公開日:2026年7月29日

シアスター・ゲイツは、なぜ歴史と記憶を作品にするのか。西陣織とブラック・アーカイヴの再起動──「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」(文:森聖加)

京都・西陣に拠点を置くテキスタイルブランドのHOSOOと、アーティストのシアスター・ゲイツによるコラボレーション展「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」が8月30日まで開催中

「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」(HOSOO GALLERY)会場風景 Courtesy of HOSOO GALLERY Photo by Totaro Tanaka

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日本に残された黒人史。長田&石谷アーカイヴとの出会い

現代美術家シアスター・ゲイツの活動の柱のひとつにアーカイヴを扱うプロジェクトがある。ゲイツは、人々から引き受けた資料や遺されたモノを新たな文脈へ置き直して、アメリカ黒人の歴史を現在へ接続してきた。京都・西陣の老舗テキスタイルブランドHOSOOとの協働展「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」HOSOO GALLERY、4月11日〜8月30日)は、その実践の最新形だ。起点にあるのは、2024年、日本での初個展の最中に出会ったひとつのアーカイヴだった。

「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」(HOSOO GALLERY)会場風景 Courtesy of HOSOO GALLERY Photo by Totaro Tanaka

“Glorious Robe”──神々しさと祝祭性を帯びた布は、アメリカの黒人解放運動に身を投じた先人たちに捧げられている。1960年代、人としての権利と自由を求める闘いのなかで命を落とした、アフリカ系アメリカ人の指導者、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、メドガー・エヴァーズ、そしてマルコムXの3人だ。

ゲイツは、抵抗と連帯のシンボルであるフィスト・マークを西陣織の帯に刺繍し、3人の命日を刻んだ。自らは大麻糸のみを用いたHOSOO Artisanal Hempで仕立てた、ゆったりと優しく身体を包みこむ「Dashikimono(ダシキモノ)」をまといながら。

展示空間には女性の朗読が響き、小部屋にはアメリカ黒人や世界の抵抗運動に関する資料群が展示されていた。それらは、石谷春日と長田衛(故人)が半世紀以上にわたり記録し、守り続けてきたアーカイヴである。

「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」(HOSOO GALLERY)会場風景 Courtesy of HOSOO GALLERY Photo by Totaro Tanaka

1965年2月21日、ニューヨーク・ハーレムのオーデュボン・ボールルームで、石谷はパートナーの長田とともに急進的黒人解放運動指導者、マルコムXの暗殺に遭遇した。事件直後に長田が『日本読書新聞』に寄稿した「マルコムX暗殺の背景」は、日本で最初にその死を伝えた報道となる。帰国後、ふたりはスピーチ翻訳や執筆を通じて黒人解放運動の記録を日本で発信し続け、それが膨大なアーカイヴとなっていく。 2024年5月、筆者はこの資料が散逸の危機にあることを知った。そして森美術館で日本初となる個展「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(2024年4月24日〜9月1日)を開催していたゲイツへそのことを伝えると、彼はすぐに資料が置かれていた東京・上野の古書店「古書ほうろう」にやってきた。石谷に対面し、話に耳を傾ける。「マルコムXに関する知識のかたまりが、長田さんと春日さんの資料には保存されていました。事実が歪められたり、手を加えられたりせずに、この日本で、マルコムの考えを信じる人々によって守られてきたことに驚きました。まるで失われた聖書を見つけたようでした」。そう語って、資料の継承を申し出る。この出会いから「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe」は、立ち上がっている。

シアスター・ゲイツと石谷春日 撮影:森聖加
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