
会場風景より、シメオン・バークレイ《The Ruin》(2026) Photo: David Levene
今年のターナー賞ファイナリストには、マルチメディア・アーティストのシメオン・バークレイ(Simeon Barclay)、彫刻家のキラ・フレイジェ(Kira Freije)、主にインスタレーションを手がけるフランス人アーティストのマルグリット・ユモー(Marguerite Humeau)、彫刻・映像・ドローイングなど多岐にわたる制作に取り組むタノア・サスラク(Tanoa Sasraku)が名を連ねた。

2026年のファイナリスト作品展は、イングランド北部ミドルズブラにあるティーズサイド大学のミドルズブラ現代美術館(MIMA)で開催されている。大学機関でのターナー賞の開催は、今回が初めてとなる。会期は9月26日〜2027年3月29日。
ここ数年のターナー賞ファイナリストは、作家個人のアイデンティティやルーツに根ざした表現が多い傾向にあった。だが、1階フロアの3人を見終わる頃には、今年は趣が異なると直感した。
たとえば、サスラクはイギリスとガーナのミックスルーツかつクィアの作家であるが、自身のアイデンティティが前景化しない制作の在り方を探っているように思えた。また、バークレイは、移民第二世代・黒人男性・イングランド北部の労働者階級としての出自を足場にしつつも、実際に見た作品からは、個人の経験にとどまらず、コミュニティや地域といった集団が共有する記憶やアイデンティティを問うことに関心があるように感じられた。

今年の4人に共通するのは、個人の経験や存在を出発点としながら、それを超えたスケールの問題へと視野を広げる態度だ。フレイジェは具体的ないしは社会的な文脈を捨象することで人間の普遍的な感情に肉薄し、ユモーはSFやエコロジーの想像力に支えられた生命の地球史を、サスラクは土地や国と紐づいた枯渇性資源のパワーダイナミクスを、バークレイはイングランド北部の社会史を掘り下げる。ファイナリストたちが扱う素材やテーマは異なるものの、いずれも、個人と個人をとりまくより大きな外部との関係を問い直す表現だと感じた。