公開日:2022年1月19日

見過ごすべきではない「トップ20」、ダミアン・ハーストの大邸宅問題、転売と攻防、OpenSeaの跳躍など:今週の世界注目ニュース

世界の潮流を知るうえで知っておきたい注目ニュースを、ニューヨークを拠点とする藤高晃右がピックアップ。

Atchugarry Museum of Contemporary Art(アチュガリー現代美術館、MACA) Credit: Pablo Atchugarry Foundation 出典:https://variety.com/2022/film/global/atchugarry-museum-of-contemporary-art-uruguay-1235148849/

いま、世界のアート界では何が起こっているのでしょうか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。2022年初ニュースの今回は、1月1日〜14日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「2021年の振り返り」「オミクロン株の影響」「できごと」「NFT関連記事」「おすすめの読み物とポッドキャスト」の5項目で紹介する。

2021年の振り返り

◎見過ごすべきではない隠れた「トップ20」
2022年のトップは敬愛するアートメディアHyperallergicが選ぶ2021年の「Powerless 20」から。大金持ちコレクター、メガギャラリー、資金力の豊富な巨大美術館の影に隠れて見過ごされがちで、一般的な意味では影響力が強いとは言えないかもしれないが、アートにとって重要なことや出来事20を、ユーモアを交えながらも真剣に選んだ記事。
https://hyperallergic.com/703310/the-20-most-powerless-people-in-the-art-world-2021-edition/

オミクロン株の影響

◎フェアは続々延期に
欧米でオミクロン株によりコロナ陽性者数が激増しているが、その影響でNYのアウトサイダーアートフェア、ニューデリーのインディアンアートフェア、オランダのTEFAFが延期を決定。続いてロンドンのロンドンアートフェアも延期を決定。SF、LAの1月のアートフェアは出席者のワクチン接種証明を求めるかたちで予定通り開催される。
https://www.artnews.com/art-news/news/omicron-art-fairs-winter-2022-1234614968/

◎美術館スタッフの陽性者急増で休館を決定
ミズーリ州のセントルイス美術館では、職員のあいだでコロナ陽性者数が急増したことで、美術館を開館しておくことができなくなり、1月いっぱいの休館を決定。2月1日から再開予定。職場でのクラスターというわけではなく、職員たちが家族などと過ごした冬休みから戻ってくる際に急増したとのこと。
https://www.ksdk.com/article/news/health/coronavirus/saint-louis-art-museum-closing-january-covid-cases/63-02ad4c0d-a1b9-482f-adff-def73c455b53

◎MET、監視員の時給をアップ
メトロポリタン美術館が、コロナに起因する人手不足のあおりで監視員の時給を引き上げることを決定。コロナ禍のロックダウン中に約120人リストラされていた。$15.51だった最低時給(州の定める最低時給は$15)を$16.50(約1900円)に。コロナ前は404人いた監視員は、現在は300人程度。人手不足により本館の2割程度の展示室は閉まっている状態。
https://www.nytimes.com/2022/01/11/arts/design/met-museum-guards-pay-covid.html

できごと

◎襲撃事件をモチーフとした絵画に批判
2021年アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件から1年。NYでも事件に反応したアート作品の展覧会がいくつか開催されている。そのなかでも著名作家のポール・チャンが、彼のこれまでの作風を踏襲した風刺を効かせた大型素描の作品をグリーン・ナフタリ・ギャラリーに展示。作者の意図を理解したうえでも、死者まででた事件の描写として軽すぎるのではと批判が集まっている。
https://www.nytimes.com/2022/01/13/arts/design/artists-responses-january-6-chan.html

◎SATC続編の主要キャラクターは黒人作家コレクター夫妻
現在放映中のセックス・アンド・ザ・シティの続編ドラマ『And Just Like That…』中で黒人作家の作品を集めるコレクター夫婦が登場。時代を反映しているとはいえ、テレビの主要な登場人物としては異例。プロデューサーが作品セレクションをキュレーターと協働したことで、登場作品はミカリーン・トーマスをはじめしっかりとしたものになっている。テレビを通して黒人作家の作品群が世界に力強く伝播されていく。プロデューサーとキュレーターのインタビュー記事。
https://www.townandcountrymag.com/leisure/arts-and-culture/a38685357/and-just-like-that-art-keli-goff-racquel-chevremont-interview/

◎南米ウルグアイで初の大規模現代アート美術館
南米ウルグアイではじめて大規模な現代アート美術館が開館。Atchugarry Museum of Contemporary Art(アチュガリー現代美術館、MACA)という名称で海辺の高級リゾート地のプンタ・デル・エステという街に建設。新しくARCAという国際映画祭もそこでスタートする。
https://www.artnews.com/art-news/news/atchugarry-museum-of-contemporary-art-opens-uruguay-1234615306/

◎ダミアン・ハーストの大邸宅問題
ダミアン・ハーストは、2005年イギリスのコッツウォルズに約6億円で19世紀の大邸宅を購入。自邸兼ギャラリーにする計画だった。自作のマーケットが低迷し2012年に妻と離婚後、改装がストップ。17年後のいまも遠くからも見える巨大邸宅に白いカバーがかけられて景観を壊していると問題になっている。
https://www.theguardian.com/artanddesign/2022/jan/08/first-a-pickled-shark-next-up-for-damien-hirst-his-white-elephant-manor-house

