公開日:2026年7月23日

ウォレス・チャンがヴェネチアと上海を結ぶ「器」に込めたもの。70歳で挑む野心的なプロジェクト

キュレーターのジェームズ・パットナムとアーティストのウォレス・チャンにインタビュー。チャンの個展「Vessels of Other Worlds」の会期は5月8日〜10月18日

左から、ジェームズ・パットナム(James Putnam)、ウォレス・チャン(Wallace Chan)

現在開催中の第61回ヴェネチア・ビエンナーレにあわせて、香港拠点のアーティスト、ウォレス・チャン(Wallace Chan)による大規模個展「Vessels of Other Worlds」が、ヴェネチアのサンタ・マリア・デッラ・ピエタ礼拝堂と、中国・上海のロン・ミュージアム(Long Museum)の2会場で開催されている。

70歳という節目の年に発表された本プロジェクトは、「Birth(誕生)」「Growth(成長)」「Rebirth(再生)」という生命の循環をテーマにしたチタン彫刻を中心に構成される。ヴェネチアでは歴史ある礼拝堂の空間にあわせた作品が展示され、上海では高さ10mに及ぶ巨大彫刻として展開。両会場はリアルタイム映像によって結ばれ、ひとつの展覧会として機能している。

なぜいま、「器」というモチーフに向き合ったのか。なぜヴェネチアと上海だったのか。そして70歳を迎えたアーティストは何を見つめているのか。展覧会を企画したキュレーターのジェームズ・パットナム(James Putnam)とウォレス・チャンにヴェネチアのオープニングにあわせて話を聞いた。

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「器」はなぜ生まれたのか

プロジェクトの出発点は、ヴェネチアのある教会で偶然目にしたひとつのモチーフだった。

「カトリック教会で、3つの聖油の器が彫られた石を見た。それがこの作品の直接的なきっかけです」とチャンは振り返る。キリスト教における聖油の器は、祝福や浄化を司る重要な象徴だ。だがチャンは、そのイメージを宗教的な枠組みだけにとどめず、もっと普遍的な存在として受け止め直した。

「器は教会にも寺院にも存在します。祝福や儀式、変容や旅立ちに関わる象徴として、文化や宗教を超えて繰り返し現れるものなんです」

ヴェネチアのサンタ・マリア・デッラ・ピエタ礼拝堂
ヴェネチア会場の「Vessels of Other Worlds」展示風景 Photo: Federico Sutera

本展では、その器というモチーフを「Birth(誕生)」「Growth(成長)」「Rebirth(再生)」という人生の3段階へと展開させている。キュレーターのジェームズ・パットナムは、この着想の背景をこう補足する。「ウォレスにとって器はたんなる容器ではありません。時間や感情、意識といった、本来はかたちを持たないものを宿す存在なんです」。

そもそも、当初の計画は実物大の3つの器をサン・アントニン教会に設置するというものだったという。「けれど床の耐荷重の制限や、ヴェネチアまで実物を運ぶ物流上の制約があって、代替会場としてピエタ礼拝堂に、より小さなバージョンを設置することになったんです」とパットナムは明かす。ちょうど同じ頃、上海のロン・ミュージアムがすでにチャンに2026年の個展をオファーしていたことから、2都市を結ぶ連動展という構想が、ごく自然な流れで生まれていった。

ヴェネチア会場の「Vessels of Other Worlds」展示風景 Photo: Federico Sutera
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