公開日:2020年3月31日

「オリジナル」の光景を切り撮る嗅覚。DIESEL ART GALLERYで個展開催中のストリートフォトグラファー・RKインタビュー

世界各地のストリート、建造物、自然などを幻想的な色彩で切り撮るストリートフォトグラファー

2020年3月時点で、Instagramのフォロワーは約45万人。ストリートフォトグラファー「RK」は、幻想的な色彩、グラフィカルで強度のある構図で、アジアを中心に各地のストリートを切り撮ってきたアーティストだ。2018年、合成と見紛うような富士吉田市の光景をInstagramアカウントに投稿したことで、さらに知名度を上げた。

RK
RK
Photo by Xin Tahara

「Instagramはパクり・パクられの世界。富士吉田市の写真も、あたかも“自分がオリジナル”と言わんばかりにたくさん人が同じ構図で撮影しています。“Inspired by RK”とかクレジットがあればこっちも気持ちいいのですがそういう文化がいまはないので(笑)。でも今回の個展では、まだ僕しか撮っていない光景をたくさん見ることができると思います」。

この富士吉田市をはじめとしたRKの代表作、未発表の新作に加え、カタログやTシャツ、ポストカードといった展覧会限定オリジナルグッズも並ぶ展覧会「NEOrient(ネオリエント)」は、DIESEL ART GALLERYで5月21日まで開催されている。

iPhoneフォトグラファーとしてのスタート

RKは1982年茨城県生まれ。高校時代は野球部に所属し、全国ベスト4に入る強豪校で野球に没頭した。その後はDJとしての活動をスタートし、グラフィックデザイン会社に勤務する傍ら、2013年にランニングクルー「AFE TOKYO」の専属iPhoneフォトグラファーに。その後、ストリートフォトグラファーになったという経緯を持つ。

「20代の頃に働いていた会社がデスクワークだったのですが、その影響でだんだん太ってきてしまって。AFE TOKYOのクルーに混ざって毎週走るようになりました」。

もともとAFE TOKYOのファウンダー・DKJの知人でもあったというRK。毎週のランニンング参加をきっかけに、Instagram掲載用の写真を収めるiPhoneフォトグラファーに抜擢されることになる。「先輩であるDKJさんの頼みだったので二つ返事で引き受けました」と振り返るが、国内外から注目を集めるAFEの仕事は大きなプレッシャーでもあったと言う。そしてプレッシャーはその後、RKが雑誌の仕事をきっかけに、一眼カメラを手にした後も続いていく。

「雑誌の撮影の依頼を受け “iPhoneで撮影してもいいですか?”と聞いたら当然、断られてしまったんです。そんなタイミングで僕の彼女が一眼カメラを買ってくれて、もうやるしかないな、と。僕は、画像の色調加工に強いこだわりを持っているので、数年かけて何度もノイローゼになりながら納得のいくプリセット(画像加工ソフトの設定)をつくりました」。

また、ことパーソナルな撮影に際しては、ロケハンは一切しないという。

「海外では“ここがよさそう”という嗅覚を頼りに即興的に撮影します。たまに危険な場所もあるので、僕とモデル、たまに現地ガイドという最小限の撮影クルーで身軽さを心がけています。パクリフォトグラファーたちとは、そういう嗅覚の違いで差をつけていくしかないんですよね」。

「NEOrient」展の会場。中央のターンテーブルには、RKが「音を実際に聴ける写真」として制作したレコード5枚が並ぶ
「NEOrient」展の会場。中央のターンテーブルには、RKが「音を実際に聴ける写真」として制作したレコード5枚が並ぶ
Photo by Kenji87

強くて良い写真を撮るためには何でもする

RKがこれまで幾度となく撮影してきた人物のひとりに、アーティストの村上隆がいる。RKはこれまで香港、カリフォルニアなど、村上の渡航先に同行し、取り巻く状況を収めてきたが、ふたりの出会いのきっかけもInstagramだったという。

「2019年、ファレルがバージニアで主催したフェス『Something in the Water』に行き、カメラを持ってうろついていたんです。そうしたら現地のキッズに“フォトグラファーか? インスタを見せて”と声をかけられて、“おまえ、村上隆にフォローされてるよ!”って。すぐにフォローバックしたら当日の夜にDMをいただいて、それから仕事をするようになりました。村上さんにはアートやセレブリティの華やかな世界を教わり、僕としては勉強の日々です」。

「NEOrient」展の会場。左から2番目が、村上隆が被写体となった写真作品
「NEOrient」展の会場。左から2番目が、村上隆が被写体となった写真作品
Photo by Kenji87

今回の「NEOrient」展では、村上がモデルとなった写真も展示。その村上の写真からもわかるように、RKの写真をつかさどるのは看板、ちょうちんといった「モノ」がひしめくバックグラウンドと構図の強度、鮮烈で幻想的な色彩だ。本展では、そうした世界観が最大限に生かされるような展示方法としてフォトアクリルが用いられている。

「Instagramで写真を見る人たちというのは結局、発光したバックライト越しのイメージを楽しんでいるんです。すると、僕の写真をRGBからCMYKへ変換し印刷しただけでは、何度色校を重ねても弱く見えてしまう。強度を保つためにも、印刷したイメージとアクリルの質感の組み合わせは絶対に必要でした。また今回、縦型のディスプレイはスマホ画面の延長としての試みでもあります」。

「NEOrient」展の会場。アクリルの反射はディスプレイのバックライトを意識している
「NEOrient」展の会場。アクリルの反射はディスプレイのバックライトを意識している
Photo by Kenji87

「NEOrient(ネオリエント)」という本展タイトルは、RKの作品に頻繁に現れる真紅やアジアの街並みが喚起させるオリエンタリズム、マンガ『AKIRA』の舞台「ネオ東京」といった要素を組みわせたもの。そうしたエピソードからも、RKの作品の背景には『AKIRA』をはじめ『ブレードランナー』といったサイバーパンクの影響もあるようにも見える。しかし、RKが「一番影響を受けた」と語る作品は少し意外なものだった。

「僕は『竜二』(1983)という映画が、劇中のセリフを全部覚えているくらい大好きなんです。自分のDJの下積み時代を思い出す、蹴られ殴られの世界があって、ヤクザ映画なのにピストルは一切出てこない。そんな『竜二』の何に影響を受けたかというと、きっと反骨精神みたいなものだと思います。僕は、強くて良い写真を撮るためにならどこにでも行くし、Photoshopで星だって付け加える。“写真家なのにPhotoshopで加工するな”なんて陰で言う人たちもいますが、そもそも“写真家”というこだわりもないので」。

■展示概要
タイトル:NEOrient
アーティスト:RK
Instagram:https://www.instagram.com/rkrkrk/
会期:2020年2月28日〜5月21日
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号:03-6427-5955
開館時間:11:30〜21:00
休館日:不定休
ギャラリーウェブサイト:https://www.diesel.co.jp/art/rk/

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

Editor in Chief