公開日:2025年4月25日

「浮世絵現代」が東京国立博物館で開幕。漫画家からデザイナー、現代アーティストまで、約80作家が拡張する伝統技術の可能性

水木しげる、楳図かずお、草間彌生、アントニー・ゴームリー、李禹煥、横尾忠則、名和晃平、KYNEらが現代の絵師に。会期は4月22日〜6月15日

「浮世絵現代」第1章「漫画往還」会場風景

国内外の多彩なアーティストが現代の絵師に

展覧会「浮世絵現代」が、東京・上野の東京国立博物館 表慶館で開催されている。会期は4月22日から6月15日まで。

江戸時代の文化のなかで独自に発展した浮世絵。「浮世」には、「当世風の」という意味があり、浮世絵版画は時代と社会を映し出すメディアであった。喜多川歌麿や東洲斎写楽、葛飾北斎らの作品を生み出した高度な木版画の技術は、現代まで職人たちに受け継がれている。

本展では、1928年に創業し、伝統木版画の技術を継承するアダチ版画研究所とコラボレーション。約80名の漫画家やデザイナー、アーティストらが現代の絵師となり、アダチ版画研究所の彫師・摺師たちと協働して制作した「現代の浮世絵」を展示する。

「浮世絵現代」会場入り口

漫画家が作る「浮世絵」、北斎に触発されたデザイナーたち

展覧会は「漫画往還」「北斎賛歌」「模索と実験」「現代の絵師たち」「継承と発展」の5章構成で展開される。

第1章「漫画往還」では、絵師・彫師・刷師の分業で制作され、版元が3者をまとめるかたちで世に送り出された浮世絵と、漫画家・出版社・印刷所が協働する漫画の出版における構造的な類似や、線画をベースとする両者の表現上の親和性に着目。

会場風景より、安野モヨコ《『ピオニー』パルファム》、《『さくらん』きよ葉》(ともに2016)

石ノ森章太郎、水木しげる、楳図かずお、安野モヨコ、さいとう・たかを、ちばてつや、こうの史代、池田理代子ら、漫画家たちが挑んだ「現代の浮世絵」を紹介する。歌川広重《東海道五十三次》と妖怪がコラボレーションした水木しげるの「妖怪道五十三次」シリーズ、安野モヨコ『さくらん』の主人公・きよ葉の美人画など、おなじみのキャラクターが浮世絵の世界のなかに描かれている。

こうの史代 微生物採集之圖 2020
池田理代子 道行八景 おすかるとあんどれ 2020

第2章「北斎賛歌」では、浮世絵の版下絵を木版画制作の設計図のようなものととらえ、絵師とデザイナーの関わりに光を当てる。

1986年にボストン美術館の収蔵庫から『北斎模様画譜』の版木が発見され、のちに日本に輸送されて当時の摺師によって再び摺られた。本章では、この古版木の発見を機に、北斎の優れたデザイン感覚に触発された4名のデザイナー、粟津潔、浅葉克己、佐藤晃一、松永真の作品から、木版画の素材や技法の特性を理解し、北斎のデザインの現役性を引き出すことに成功した作品を展示している。

会場風景より、浅葉克己《北斎さんの色メガネ2》、《北斎さんの色メガネ1》(ともに1987)
会場風景より、粟津潔《北斎模様・潔彩色図譜 讃鶴草》、《北斎模様・潔彩色図譜 うんすいに鶴》(ともに1987)

絵師不在の時代に新たな表現を模索したアーティストたち

浮世絵に代表される日本の伝統的な木版画は、近代以降、需要が次第に縮小し、やがて職人たちの仕事は主に既存の名画の復刻・複製となった。高度経済成長期を経て、彫師や摺師の数は大きく減少していき、新作を生み出すために協働する「現代の絵師」探しが始まった。

第3章「模索と実験」では、1970年代から2000年代にかけて、伝統木版画の彫師・摺師とともに新たな浮世絵を制作することを試みた国内外の絵師たちの作品群を紹介。田中一光、和田誠、黒川紀章、靉嘔、ニキ・ド・サンファルをはじめ、グラフィックデザインやイラスト、建築、彫刻など多様な領域の作家たちによる作品を通して、伝統技術継承の模索と実験の日々をたどる。

第3章「模索と実験」会場風景
会場風景より、和田誠《六星座“リックス・カフェ・アメリカン”オーナーの肖像》、《六星座 ポテト・ヘッド・ブルース》、《六星座 私生活 Brigitte Bardot》(すべて1979)
ニキ・ド・サンファル Strength 1973

会場2階の4つの展示室にわたって展開される第4章「現代の絵師たち」では、2010年代以降、主に「現代の浮世絵・国際創造プロジェクト」に招聘された世界中のアーティストたちによる「現代の浮世絵」を一挙展示。アダチ伝統木版画技術保存財団が手がける本プロジェクトは、彫師・摺師がアーティストとともに新作の木版画を制作するというもの。

会場風景より、田名網敬一《豊穣の庭》(2024)、《また夢は始まる》(2021)

ロッカクアヤコ、田名網敬一、N・S・ハルシャ、加藤泉、ニック・ウォーカー、ジェームス・ジーン、KYNE、町田久美、山口晃、草間彌生、アントニー・ゴームリー、李禹煥、横尾忠則、塩田千春、名和晃平など、年齢や国籍、キャリアも様々なアーティストたちが、自由な発想で伝統技術の可能性を押し広げた多様な作品群が並ぶ。

加藤泉 無題1 2020
第4章「現代の絵師たち」会場風景より、李禹煥作品
アントニー・ゴームリー RAPT 2025

最終章「継承と発展」は、アダチ伝統木版画技術保存財団が企画・監修した木版画作品が紹介される。

会場にはアーティストの制作風景をとらえた映像や、実際の版木、制作工程を解説するテキストなども展示されており、木版画の技術と表現への理解をさらに深めることができる。同会期に同じく東京国立博物館の平成館で開催されている「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」では、喜多川歌麿、東洲斎写楽らの実際の浮世絵が展示されているため、あわせて鑑賞したい。

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