◎話題の没入型展覧会の次のテーマ
没入型展覧会はゴッホ、モネときて、次はダ・ヴィンチのモナリザ。ルーブルとグラン・パレのイマーシブ部門が共同で開催する。グラン・パレ・イマーシブは新しいデジタル展マーケットのキープレイヤーになることを目指していると宣言。確かにデジタル没入型展覧会は世界中で大きなビジネスになってきている。
https://www.artnews.com/art-news/news/mona-lisa-immersive-experience-marseille-1234615532/

◎詩人の美術館レジデンスプログラム
グッゲンハイム美術館が、はじめてポエット(詩人)レジデンスプログラムをスタート。年間を通して、展覧会ともコラボレーションしながら、詩の朗読、ワークショップ、パフォーマンスなどが開催される。館内の図書室内にインタラクティブな詩のスペースも作られる。
https://poets.org/guggenheim-launches-first-ever-poet-residence-program-collaboration-academy-american-poets

◎性的暴行疑惑でビエンナーレ参加キャンセルへ
今年のヴェネチア・ビエンナーレの台湾館で展示予定だったSakuliu Pavavaljungに対して、性的暴行の嫌疑が複数名からあがったことを受け、コミッションがキャンセルされた。次回ドクメンタにも出展予定だったが、すでに事実確認のために出展保留になっていた。
https://www.artnews.com/art-news/news/sakuliu-pavavaljung-venice-biennale-documenta-sexual-assault-allegations-1234615529/

◎明るみに出た転売とそれをめぐる攻防
ある若者アートコレクター2人の仲違いが訴訟に発展。そこから思わず、訴えた側であり北京に美術館を持つ中国人コレクターが美術館のために作品を買うと言いながら(転売禁止の契約を破って)友人に10%のコミッションを載せて転売していたことが明るみになってしまった事件の顛末。短期的な転売益をねらうフリッパー(転売目的で買う人物)と、それを防ごうと転売禁止契約をつけて販売する大手ギャラリーの裏の攻防が見えてくる。
https://news.artnet.com/art-world/explosive-lawsuit-michael-xufu-huang-back-room-dealings-2059362

NFT関連記事

◎OpenSeaの跳躍
NFTのマーケットプレイスNo.1のOpenSeaがなんとシリーズCの資金調達の結果、バリエーションが1.5兆円を超えて一気にデカコーンに。去年7月のシリーズBの評価額から一気に約9倍。直近1ヶ月の作品流通額はなんと2700億円を超えるとのこと。
https://www.coindesk.com/business/2022/01/05/nft-marketplace-opensea-valued-at-133b-in-300m-funding-round-report/

◎NFT作品をページに入れる? 入れない?
Wikipediaの存命のアーティストによる高額作品ランキングのページに、BeepleやPakのNFT作品を入れるべきかどうかという議論が勃発。議論では結論が出ず、そのページを担当する6人の編集者で採決をとることに。結果うち5人が入れるべきでないという意見になったため、クリプト業界から異論が噴出している。
https://news.artnet.com/market/wikipedia-editors-nft-art-classification-2060018

おすすめの読み物とポッドキャスト

◎伊藤穰一+南條史生の対談
実業家のJoi Ito(伊藤穰一)がホストになり、元森美術館館長の南條史生と、NFTとアート業界の温度感について、現状の状況がすっきりと語られている日本語のポッドキャスト。どちらかというとアート業界にいる自分にとって、 南條のアート業界からの目線にはうなずけるし、JoiのどちらかというとNFT業界からの視点はフェアで、NFTについて新しく気付かされることもいくつかあった。
https://open.spotify.com/episode/1Z7Bqy30yIMZguMS7eLNgi

◎問題の年金基金のゆくえ
世界中2000人以上の作家の作品を集めた互助的な年金基金Artist Pension Trustが2004年にできたが、当初のユートピア的な目的とは裏腹に、少しずつたちゆかなくなって、現在実質的に破綻状態に追い込まれている。作品を預けている作家たちからの問い合わせにも返事が来ず、一部の作家たちのあいだでは集団で弁護士をたてて、少なくとも作品を取り戻そうとする動きが出ている。プロエジェクトの成り立ちから現在までの状況を追った詳細レポートを前後半2つの記事で。
https://news.artnet.com/art-world/artist-pension-trust-rise-fall-part-one-2058236
https://news.artnet.com/art-world/artists-pension-trust-rise-fall-part-two-2059097

◎ジェームズ・アンソールの個展
19世紀ベルギーの画家ジェームズ・アンソールの個展がひっそりとNYアッパーイーストサイドの老舗ギャラリー、グラッドストーンで1月15日まで開催されていた。彼の初期のマスクや肖像画の絵画、素描を集めた展覧会のレビュー記事。作品とともに彼のコレクションであった能面なども展示されている。
https://www.artnews.com/art-in-america/aia-reviews/james-ensor-gladstone-gallery-1234615018/



Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。