大竹伸朗の個展「残景」が、東京のTake Ninagawaで10月30日〜12月18日に開催される。
2022年には東京国立近代美術館で回顧展が予定され、ハワイ・トリエンナーレへの参加も控えている大竹。それらに先立つ本展は、ギャラリーでは5年ぶりの新作展となる。開幕を前に、29日午後に会場でプレス・プレビューが行われ、大竹と蜷川敦子(Take Ninagawa代表)の対談が行われた。
2019年以降、コロナ禍のなかで制作されたという30点以上の新作から、今回は14点を展示。長年「記憶」をテーマに制作してきた大竹だが、本展の「残景」というタイトルには、「自分の記憶や体験してきたことの先に出てくる風景。記憶の果てに浮かぶ風景」という意味が込められているという。
大竹は様々な素材を用いた多層的な平面作品を制作してきたが、今回の新作群はこれまで以上に立体的で厚みがある。廃屋となった工場の天井板や段ボール箱をはじめ、多様な紙や布類が用いられており、大竹の言葉を借りると「でっぱり」が印象的だ。その様子からは建築のマケットや、ビルが並ぶ街を上空から眺めた風景なども想起させられる。
「10代で油絵を独学で始めたが、絵具がでっぱった作品が好きだった。その気持ちが未だに消えない」と大竹は語る。
また、来年開催予定の回顧展は、2006年「大竹伸朗 全景 1955-2006」(東京都現代美術館)以来、16年ぶりの回顧展だ。
「全景」は美術館の3フロアを使い、30年以上におよぶ活動で制作された代表作から未発表作、新作などを一挙に展示した異例の規模の展覧会で、大きな注目を集めた。
大竹は、1988年に愛媛県宇和島へ拠点を移してから「全景」開催までをこう振り返る。
「現代美術は都会のなかで文脈が成り立っていて、そこでは独りよがり(な表現)でもわかってくれる人がいる。宇和島で経験したのは理不尽さ。解決しない理不尽さを自分のなかでどう消化していくかが重要だった。そのためには制作するしかない。『なぜそんなにたくさんの作品を作れるのか』と聞かれることもあるけど、一言では答えられないですよ。そこにはたくさんの思いが積み重なっているから。制作は息をするのと一緒なんです。自分が生きてきたことを、(制作を通して)ぶちまけないといけなかった」。
「『全景』でやったのは、宇和島で制作したすべての作品、4トントラック27台ぶんを壁にかけることだった」。
「全景」以降、ドイツ・カッセルでの「ドクメンタ(13)」で発表した《モンシェリー:自画像としてのスクラップ小屋》(2012)や、「ヨコハマトリエンナーレ2014」で発表した《網膜屋/記憶濾過小屋》(2014)をはじめ、大竹の作品は巨大なものが増えている。また代表作である公共浴場《直島銭湯「I♥湯」》(2009)や、同じく瀬戸内海を舞台にした「女根」などのパブリック・ワークも多く手がけている。
約40年におよぶ作家活動の集大成となる回顧展について、「『全景』とは全然違うものになる」と作家は語る。その全貌はまだわからないが、開催を楽しみに待ちたい。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)