公開日:2022年8月25日

美術館では初の個展開催。「今井俊介 スカートと風景」フォトレポート

具象と抽象、アートとデザインを跳躍する絵画。丸亀市猪熊弦一郎現代美術館にて開催されている、今井俊介の個展の様子をお届け

会場風景より

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館にて、今井俊介の個展「スカートと風景」が開催されている。会期は11月6日まで。担当学芸員は竹崎瑞季。

今井俊介は1978年福井県生まれ。2004年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。主な個展に「第8回 shiseido art egg 今井俊介 range finder」(資生堂ギャラリー、東京、2014)、「float」(HAGIWARA PROJECTS、東京、2017)、「range finder」(Kunstverein Grafschaft Bentheim、ドイツ、2019)。その作品は東京都現代美術館福井県立美術館などに収蔵されている。

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館入り口。丸亀駅の目の前に所在している
今井俊介《untitled》制作風景 撮影:田中和人

「スカートと風景」というタイトル

本展のタイトル「スカートと風景」は、今井の作風に由来する。大学の助手時代、制作方法については確立を感じるいっぽう、何を描くべきか、モチーフが定まらないことに苦しんでいた今井。そんなとき、ふと目にした知人のスカートに見惚れたという。人の動きとともに揺れ動くスカートに、特別な「風景」を見出したという体験が本展のタイトルになった、というわけだ。

「ボリューム感を描かなくてもボリュームが見えてしまう絵を描きたかった」(展示内「今井俊介 スカートと風景」アーティスト・インタビューより[撮影・編集:西野正将])と絵画制作のモチベーションを語る今井。そのための模様としてはストライプがもっとも適していたという。展示室入ってすぐ左手に配されたNo.1の作品は、その原点。具象と抽象、アートとデザインといった境界を軽やかに跳躍するような、その後の作風を方向付ける作品だ。

会場風景より、右から2011年(No.1)、2012年(No.2)、2012年(No.3)の作品(本展に出展された今井個人による作品はすべて《untitled》であり、通し番号が振られている)
会場風景より

形と視点から構図を決める

ともすれば今井の作品は、たんにキャンバスにアクリル絵具を塗り分けただけの、平面構成に思えるかもしれない。しかし、その制作はより複雑で独特だ。その手順は、まずパソコン上でグラフィックを作ることから始まる。続いて、できあがったストライプやドットの図柄を紙にプリントアウト、その紙を折るなどして歪ませた状態で撮影する。その画像データから切り抜いた部分を、絵画として描くモチーフとしている。

デジタルなツールを用いて、描くべき構図を完全に決めてから、キャンバスに向き合うという特異な作風。抽象的な色面に見えつつも立体感や運動感を思わせる作品は、今井がどのようにして図柄やまなざす方向、構図を選んだのか、想像をかきたてさせる。

会場風景より。中央に置かれた布を見るアングルを変えていくと、壁面の絵画作品と同じ図柄の配置が見えるかもしれない
会場風景より

色彩とコラボレーション

描かれたフォルムのみならず、鮮やかな色彩も作家の独自性のひとつ。これは、今井がファストファッション店で、色ごとに高く積み上げられた洋服を見て、「色に溺れる」感覚を受けたことに影響しているという。

その印象的な色彩バランスもあって、これまでファッションブランドなどともコラボレーションを行ってきた。本展では、デザイナー・パタンナーの水戸守奏江によるエプロン(No.31)や、パジャマブランド「NOWHAW」とのコラボレーション(No.39)などが公開されている。ほかにも神奈川芸術劇場で公開された映像作家・山田晋平との共作となる映像作品(No.24)や、制作の資料、制作風景の写真なども合わせて見ておきたい。

会場風景より。手前がNOWHAWの「“day” pajama(Shunsuke IMAI)」(No.39)
会場風景より。奥左はShunsuke Imai × Kanae Mitomoriによるエプロン(No.31)
会場風景より

「風景」を見いだすこと

アートなのかデザインなのか。具象画なのか抽象画なのか。今井の作品に対してしばしば言われがちな言葉だが、作家にとっては目に見えたものを表現しているに過ぎない。それと同様に、私たち鑑賞者も見ている作品の印象を自然と自分の内面に取り込んでいる。展示内のアーティスト・インタビューで今井は、訪れる人々に向けて「スカートを見たとき、私はそれ自体を『風景』として眺めたからこそ、心が奪われたのではないでしょうか。見ている人にも描かれているものを想像することで、『風景』を立ち上げてほしいです」というように話していた。今井がスカートに、見る人のなかに入ってくる経験としての「風景」を見いだしたように、私たちも「風景」を想起することで作品をより味わうことができるだろう。
本展会期中には、瀬戸内国際芸術祭も開催されている。芸術祭と合わせて、今井の軽やかな絵画作品を鑑賞してみてはいかがだろうか。

会場風景より、田中和人が撮影した《untitled》制作風景
会場風景より、絵画制作のための道具・画材など

浅見悠吾

浅見悠吾

1999年、千葉県生まれ。2021〜23年、Tokyo Art Beat エディトリアルインターン。東京工業大学大学院社会・人間科学コース在籍(伊藤亜紗研究室)。フランス・パリ在住。