている。

明治維新という激動の時代のなか、仏像を始めとする多くの文化財は散逸の危機に晒された。第1章「南都の大寺」では、そうした貴重な文化財を守るために設立された奈良博の原点を見つめる。東大寺や興福寺といった南都の名刹に伝わる仏像群が集結し、奈良博が地域の信仰と文化に支えられてきた歴史を体現する。


その歩みをさらに深く掘り下げるのが、第2章「奈良博誕生」。1875年に始まった「奈良博覧会」を起点に、1895年の帝国奈良博物館(現・奈良博)開設へと至る軌跡を紹介する。

続く第3章「釈迦を慕う」では、仏教の中心的存在である釈迦への信仰に光を当てる。飛鳥寺の舎利埋納から律宗の僧・叡尊による舎利信仰まで、釈迦を慕う思いが生み出した各時代における名宝を展示。時代を超えて人々の祈りを受け止めてきた造形美に出会うことができる。


信仰が生み出した「美」に焦点を当てるのが、第4章「美麗なる仏の世界」。美しい彩色や截金を駆使した平安仏画、鎌倉期の精緻な彫刻、そして「地獄草紙」や「病草紙」など、救済と苦悩を描いた対照的な世界観も展観される。


仏教に先立つ信仰にも目を向けるのが、第5章「神々の至宝」。石上神宮の七支刀や神像、神宝など、神道美術の名品を通じて、日本文化の根底にある“神への祈り”の姿が浮かび上がる。仏教と神道が重なりあう、日本独自の精神世界に触れられる内容だ。


第6章「写経の美と名僧の墨蹟」では、経典を書くこと自体が祈りとされた時代の美を紹介。煌びやかに装飾された写経や、日本の名僧たちの墨蹟を通じ、書そのものが祈りとなった時代の美意識を読み解く。

そして最終章「未来への祈り」は、弥勒信仰を軸に「時を超える祈り」を展望する。中宮寺の菩薩半跏像を始め、写経の埋納や遺された文化財が、未来への希望と責任を静かに語りかける。

本展で紹介される作品は、奈良県が誇る208件の国宝のなかから選ばれた名品。国宝彫刻の約半数が集中する奈良という地の利を活かし、現地でしか見られない仏像や工芸が揃うのは、奈良博ならではの醍醐味だ。本展を機に、奈良の町並みや社寺を巡る旅もぜひあわせて楽しんでほしい。
